バリアートショールーム オーナーブログ
2018.5.27

人間・高山辰雄展 森羅万象への道

こんにちは、坂本澄子です。

涼やかな風が頬に心地よく、よい季節ですね。

ある方に勧められ、世田谷美術館で開催中の「人間・高山辰雄展 森羅万象への道」を見に行ってきました。

東急・用賀駅から徒歩20分。閑静な住宅街です。

美術館行きのバスもありますが、様々な花が迎えてくれる美しい街並みを見ながら歩くにはちょうどよい距離。また、美術館は砧公園内にあるため、後半は大きな樹々が作り出す涼しい木陰を通ることができます。

 

実は、高山辰雄さんの作品を見たのは、今回が初めてでした。

日本画の世界では、東山魁夷、杉山寧と並び、「日展三山」と称された画家。

人間をテーマの中心に据えつつ、自然、宇宙への広がりを感じさせる作品たち。

気がついたら、再入場して二回目を見ていました。

 

最初は、色に惹かれました。

ゴーギャンに傾倒した時期があったそうです。

『室内』1946年、大分県立芸術会館 収蔵

ゴーギャンについては、偶然にも少し前に映画を見ました。

貧困や家族からも理解されない孤独と戦いながら、自らの芸術を貫く姿に、同じ絵を志すものとして深い感動を覚えた記憶がよみがえりました。

高山辰雄さんも、帝展時代から入選を重ねた日展に落選。一時は絵をやめようかとさえ思ったときに、ゴーギャンの伝記本を読んで勇気を奮い立たせたといいます。

その頃の代表作が『室内』です。

不規則な形をしたいくつもの鮮やかな色がパズルのように組み合わさった背景。そこに二人の女性が溶け込むように(いえ、見方によっては浮き上がっていると感じられるかも)描かれた作品です。

 

次に惹かれたのは背景でした。

まるで抽象画のように、形をなさない明暗と色だけで表現した背景。あるときはぼんやりと、またあるときは曲線を描くように表現された明るさ。

背景の曖昧さが絵に深みを与え、モチーフを幻想的に浮かび上がらせていると感じました。

作品の前を離れがたく、いつまでも見ていたのがこちらの作品『一軒の家』です。

『一軒の家』

一見どこにでもありそうな片田舎の風景ですが、左に描かれた明るい曲線。これはなんなのだろう。山の端のようにも見えましたが、そうでもなさそうです。

そして、ふと視線を移すと空には細い三日月が架かっています。

日常の風景が見ているつもりが、いつの間にか非日常の色を帯びてくるのです。

 

制作のテーマとして「人間」にこだわった画家は、たとえ風景を描いていても、常に人と意識して描いたそうです。

大分県出身の画家は、活動の拠点を東京に持ちながらも、晩年は故郷の風景を題材にした作品を多く描いています。

その代表作が、『由布の里道』。

今回の企画展の図録の表紙を飾っています。

道に沿って右に小さく井戸が見えますが、実際のその場所には井戸はなかったそうです。

しかし、自身がその風景になりきったとき、そこに乾きを覚え、井戸を描いたといいます。

数年後、その場所に本当に水が湧き出たと聞き、大変驚いたと、ご自身も著書『存在追憶 限りなき時の中に』の中で回想しておられます。

 

日曜日でしたが、六本木や上野の美術館のような混雑はなく、作品を近い距離でじっくりと楽しむことができました。

6月17日まで世田谷美術館で開催中の『高山辰雄展 森羅万象への道』。ぜひ行ってみられてはいかがでしょうか。

 

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