#001 Antara
父や叔父から手ほどきを受け世襲的に画業を受け継ぐ画家が多いバリ島ウブドにあって、美大で西洋絵画を学んだ新しいタイプの画家です。首都ジャカルタやシンガポールなどアジアの主要都市を中心に個展・グループ展を重ね、国内で今最も成功した若手作家として注目されています。
ANTARA氏を紹介した画集
「BRIDGING TWO WORLDS」(2013)
作品に向かうとき、常にその根底に流れるのが愛, 歓び, 敬虔さです。神様の声に耳を傾け、自然と共存することにより豊かさを手に入れてきたバリの人々。大地からの恵みにより、隣人との関係が潤い、家族に歓びを持ち帰ることができるのです。
こんな思いは彼の作品にも表れています。稲と泉の女神Dewi Sriの祝福を受け、黄金色に輝く実りの時。村人たちは皆歓びに満ちた表情で刈り取りを行い、感謝の奉納に寺院を訪れます。
「プレイしなければ試合に勝つことがないのと同じで、祈れば必ずいつか答えは与えられる」、そう語る彼の作品は静かな祈りに満たされています。
彼の作品の特徴は、西洋絵画の技法を用いながら、題材には一貫してバリの伝統を取り上げている点にあります。特に舞踊を描いた作品には定評があり、その魅力のひとつが衣装。模様のひとつひとつに至るまで気を配り、伝統織物の持つ質感や色使いを忠実に再現しています。
トゥンガナン村に伝わる伝統衣装を身につけ、奉納舞踊に向かう子供たち。縦横2つの糸を染めた後、模様を合わせながら織りあげる世界的にも珍しい織物。2人の子供の父親でもあるアンタラは家族や隣人を大切にし、彼らの素朴で優しい表情を捉えることに成功しています。人の心の動きに人一倍深い洞察力と観察眼を持ち、毎日のように行われる村の祭事に出かけては、人々のふとした瞬間の表情をスケッチにおさめています。舞踊に向かう子供たちの不安と緊張、思いを飲み込むように沈黙する老人、我が子を抱く母親の幸福な眼差し。そのいずれにも人間に対する画家の深い愛情が感じられ、見る人をも温かい気持ちにしてくれます。
昨年、ウブド郊外に二階建てのアトリエを新築したアンタラ。それは田園風景を見渡す場所にありました。窓からはたっぷりの日差しが差し込み、広いアトリエは開放的で穏やかな時間が流れています。吹き抜けから階下を見下ろすと、そこには石像の女神と湧き出る泉がありました。
- 広いアトリエの中央に置かれた一枚板を使用した大きなテーブル。ここで作業やギャラリーとの打合せを行っています。
- 明かり取りのために設けられた吹き抜けを見下ろすと、そこには女神の石像の置かれた泉が設えてありました。
- 制作中の作品と愛用の画材。現在のバリ舞踊の原型と言われる古典舞踊劇ガンブーに登場するプトゥリ(お姫様)が描かれています
この場所で新たなインスピレーションを与えられ、画家の作風にも変化が見られ始めました。人物画と風景画の融合です。遥か彼方へと続く大地は一面の実りでおおわれ、神々に守られて自然と共存するバリ島の人々の生き方が題材として取り上げられています。
アンタラの真骨頂である人物描写力がいかんなく発揮され、遥か彼方へと広がる黄金色の田園風景が新たな息吹を作品にもたらしています。