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Spies Style【シュピース・スタイル】

〈主な特徴〉

  • 田園風景や山間の風景を遠近法を用いた奥行きのある構図で表現
  • 明け方、夕暮れの淡い光を繊細なタッチで描写
  • 農夫、牛、家鴨などがモチーフとして好んで用いられる

ドイツ人画家シュピースの独創的な遠近法を受け継いだ幻想風景画

<異なる時間、空間軸を一枚の作品に描く>
シュピースの作品は夢と現実が混在するような幻想的な作風が特徴です。後の熱帯幻想絵画の原型が最初に見られたのは、1927年の「夢の景色」でした。その名の通り、彼が見た予言的な夢の情景を絵にした作品です。残念ながらシュピースの作品の多くは戦争で失われてしまい、この作品もモノクロ写真しか残されていません。少し見づらいのですが、二つの地平線を使い、異なる空間を一枚の絵に表現した謎めいた雰囲気は十分に伝わってくると思います。
この5年後に描かれた「鹿狩り」では上下に絡み合ったふたつの地平線を軸に、いくつもの異なる景色が描きました。坂野徳隆著「バリ、夢の景色〜ヴァルター・シュピース伝」から解説を引用します。    【中央】池があり、白い猟犬を連れた半裸の狩人が、池に向かって弓を引こうとしている。【右上】池に浸けた猟犬の片足が波紋を放ち、【左】ジャングルの岸辺には牡鹿が倒れ、後ろ足が水につかっていて別の波紋を描く。【中央】両方の波紋は中央で交差せず、その辺りは下の景色の空となり雲と交じり合う。【上方】夕暮れのような景色。【下方】強い光線に照らされ、そのなかで元気に跳ねる別の牡鹿がいる。【右上】漁師の弓矢が彼を狙っていて、牡鹿はそれに気づかぬまま先を行く牝鹿の誘いを受けている。このように、異なる空間と時間軸が同時に描かれながらも、池や木立がその違いを和らげる役割を果たしているため、見る人は気づかないうちにその不思議な光景に引き込まれてしまうのです。
【シュピースの技法を受け継いだバリ画家たち】
シュピースの画風は色彩の明るさを増し、また複数の空間軸の存在もさりげない幻想性へと変化し、やがて熱帯幻想絵画として定着していきます。その技法に影響を受けたバリの画家たちが黎明や黄昏の淡い光の風景を奥行きのある構図で描くようになると、画家の名を取ってシュピース・スタイルと呼ばれるようになりました。
写真は明け方の山間の光景を描いた清々しい作品です。これもよく見ると、手前の人物が描かれている空間、木立をはさんで椰子の木が植わった小さな起伏、雲海を挟んで、なだらかな尾根、さらにその先に美しい姿を見せる聖なるアグン山と、4つの異なる空間が描かれていることがわかります。斜光に照らされ浮かび上がる光景は幻想的な雰囲気を醸し出しています。

  • シュピース「夢の景色」(1927)

  • シュピース「鹿狩り」(1932)

  • ウィラナタ「村の風景」
    ネカ美術館所蔵

Artists このスタイルの作家

  • Galuh

    【ガルー】

    幻想風景画でバリを代表する画家。透明感ある色使いは静謐そのもの

  • Kepakisan

    【ケパキサン】

    GALUH実弟。画家一族Agungファミリーの次世代を担う新進画家

  • Wiranata

    【ウィラナタ】

    これまでに描いた作品およそ100点はすべて完売、作品入手が最も困難な画家のひとり

  • Ngurah GEDE

    【グデ・グラー】

    モザイクを散りばめたような細密な農村風景画を得意とする