バリアートショールーム オーナーブログ
2018.3.25

クリキ村に伝わる細密画ができるまで

こんにちは、坂本澄子です。

「これぞバリ絵画」と胸を張ってご紹介できる新作が完成しました。クリキ村に伝わる伝統的な手法で描かれた細密画です。

このところ、飾りやすい花鳥画、風景画が多かったのですが、バリ絵画を扱う者としては、伝統絵画もきちんとご紹介したいという思いがあり、昨年末から題材を検討していました。

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輪廻転生を信じるバリ島では、死は終わりではなく、新たな生の始まりと考えられており、とても盛大な、まるでお祭りのような火葬の儀式が行われます。

fa8d18285d96e57679704e983490109fきらびやかに装飾された多重の塔は棺を乗せ、火葬する場所まで運ぶもの。最近は下に小さなタイヤがついて、日本のお祭りでも使われる山車のように押して歩けますが、以前は村人総出でお神輿のように担いでいました。

そして、火葬に欠かせないのが、ランブー。牛を象った火葬用の棺です。写真をご覧ください。こんなに大きいのですよ。

そして、会場に着くと、そびえ立つやぐらのようなものを使って、塔から棺を下ろし、張り子状に空洞となった牛の体内にご遺体を移し、火を放ちます。金銀で美しく模様が描かれたランブーが、焼け落ちていくのはもったいないほどです。

そんな壮大な儀式を思いながら、細密画の伝統絵師のライさんにお願いしました。

*****

それでは、『王家の火葬式』が完成するまでをご覧ください。

まず、画用紙をベニア板に水張りしてもらいました。

水張り? 

はい、日本画などでよく行う手法で、画用紙にたっぷりと水を含ませ、濡れた状態でベニア板に張り付け、テープで端を固定します。乾くと紙が縮むため、シワがピーンと伸び、少々水を含んだ絵の具を乗せても、画用紙がヨレヨレになることはありません。

おおらかなバリ島では普通こんなことはしませんが、少しでも良い状態で作品をお届けしたいと、Youtubeで水張りの動画を見てもらったところ、ライさん、興味津々でやってくれました。 

次に下絵です。

IMG_0744鉛筆で細かく下絵を描いていきます。バリの伝統絵画の特徴は、下絵をしっかり描くこと。絵の具を塗りながら、形をとっていく西洋絵画とはアプローチが異なります。100人を超える村人たちもひとりひとり丁寧に描かれました。

下絵が終わると、墨で輪郭をとりながら、影になる部分に陰影をつけていきます。墨の薄め加減を調整し、ざっと五段階くらいでしょうか。

そして、彩色にかかります。

IMG_0906まずは、この絵の一番の見せ場である、多重の塔から。

塔には様々な装飾が施されていますが、細かい描き込みは一通り色を塗ってから、全体のバランスを見ながら、仕上げていきます。

 

このように細かい作業を積み重ねて、ようやく完成!!!

PK005

 

塔の装飾もここまで描き込まれました。

PK005-02様々な色が使われていますが、全体として落ち着いた色調でまとまっており、伝統絵画らしい格調高い仕上がりです。

ちなみに塔の階数は奇数と決まっており、多層になるほど、身分が高いことを表すそうです。

この塔は数えてみると11層ありますが、11層が最大で王族の儀式であることがわかります。

 

 

絵師としたの腕のよさももちろんですが、この細かい作業を継続する集中力と忍耐力は感動もの。

クリキ村はウブドの喧騒から離れ、今でも農業中心の静かな村。細密画発祥の土地として、腕のよい絵師が多いことでも有名です。なかでもライさんは、壮大な構図の作品が描ける高い力量の持ち主。バリアートショールーム5周年にふさわしい作品を描いていただきました。

伝統絵画をお探しなら、ぜひ!自信を持っておすすめします。

 

2018.2.17

じっくりと愉しみたい絵 アリミニ珠玉の小品

こんにちは、坂本澄子です。

春の足音を感じつつ、まだ長い夜を過ごす今日この頃。

いい絵を見ながら、いいお酒を少しだけ。

そんな時間の過ごし方、いかがですか。

オススメはじっくり愉しめる絵。

ぱっと目を引き、お部屋の雰囲気を明るくしてくれる花鳥画も素敵ですが、

バリ島ならではの伝統絵画もいいですよ。

人気女流作家アリミニさんの作品は、

バリの伝統絵画を継承しつつ、独自の構図と色使いが魅力。

ずっと見ていたくなる、深い味わいがあります。

 

この度の、アリミニさんの大作完成を記念して、珠玉の小品『ハヌマンの誕生』をバリアートショールーム5周年特別価格でお届け致します!(通常160,000円を98,000円)

『ハヌマンの誕生』35x25cm アクリル画

『ハヌマンの誕生』35x25cm アクリル画

 

どこにでも飾れるサイズ(35x25cm)ですから、

じっくりお手元で鑑賞できます。

明るく、かつ、深みのある色使いを愉しんでください。

「明るくて、深み??」

 

はい。

例えば、緑一色に見えるところも、よく見ると、

いろんな種類や明るさの緑が使われており、

どんどん細部に引き込まれていきます。

一方、視線を引いて、全体を見渡してみると、

奥へと広がっていく構図に、視線が導かれる感じ。

実は、この作品。バリ島の伝統絵画にはめずらしく、

手前を大きく、向こうを小さくと

意識して遠近感をつけて描かれているんです。

最後は、向こうの山並みへすっと抜けていくような、

気持ちのよさが味わえます。

 

ところで、この絵の真ん中の動物、何かに似ていると思いませんか?

私はずっとゴア・ガジャ遺跡だと思っていました。

ジャワ文明が入ってくる前から、バリ島には独自の文化が存在したことを証明する、と言われる貴重な遺跡です。

そんなことを考えていたら、偶然にも、つい先日そのゴア・ガジャ遺跡の前で、ご主人と記念撮影した写真を送っていただきました 笑

IMG_0715

素敵なご夫婦なんです…(^-^)

 

特別価格は3月31日まで。

アリミニさんの一点ものの原画を手にいれるまたとないチャンスですよ。

どうぞこの機会をお見逃しなく!

ご注文はこちらからどうぞ。

そうそう、春のトップページもアリミニさんですよ。ぜひご覧くださいませ。

 

2016.10.8

絵の具からバリ絵画を見ると 番外編

こんにちは、坂本澄子です。

描き手の視点から絵画を見るこの企画、もともと前編・後編の2回のつもりだったのですが、どうしてもこれはお伝えしたくて番外編を作っちゃいました。

バリ絵画でよく使われるアクリル絵の具、苦手なことはグラデーション、でしたね。でも、花鳥画などで花びらや羽毛に柔らかな陰影をつけたいとき、やっぱり必要なのです。そこで登場するのが竹筆。これを使うと、グラデーションがなんと一瞬でできてしまうのです。

dsc01298竹筆というのはシャープなエッジのついた、竹製のヘラのようなもの。前編でもご紹介した通り、アクリル絵の具は乾くと水に溶けないので、上から色を重ねやすいのが特徴でしたね。その特徴を利用して、少なめの水で溶いた絵の具を竹筆のエッジの部分につけて、最初は強く、後半はシャっと流すようにすると、下色の上に別の色がいい感じにぼけてくれるのです。シャっシャっではなく、狙いを定めてただ一度、シャっ!がポイントです。

上の写真は、画家のエベンさんにバリ絵画の描き方を教わったときのものですが、この技法を使ったのが、白のプルメリアの花びらと中央のバナナの葉の茎の部分のぼかしです。エベンさんはこの竹筆を葉っぱのくっきりとした輪郭線を描く時にも使っていました。余談ですが、輪郭線は東洋絵画に特徴的なもの。光による明暗で立体を表現する西洋絵画ではほとんど見られません。

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「青い睡蓮」RAJIG 50x60cm ¥60,000

竹筆は画家が手作りすることが多く、パーツの大小に合わせて様々な幅のものがあります。

花鳥画と言えばこの人!と言われるラジック氏も10本近い様々なサイズの竹筆を使い分けていました。これで、右写真のような花びらのみずみずしさや野鳥の羽毛のやわらかさを表現していくわけですね。

いかがでしたか?絵の具を通してみたバリ絵画。

描き手の感性があふれた絵作りは、写真とは違う絵ならではの魅力ですが、それを下支えしているのは画家の持つ技術力です。今回ご紹介したように、画家それぞれに様々な工夫をしており、それがバリ絵画の質の高さにつながっています。あなたのご自宅にもバリアートをいかがですか?

2016.10.1

絵の具からバリ絵画を見ると 後編

こんにちは、坂本澄子です。

箱根の鄙びた温泉に日帰り湯治に来ました。ひんやりとした空気にのって金木犀の香りが漂っています。秋ですね。

これまで、絵がお部屋にあるとこんなにステキですよと、絵を買ってくださる方の立場で書くことが多かったのですが、私自身も絵を描くようになってから、描き手の思いや工夫を知っていただくことで、別の楽しみ方ができるのではないか、と思うようになりました。

小中学校時代、絵を描いた経験がおありでしょう。私の場合は、最初に絵を習った先生から、「この葡萄を見たとき、何て感じましたか?おいしそうと思ったなら、そのおいしさが、みずみずしいと思ったら、そのみずみずしさが表現できているか、それだけを考えて描きなさい。そして、葡萄をよく見たら、紫だけでなくいろんな色が見えてくるでしょ、それらを全部使って描きなさい」と教えられました。写真とは違う「絵ならではのおもしろさ」を教えてくださった最初の恩師です。

さて、アクリル絵の具のお話です。

メディウム

メディウムは乾くと透明になります

アクリル絵の具を使っていろんな描き方ができます。薄く溶いて、澄んだ透明な色を塗り重ねることで出せる深みのある色については、前編でお伝えした通りです。

逆に、油彩画のように筆あとを残し、盛り上げて描くこともできます。また、メディウムを使えば、ダイナミックに絵肌を変えることも。メディウムというのは、キャンバスや紙に定着させる糊のようなもので、絵の具だけでなく、いろんなものを混ぜることができます。そこに砂を混ぜたのがアンタラ氏です。

PM006人物画で定評のあるウブドの画家のアンタラ氏は、家族や隣人へのあたたかな眼差しをテーマに、作品を発表し続けています。ある時、下塗りの段階で、砂を絵の具に混ぜることを思いつきました。バリ島に伝わる砂絵が、ヒントになったのでしょう。大きさの異なる砂の粒によって光が拡散することで、ふんわりとやさしい表情を出すことができました。

『夢見る頃』(部分)  ANTARA 60x50cm 

 

実は、そんなアクリル絵の具にも苦手なことがあります。グラデーションです。乾くのが早い分、違う色を混ぜて徐々に変化させるのは難しいのです。乾きを遅くするメディウムを混ぜて、筆の先で少しずつぼかしながら色を馴染ませることもできますが、効果的なのは油絵の具との併用。アクリル絵の具で描いた上に、油絵の具で微妙なニュアンスをつけていくのです。

OM001この方法を用いて描いたのがこちら『豊穣の女神』です。アクリル絵の具で一通り描いた後、人物の肌や遠くの空に溶け込むような霞んだ風景など、繊細な描写が必要な部分を薄めに溶いた油彩で仕上げています。

『豊穣の女神』ANTARA 100x150cm →

 

しかし、グラデーションを一瞬で作れる伝統的な技法がバリ絵画にはありました。次回はおまけ編として、バリ絵画におけるグラデーションをご紹介します。

<関連ページ>

アンタラ氏の作品ページ

 

2016.9.28

絵の具からバリ絵画を見ると 前編

こんにちは、坂本澄子です。

バリ絵画の多くは、アクリル絵の具で描かれていることをご存知ですか?水て溶いて使う手軽さは水彩と同じ。乾くと水に溶けなくなるので、塗り重ねが自由にできるという利点があります。同じことは油絵の具でもできますが、乾くのになにしろ時間がかかるので、乾いては塗るのを何度も繰り返して、微妙な深〜い色合いを出すという点では断然アクリル絵の具に軍配が上がります。

acrylics実は私もバリ絵画との出会いの中で、アクリル絵の具の魅力に触れ、自分でも絵を描くときに使っています。

アクリル絵の具は絵画の歴史の中では比較的新しい画材で、商品化されたのは戦後間もないアメリカで。発色の良さや速乾性からすぐにデザイナーたちに受け入られ、ファインアートの分野でもファンを広げています。

そのアクリル絵の具、なぜバリ島の画家たちの間でこんなに普及しているのか。これは私の想像ですが、バリの自然や風物を表現するのに鮮やかな発色がマッチしていたことと、気候に左右されることなくすぐに乾くことが、ガッチリ彼らのハートをつかんだのではないかと思います。

冒頭でご紹介した塗り重ねの技法を、制作に巧みに生かしているのはLABAさんです。緑いっぱいの花鳥画はバリ島に溢れるほどありますが、やがて見飽きてしまい、何となく安っぽい感じに見えてしまう作品も少なくありません。その原因のひとつは、単調な色使いだと思うのです。

ところが、LABAさんの作品には見ればみるほどさまざまな緑が使われています。色調と明るさの異なる緑が交互に現れ、独特のリズムさえ感じます。薄めに溶いた色を幾重にも塗り重ねる技法によるものですが、透明度の高いカラーセロファンを重ねると下の色が透けて、複雑に色が変化しますよね。これと同じことが絵の具でも起こり、きれいな透明感と同時に深みも作り出しているというわけです。

少年たちの情景なかでもおすすめはこちらの『少年たちの情景』。画家が少年時代を懐かしんで描いた作品ですが、絵の手入れをしながら間近に見て、何度「すごい!」と思ったことか。写真だとお伝えしきれないのが残念です。

70x50cmと少し大きめの作品は、前景、中景、背景とそれぞれに見所があります。例えば、雲のようにも波のようにも見え想像力を掻き立ててくれる遠景。風にしなる椰子の木の迫力。模様のように簡略化された稲穂と草地が交互に繰り返されるリズム感など、絵としての面白さに溢れ、また、様々な種類の緑が素朴な表情の少年たちを引き立てながら、全体としてしっとりと調和した作品に仕上がっています。

ところで、アクリル絵の具のもうひとつの特徴はアクリル樹脂が作る強い表面です。一旦乾くと水をつけてゴシゴシやってもビクともしません。私もこれで洋服を何枚だめにしたことか(笑)ですから、絵の前にアクリル板を入れずに額装して、作品そのものの美しさを楽しんでいただければと思っています。おタバコを吸われないのであれば、お手入れは固く絞った柔らかい布でやさしく埃を取るだけでOK。

湿度の高いバリ島では、古い絵のほとんどが朽ちて残っていないという残念な歴史があります。アクリル絵の具の威力で、LABAさんのようないい絵が次の時代に受け継がれていきますようにと、願う今日この頃です。

<関連ページ>

LABA作品ページ

 

2016.9.17

バリ絵画の歴史③ 光を取り込む風景画

こんにちは、坂本澄子です。

風景画というジャンルを作ったのは印象派の画家たちだったそうです。それまで絵の具は保存が効かず、画家や助手が絵の具を手練りしながら描いていました。ところが、チューブ式の絵の具が開発されると一気に制作の自由度があがり、絵の具とキャンバスを持って、戸外へ出て描けるようになったというわけです。

モネは、パロトンだった実業家・オシュデの次女ブランシュに手伝ってもらい、手押し車に画材一式を積み込んで、制作に出かけたそうです。最初の妻カミーユが亡くなった後、オシュデの妻だったアリスと結婚したので、ブランシュはその後もずっとモネの助手を務めることとなりました。

「自分のアトリエは空の下だ」と言ったように、素早いタッチで一瞬の光と影を捉えたモネの絵。光が移ろうまでのわずかな時間をうまく使うために、ある工夫をしていました。毎日セーヌ川の支流沿いを移動しながら、この時間帯はこの場所でこの絵、次の時間帯は別の場所で別の絵というふうに、複数の作品を同時進行で描いていたのだそうです。こんなふうに描かれた風景画は、パリの密集した住宅の薄暗い部屋にも光を運び込んでくれました。

 

バリ島で風景画が描かれるようになったのは、ヨーロッパから来た画家たちの影響によるもの。特に、ドイツ人画家シュピースの幻想的なタッチは、いまでもシュピース・スタイルとして人気を博しています。

シュピースがバリ島に滞在した’20〜30年代、彼の弟子だった2人の青年ソプラットとメレゲックは、バリの芸能の徒弟制度にならい、師の描く通りを真似て技術を習得する方法で、絵を学んでいました。模倣から脱せない弟子たちを見たシュピースは、あるとき「僕の絵を真似るのではなく、君たち自身のやり方で描いてごらん」とアドバイスしたそうです。彼らは困惑しながらも自身の表現を模索し、その精神は80年の歳月を超えて受け継がれ、同じアグン・ファミリーにガルー、ウィラナタといった人気作家を輩出しました。

ガルーの作品は空気感のあるふんわりとした柔らかい風景が特徴で、バリ島の風景の雰囲気をよく表していると思います。人物が描かれているので、その人になったつもりで見ると、絵の中に入っていきやすく、より臨場感を持って感じることができます。ひんやりとした朝の空気だったり、風が椰子の葉をそよがせる音だったり。実際、画中の人物は画家自身をなぞらえたものであることが多いそうです。

ガルー「黄昏の静謐」

「黄昏の静謐」GALUH 油彩画 40x60cm 350,000円

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「早暁の静謐」GALUH 油彩画 40x60cm 350,000円

熱帯の島バリで、屋外にイーゼルを立てて絵を描く画家の姿をみたことはありませんが、バリの民家は建物自体が非常にオープンな作りなので、自然と一体になって生活していると言っても過言ではありません。

生まれてこのかた脳内にインプットされたバリの様々な風景の蓄積が、夢の中の風景のようでいて、リアルに五感に働きかけてくる独特の作品を生み出すインスピレーションの源になっています。

Galuh 30x50 C

「モーニング・セレモニー」GALUH 油彩画 30x50cm 380,000円

 

その昔、ヨーロッパのブルジョアたちが愉しんだように、ガルーの作品でお部屋に光を取り込んでみませんか。

<関連ページ>

ガルー作品ページ・・・5点在庫があります。実物をご覧いただくこともできます。

ウィラナタ作品ページ・・・ガルーの実弟。違う光の表現がこれまた魅力

2016.9.12

バリ絵画の歴史② 買い手が変われば品も変わる

  • こんにちは、坂本澄子です。バリ絵画の歴史を西洋絵画と対比させながら解説するシリーズ、第二話をお届けします。
ギリシャ神話が題材の「アケオロスの饗宴」(1615年)

ギリシャ神話が題材の「アケオロスの饗宴」(1615年)

その後ヨーロッパでは、太陽王と呼ばれたフランスのルイ14世に代表される強い王様の時代(絶対王政)がやってきます。ベルサイユ宮殿など、豪華で煌びやかなバロック様式の宮殿を彩ったのは神話や歴史を題材にした壮大な作品の数々。光と影の対比によりドラマチックに演出するのが当時の流行でした。

この時代に活躍したのが、イタリアの画家カラヴァッジョ、オランダの画家ルーベンス、レンブラントなどです。ここでも、おかかえ絵師として注文を受けて描くという基本的なスタイルは同じでした。

それが大きく変わったのは19世紀。その背景には2つの大きな革命がありました。フランス革命を始めとする市民革命、そして、産業革命です。これらによって一般大衆社会が生まれ、ブルジョアと呼ばれるお金持ちの市民が新たに絵画の主要な購入層となりました。

すると、それまで宗教画や歴史画などと比べ低く見られていた、風俗画や肖像画などが好まれ、また一般家庭でも飾りやすい小品が求められるように。やがて、画家たちは注文を受けてではなく、自発的に制作を行い、市場に向けて作品を発表するようになるのです。現在の銀座の画廊で絵を売っているのに近い形ですね。

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一般市民の生活を描いた小品が多いフェルメール 「水差しを持つ若い女」(1662年)

東インド会社による商業の発達により、早くから市民階級が台頭したオランダでは、既に17世紀にこの形が見られるようになります。フェルメールに大作が少ないのはこのためです。

そして、最も激動の時代を経験したフランスでは、アングル、ドラクロワ、クールベなど、サロン(官展)画家の時代を経て、印象派の画家たちによってこの新しいスタイルが定着しました。

 

バリ島でも大きな変化が起こりました。1908年のオランダ軍によるバリ全島支配です。当時バリ島は8つの王国による群雄割拠の時代でしたが、早くからオランダと友好な関係を結び、唯一領事という立場で生き残ったギャニャール王国以外は次々と攻め滅ぼされます。

1930年代、「最後の楽園」としてヨーロッパに紹介されると、ヨーロッパの人々は押し寄せるようにバリ島を訪れます。その中には南国の陽光としがらみのない自由な土地を求めて移り住んだ画家たちもいました。ギャニャール王の傍系だったウブド王家のチョコルド・スカワティは、早くから西洋式の教育を受け、ヨーロッパからやってきた芸術家たちを保護する政策にでます。そんな画家のひとりが、すでに何度もご紹介しているドイツ人画家シュピースです。彼はのちにチャンプアンに住まいを構えるまで、ウブド王宮内に住んでいました。

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    バリの人々の暮らしを題材にした作品

    このようにして西洋絵画と出会ったバリ絵画は、西洋絵画と似た変化をたどります。それまでバリ絵画といえば宗教画が基本でしたが、ヨーロッパから来た画家たちがバリ島の風景や人々の暮らしを珍しがって描くのを見て、目からウロコだったのではないでしょうか。「こんなのもアリなんだ」と新たな買い手となった西洋人に向けて、これらのモチーフを自身の作風で描くようになったのです。

買い手が求めるものを売り物にするのは、古今東西同じですね。そんなウブドには、スポンサーを失った各地の絵師たちが続々と集まり、今の芸術村が形成されていきます。

<関連ページ>

バリ島の生活を描いた作品なら

ウブドスタイル

細密画・・・ぎっしりと描き込まれた小さな世界

2016.9.7

バリ絵画の歴史① 絵画のスポンサー

こんにちは、坂本澄子です。

古今東西、絵画の題材にはその時代のスポンサーが誰かが色濃く反映されています。

例えば、ルネッサンス期の画家と言えば、レオナルド・ダビンチ、ラファエロ、ミケランジェロ…が真っ先に思い浮かびますよね。主な作品はいずれも宗教画です。聖書の場面やイエス・キリストとマリアの母子像などが盛んに描かれました。これは当時の芸術のスポンサーが教会だったからなんです。

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システィーナ礼拝堂の天井いっぱいに描かれた『最後の審判』

教会から注文を受けて、ダビンチはサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂に『最後の晩餐』を描きました。そして、ミケランジェロは『ダビデ像』など彫刻家としての方がむしろ有名ですが、絵画でも超大作を残しているんです。システィーナ礼拝堂の天井画『最後の審判』は4年の歳月をかけて彼ひとりで描いたそうです。フレスコ画なので、漆喰を塗っては描き、また塗っては描きを延々と繰り返します。そうしているうちに、首が曲がったままになってしまったとか。

バリ絵画もこれとよく似た歴史を辿っています。14世紀、イスラム勢力の侵攻によりお隣のジャワ島を追われた僧侶や貴族によって、様々な文化がバリ島にもたらされました。中でも最も大切にされたのが、神様とつながるための手段である舞踊でした。舞うのは村の中で選別され、子供の頃から厳しい稽古を積んだ少女たち、いわば巫女です。

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水の宮殿バレカンバンの天井に描かれた宗教画

そして、舞踊の伴奏としてガムランが発達し、その楽器を彩るために描かれたのが絵画だったというわけです。やがて、『ラーマヤナー』など神話の世界が描かれるようになり、バリ島の古都クルンクンにあるスマラプラ宮殿の天井画など、優れた作品が残されています。この時代のスポンサーと言えば、やはり祭礼を重んじた王族・貴族たちでした。

 

この古典絵画の技法はカマサン・スタイルとして現代にも受け継がれています。平面的でシンプルで素朴な描き方ですが、ほのぼのとした味わいがありますよね。

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『マハーバラタ』よりクリシュナ (カマサン・スタイル)

20世紀になり、この古典技法が発展したバトゥアン・スタイル(ウブドに近いバトゥアン村で描かれたため、こう呼ばれています)も、西洋絵画の影響をあまり受けることなく、バリの伝統絵画を今に伝えています。バトゥアン・スタイルでは、物語の場面がさらに細かく、画面いっぱいにぎっしりと描かれるのが特徴です。

『戦いの女神ドゥルガー』

『戦いの女神ドゥルガー』(バトゥアン・スタイル)

秋の気配を感じるこの季節になると、絵巻物の中を旅するような古典絵画に惹かれます。描かれたものを見ていると、ゆっくりと夜が更けていきます。耳を澄ますと、遠くから虫の声が聞こえてきました。

<関連ページ>

カマサン・スタイル・・・バリの古典絵画

バトゥアン・スタイル・・・カマサン・スタイルから派生した伝統絵画。

2016.1.30

日本の狭い住宅事情には縦長の絵

こんにちは、坂本澄子です。

前回のブログでお話した台湾の故宮博物院、2階の絵画コーナーには水墨画が展示されていました。その多くは山水画で、手前にある人里から遠くの山並みへと続いていく壮大な風景が、墨の濃淡だけで描き出されているのがとても印象的でした。

山水画は下から上へ、近景→中景→遠景の3つに描き分けられているため、下から上へと視線を動かしていくと、近くから遠くへと、まるで絵の中を旅しているような感覚が味わえるとともに、距離だけでなく時の流れを感じることができるのだそうです。そう言われてみると、掛け軸もよく床の間の前に座って見上げるように鑑賞しますが、理にかなっているというわけですね。

バリ絵画でも、近くのものを下に、遠くを上に描くことで、遠近感を表現します。一昨年、ウィラナタのアトリエを訪ねたとき、畳ほどの長さの風景画が立てかけてありました。まだ、製作途中でざっくりと陰影をつけた段階だったのですが、それがかえって水墨画のような魅力を醸し出していました(youtubeで動画公開中)。ウィラナタが山水画を意識したかどうかはわかりませんが、彼の作品のファンは華僑の人たちにも多いのは、そんな共通点から来る懐かしさに惹かれるせいかも知れませんね。

彼のこれまでの作品をみると、ほとんどが注文製作のため様々な大きさの絵があります。きっと、注文主が飾る場所にあわせて趣向を凝らした結果なのでしょうね。今日はその中から山水画を思わせる縦長の風景画をご紹介します。下から上へ、絵の中を旅するようにご覧になってみてください。

『sawah di kaki bukit」山の麓の棚田の風景 Wiranata 2007年 (150x100cm)

スクリーンショット 2016-01-29 22.02.32見上げるような大作です。手前の近景には、2人の農夫がまだ薄暗い谷間の棚田で田植えをしています。やがて昇ってきた朝日が彼らの影を落とすと、水田の澄んだ水に映り込んだ景色が浮かびあがり、暑い1日が始まります。

中景には、差し込んだ朝日が椰子の葉と戯れています。右側に視線を移すと東屋があり、2人の子供が相撲のような遊びをする姿に、奥に座った老人がやさしい眼差しを向けています。

さらに遠くにも人がいるようです。右手に子供を抱え、頭の上で荷物を運ぶ働き者のバリの女性、男性は窯の手入れをしています。これから草刈りでしょうか。奥では牛が静かに出番を待っています。雲海を隔て、景色はさらに高い山々へと連なっています。のどかで、そして荘厳なバリの朝のひとときです。

 

「Turun ke sungai」川へ降りる道 Wiranata 2008年 (100x60cm)

side boardこちらも谷間の水田に朝日が差し込む風景を描いた作品。牛を連れて野良仕事へと道を下っていく農夫になったつもりであたりを見回してみると、川を流れる水の音など、実に多くのものが五感に迫ってきます。ノスタルジックな気持ちにさせてくれる色使いもいいですね。

(画像をクリックすると、作品の拡大写真へ)

手狭な日本の住宅事情でも、縦長のスペースならば意外に見つかるんじゃないでしょうか。玄関の吹き抜けや階段の踊り場のように、下から上へ見上げる場所もおすすめです。また、民芸調の家具や和テイストのローボードの上にも、バランスよく飾れます。(写真: 時代箪笥)その際、額縁を家具の色合いや素材に合わせるのがポイント、場に統一感が出ます。

一方、ご自宅を新築、改築された際には、1箇所でも絵を中心に空間設計をされると、求心力のある素敵なスペースが作れます。ご注文製作はそんなご要望にお応えします。絵を飾りたい場所の写真をお送りいただければ、無料でコーディネイトのご提案をします。お問い合わせはこちらからどうぞ。

<関連ページ>

Wiranata作品ページ バリ島の美術館で作品所蔵される人気アーティスト

バリ島の熱帯幻想風景画 早暁、夕暮れの光の幻想的な風景をお楽しみください

2015.12.9

バリの神様⑥ 猿王ハヌマン

こんにちは、坂本澄子です。今年3月以来、久々の「バリの神様」シリーズ第6弾をお届けします。今日ご紹介する「猿王ハヌマン」は神様ではありませんが、神話の登場人物として神様の化身である主人公に付き従う存在、映画で言うと頼もしい脇役といったところでしょうか。

COLLECTIE_TROPENMUSEUM_Houten_beeld_van_Hanuman_TMnr_15-182bハヌマンは風神ヴァーユの子とされ、正義のために戦う強い精神と肉体の持ち主。『ラーマーヤナ』では主人公ラーマ王子(ウィシュヌ神の化身)を助け、魔王にさらわれたシータ妃を救い出すために大活躍します。魔王一味との激しい戦いの場面はこの物語の一番のハイライトでもあります。実は、猿の様相と聞き、孫悟空に扮した香取慎吾さんをイメージしていました。すると、まんざらハズレではなく、ハヌマンが中国に伝わって孫悟空のモデルになったとの説もあるのだそうです。

やんちゃな時代もありました。赤い太陽を熟した果実だと思い込み、空を飛べるハヌマンは、こともあろうか太陽をとりに空へ昇っていったのです。ところが、インドラ神の逆鱗に触れ、金剛杵で顎の骨を砕かれて転落死してしまうのです。

悲しんだ風神ヴァーユはハヌマンを生き返らせてほしいと神々に懇願しますが、聞き入れられないと今度は激怒し、風を吹かせるのを止めてしまったため、人間界は大変なことに。仕方なく、神々はヴァーユの願いを聞き入れ、ハヌマンは不死、不屈、かつ叡智を持つ強者として蘇ったというわけです。顎が変形して描かれることがあるのは、インドラ神に砕かれたなごり。

このハヌマンが太陽へと昇っていく場面を女性らしい色使いで描いた作品がこちら、『ハヌマンの誕生』です。太陽に向かって飛翔するハヌマンがおわかりでしょうか。

ブログ212_ハヌマンの誕生

『ハヌマンの誕生』 ARIMINI (35x25cm) アクリル/紙

描いたのはアリミニ。バリ島屈指の人気アーティストで、バリの伝統絵画技法を継承しつつ、独自のスタイルを打ち出すのに成功しています。神話の世界とバリ島の伝統的な生活をひとつの絵として表現する作風はアリミニならでは。

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(左)天へ飛翔するハヌマン、手前には農作業をする村人が描かれています
(中)祈りを捧げる母アンジャニー
(右)シヴァ神をハヌマンの父とする説もあり、近しい存在として描かれています

さくらももこさんが日本に紹介して、デビュー20周年記念の合作リトフラフは話題を呼びました。今でもアリミニさんご指定で作品を見に来られるお客様が後を絶たないのはさすがです。バリ島のアルマ美術館でも所蔵される著名作家の作品を、今年一年の感謝をこめてセール価格でお届け。ぜひこの機会をお見逃しなく!

<関連ページ>

アリミニ作品ページ

2015歳末感謝セール実施中 12月28日まで

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