こんなところに画家の工夫 ー プンゴセカンの巨匠ラバ
こんにちは、坂本澄子です。長雨の後、ようやくお日様が顔を見せてくれましたね。前回はブログをお休みしてしまい、ごめんなさい。
実は、今バリをモチーフにしたちょっとシュールな絵を描いています。
仕事でイヤなことがあって、グダグダに疲れて帰宅。「あ〜、もうヤダっ」とソファに倒れこむと、今日の出来事が脳裏に蘇ってきます。そんな時って、ありますよね。ふと、ソファの後ろに飾られたバリの絵が目にとまり、「あ〜、またバリに行きたいっ」とため息。目をつむってウブドの田園風景を思い浮かべていると、いつの間にかウトウトと。その波長が絵の風景とシンクロし、夢と現実の境目がなくなくなっていったらおもしろいな…と思った気持ちを、ソファで眠る人物、その後ろにかかった大きなバリ絵画という構図で表現してみました。
この絵に登場させる画中画については、かなり試行錯誤を繰り返しました。最初はバリで撮ってきた写真を元に描き起こそうかとも思いましたが、それはバリ絵画ではありません。バリの作家に対するオマージュとして、プンゴセカンの巨匠ラバさんの絵を模写させてもらうことにしました。その一部が左の写真です。
模写しながら、ラバさんの絵に対する自分の考えがどんどん変わっていくのを感じました。それまでは、「深い色の緑が、子どもの頃の懐かしい風景を思い出させてくれる」というノスタルジーに基づくものでしたが、新たに、これだけの作品を描くための画家の技術的な工夫を随所に感じたのです。
ひとつは色の調和の見事さ。ある色がその場所に使われているのは、画家にとっての必然性がちゃんとあってのこと。例えば、左の赤いインコ。主役にふさわしい強いコントラスで描かれています。赤の強さを中和させつつ、引き締める役割を果たしているのが黒。つなぎ色としての黄色。そして、頬に赤の反対色のシアンを使うことで、日本の着物の柄を思わせるような装飾的な美しさを出しています。
ふたつめは様式化された描き方です。背景の空と水を見ると、形を徹底的に簡略化し、その分、色と明暗とで変化を出しています。見る人が想像を膨らませて、その時の気分でいろんなことを考えられる間合いのようなものを作り出しています。例えば、この空の向こうにもうひとつ別のバリがあるんじゃないか…とか妄想してみると、あたまのマッサージになりそう。
そんなラバさんの絵の魅力は小さな絵にもぎっしりつまっています。バリアートショールームにある作品から2点ご紹介します。
先ほどの赤のインコを50cmx40cmのキャンバスに描いた作品がこちら『LOVE, LOVE Ⅲ』です。
雌の方は緑に溶け込むような淡いタッチで、赤の雄のインコとは対照的に描くことで、小さいながらも画面に広がりを感じさせます。
背景の緑は、笹のような尖った葉と三つ葉に蔓と、緑一色に見える背景の中にも、様々な変化があるのがわかります。白のプルメリアが曼荼羅的なリズムをもたらしているのも、面白いですよね。
『少年たちの情景』は緑と茶系の色使いで描かれ、母なる大地を感じさせる絵です。先ほどの作品と同様に、青みがかった緑から、黄色がはいった緑まで何種類もの色調が用いられ、濃淡、明暗による変化で、実に豊かな色の表現があります。
そして何と言ってもこの絵の特徴は、風でしなる椰子の木が斜めに横切るダイナミックな構図です。単純化された草や稲穂、水、空の形、そして、少年たちの素朴な表情が、逆にその力強さと動きを引き立てています。見る人を飽きさせない絵というのは、きっとこういう作品をいうのだと思わされます。
この2点は、9月27日の第4回バリアートサロンで実物をご覧になれます。好評受付中、詳しくはこちらをどうぞ。
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