バリアートショールーム オーナーブログ
2016.9.28

絵の具からバリ絵画を見ると 前編

こんにちは、坂本澄子です。

バリ絵画の多くは、アクリル絵の具で描かれていることをご存知ですか?水て溶いて使う手軽さは水彩と同じ。乾くと水に溶けなくなるので、塗り重ねが自由にできるという利点があります。同じことは油絵の具でもできますが、乾くのになにしろ時間がかかるので、乾いては塗るのを何度も繰り返して、微妙な深〜い色合いを出すという点では断然アクリル絵の具に軍配が上がります。

acrylics実は私もバリ絵画との出会いの中で、アクリル絵の具の魅力に触れ、自分でも絵を描くときに使っています。

アクリル絵の具は絵画の歴史の中では比較的新しい画材で、商品化されたのは戦後間もないアメリカで。発色の良さや速乾性からすぐにデザイナーたちに受け入られ、ファインアートの分野でもファンを広げています。

そのアクリル絵の具、なぜバリ島の画家たちの間でこんなに普及しているのか。これは私の想像ですが、バリの自然や風物を表現するのに鮮やかな発色がマッチしていたことと、気候に左右されることなくすぐに乾くことが、ガッチリ彼らのハートをつかんだのではないかと思います。

冒頭でご紹介した塗り重ねの技法を、制作に巧みに生かしているのはLABAさんです。緑いっぱいの花鳥画はバリ島に溢れるほどありますが、やがて見飽きてしまい、何となく安っぽい感じに見えてしまう作品も少なくありません。その原因のひとつは、単調な色使いだと思うのです。

ところが、LABAさんの作品には見ればみるほどさまざまな緑が使われています。色調と明るさの異なる緑が交互に現れ、独特のリズムさえ感じます。薄めに溶いた色を幾重にも塗り重ねる技法によるものですが、透明度の高いカラーセロファンを重ねると下の色が透けて、複雑に色が変化しますよね。これと同じことが絵の具でも起こり、きれいな透明感と同時に深みも作り出しているというわけです。

少年たちの情景なかでもおすすめはこちらの『少年たちの情景』。画家が少年時代を懐かしんで描いた作品ですが、絵の手入れをしながら間近に見て、何度「すごい!」と思ったことか。写真だとお伝えしきれないのが残念です。

70x50cmと少し大きめの作品は、前景、中景、背景とそれぞれに見所があります。例えば、雲のようにも波のようにも見え想像力を掻き立ててくれる遠景。風にしなる椰子の木の迫力。模様のように簡略化された稲穂と草地が交互に繰り返されるリズム感など、絵としての面白さに溢れ、また、様々な種類の緑が素朴な表情の少年たちを引き立てながら、全体としてしっとりと調和した作品に仕上がっています。

ところで、アクリル絵の具のもうひとつの特徴はアクリル樹脂が作る強い表面です。一旦乾くと水をつけてゴシゴシやってもビクともしません。私もこれで洋服を何枚だめにしたことか(笑)ですから、絵の前にアクリル板を入れずに額装して、作品そのものの美しさを楽しんでいただければと思っています。おタバコを吸われないのであれば、お手入れは固く絞った柔らかい布でやさしく埃を取るだけでOK。

湿度の高いバリ島では、古い絵のほとんどが朽ちて残っていないという残念な歴史があります。アクリル絵の具の威力で、LABAさんのようないい絵が次の時代に受け継がれていきますようにと、願う今日この頃です。

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