バリアートショールーム オーナーブログ
2013.5.29

エベンさんのバリ絵画描き方講座

こんにちは、坂本澄子です。先週のバリも暑かったですが、日本も負けず劣らず蒸し暑くなってきました。近畿と東海地方では早くも今日梅雨入りしたようですね。

今回バリに行って嬉しかったのは花鳥画家のエベンさんと再会できたこと。エベンさんは私が初めてバリを訪れた時に、四日間絵の弟子入りをした人(詳しくはコラムをご覧下さい)。彼の作品が私をウブドに導いてくれたのですから、私にとってある意味、特別な画家さんなのです。そんな訳で、ちょっとお恥ずかしいのですが、絵を習ったときの模写を例に、バリ絵画の典型的な描き方をご紹介したいと思います。制作過程を知っていただくことで、バリ絵画をさらに身近に感じていただければ幸いです。

ブログ30制作プロセス

まず鉛筆で下絵をしっかり描きます。次に黒で陰影をつけます。この時、水をたっぷり含ませたもう一本の筆でぼかすように濃淡をつけるのがポイント。乾いたら、その上に色を重ねます。基本的には背景→手前の順番に塗り重ねていきます。バリ絵画では多くの場合、アクリル絵の具を使います。水彩絵の具と同じように水で溶いて簡単に使える上に、乾くと耐水性なので、作品の美しさを長く保つことができるのです。

ブログ30竹筆仕上げにバリ絵画に特徴的な竹筆が登場。作品に合わせて画家が自作するもので、この作品では、葉の輪郭や葉脈など強調したい箇所にシャープな線を描いたり、プルメリアやオウムのくちばしにハイライトを入れたりするのに使いました。これで絵にグッとメリハリがつきました。最後はエベンさんの作品の最大の特徴である野鳥の羽毛です。細い筆を使っておなかのふかふか感と翼のしなやかさを描き分けていきます。これで二羽のオウムがこの絵の主役になりました。完成〜。

この作品の原画と私の習作模写は今でも我が家に大事に飾ってあります。これを描いた時には、自分がバリ絵画を扱うようになるとは想像すらしていませんでした。思えば不思議な出会いです。これと前後してアートルキサンの木村さんとの出会いがあり、IT業界からバリ絵画という全く別の世界へ道が繋がってしまったのですから。私がこの年齢になってまったく違う世界に飛び込んだのを見て、以前の同僚は「意志あるところには道が拓けるね」と言ってくれました。次に会う時には「思い切ってやってみてよかったね」と言ってもらえるよう、さらに努力を重ねていきたいと思います。

久し振りにエベンさんを訪ねると、変わらぬ笑顔で迎えてくれました。少し前にお客様から「新築のリビングに飾る大きな絵」のご注文をいただき、制作をお願いした作品にかかっているところでした。4月の展示会でもエベン作品は人気が高かったので、7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」も楽しみにしていて下さいね。

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2013.5.25

絵画展での新たな試みと小説連載

ブログ29青い海こんにちは、坂本澄子です。無事バリから帰国しました。ウブドを発った後、海辺のヌサドゥアで二泊しました。ここは現地の人々の暮らしから隔絶された外国人のための青い海のリゾート。洗練された施設はバカンスを過ごす場所としては最高ですが、私はやはりウブドの素朴な生活と田園風景に惹かれます。私のバリとの出会いが、多くの人が辿る海側ではなく、「向こう側」から始まったことを改めて嬉しく思いました。

さて、GW中にこの「バリアートショールーム」への来訪者が1000名を超えたことをお伝えしましたが、繰り返しこのサイトを訪れて下さっている方が増えていることを大変光栄に思っています。オープン以来、バリ絵画の販売サイトが数ある中で、単に作品のご紹介ではなく、その誕生や進化の歴史、モチーフの文化的背景、さらには表現者としての画家個人の人となりに迫ってみたいと思ってきました。7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」はこれをもう一歩進めて、テーマと視点を取り入れる試みに挑戦しています。

#2展示会イメージ画像私は長年ビジネスパーソンとして企業に勤めて仕事をしてきました。業種、職種の違いこそあれ、このサイトを見て下さっている方々と、現代社会で生きる日本人としての物の見方や感じ方は比較的近いのではないかと思っています。絵画を特別なものではなく、もっと皆様の日常の生活に取り入れていただくためにも、何がしかの視点を持って紹介した方がよいと考えたのが、この新たな試みの理由です。「緑に抱かれる午後〜Deep into the Forest〜」はインフォメーションでもお伝えしています通り、心の奥底に眠っている原風景に出会うことで、ひとときの心の休息と、現実に向き合う力を得るきっかけとしていただきたいと願っています。私自身がそうであったように。

もうひとつ考えていることは、私がこの20数年間の会社生活を通じて経験してきたことが何かのお役に立てないかということです。誰もが似たようなことで苦労しているのだとわかれば、随分気が楽になるものです。そこでそれを小説という形で表現してみました。登場人物やストーリーはフィクションであり、また、舞台となっている年代や業界の違いなど、現在それぞれの方が置かれている環境とは異なる点は多々あると思いますが、本質的な部分で何か感じ取っていただければ幸いとの思いです。

この小説はバリ絵画とは直接関係がないため、別にサイトを設けて週1回連載していきます。スタートは7月を予定していますので、詳細が決まりましたら、お知らせしますね。

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2013.5.22

バリ旅日記最終回 永遠の夏休み

こんにちは、坂本澄子です。ウブド滞在もいよいよ最終日となりました。昨日は市街中心部にあるプリルキサン美術館を訪れた後、石畳が続くジャラン・カジェンを北に抜け、田園地帯を散策してきました。ジャラン・カジェンにはそこを訪れた人々から寄贈されたメモリアル・プレートがぎっしりと埋め込まれ、それぞれ名前やユニークなメッセージが書き込まれています。左右には素朴な土産物屋や並び、昔懐かしい金魚売りの姿も。なんだかタイムトリップをしたみたいです。20分ほど歩き石畳が途切れたあたりから、急に視界が開け、そこには緑の田園風景が。椰子の木がなければ、子供の頃に行ったおばあちゃんの田舎の雰囲気そのままです。さっきまでの市街地のうだるような暑さがうそのように、気持ちのよい風が通りぬけていきました。

ジャラン・カジェンの風情ある街並みと石畳に刻まれたメッセージ

ジャラン・カジェンの風情ある街並みと石畳に刻まれたメッセージ

ブログ28田園風景畦道を進むと、ガーガーと賑やかに鳴く声が。見れば、稲刈りを済ませたばかりの田んぼに百羽近い家鴨の群れがいます。今年孵ったばかりの雛鳥も混じって、落ち穂や虫をついばんでいました。草を踏むやわらかな感触を楽しみながら、椰子の木の小径を道なりに進むと、曲がりくねった道はいつの間にかぐるっと回って元の市街地の雑踏に戻っていました。その間わずか数十分、夢から覚めたような不思議な気分でした。

絵もある意味これと同じという気がしています。知らず知らずのうちに描かれた風景の中に引き込まれ、そこから広がるイマジネーションの世界に時間旅行、それによって心と身体を緩めることができるのです。7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」も皆様に心の夏休みを見つけていただけるよう準備を進めていきたいと思います。

ウィラナタ「夕暮れのうなぎ穫り」 プリルキサン美術館所蔵

ウィラナタ「夕暮れのうなぎ穫り」
プリルキサン美術館所蔵

バリ旅日記は今日が最終回です。10日間おつきあいいただき、ありがとうございました。

そうそう、旅日記①で今回の旅の目的として2つあげたのを覚えておられるでしょうか。ひとつがシュピース画家のウィラナタさんの作品を扱うこと、もう一つは彫刻額縁の制作です。ウィラナタさんには40センチ×60センチの作品を注文していますが、8割がた出来上がっていました。彼の作品の特徴である斜光を描いて完成させ、2〜3週間のうちにはご紹介できると思います。プリルキサン美術館には彼の作品は2点展示されていました。このようにバリ絵画を代表する画家の作品を次々とご紹介できることを大変嬉しく思います。

ブログ28額縁額縁の方は耐久性と風合いが劣化しないことを考慮して、額縁用のニャント材を使用し、職人さんにお願いして一点ずつ木彫りを施してもらうことになりました。色は焦げ茶とナチュラルブラウンの二種類を制作します。モダンな作品にはスタイリッシュなボックス額縁を使用するなど絵の雰囲気にあった組合せを提案していきますが、標準サイズの作品については、できるだけお部屋に合わせて選択できるようにしていきたいと思います。

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2013.5.20

バリ旅日記⑨ バリ島見聞録

ガイドのイッポンさん。礼儀正しく有能なガイド

ガイドのイッポンさん。礼儀正しく有能なガイド

こんにちは、坂本澄子です。今日はバリ島観光に行ってきました。実はこれまでバリに行く度いつもウブドに入り浸り状態で、バリ島内の観光をあまりしたことがありませんでした。今日はガイドさんに来てもらい、観光に行ってきました。来てくれたのはイッポンさん、もちろん本名は別にあありますが、喫煙者の彼が日本人観光客から「一本ちょうだい」としょっちゅう言われるのを見た友人から、いっそのこと通称「イッポン」にしちゃったらと言われたのがきっかけだそう。生粋のバリ人ですが、奥さんは日本人のため、とても日本語が上手。素晴らしい一日になりました。

清らかな流れで沐浴する人の姿も。

清らかな流れで沐浴する人の姿も。

まず向かったのは世界遺産ジャティルイ。ジャティルイとは「本当に素晴らしい」という意味。先週行った時は靄がかかっていましたが、今日はお天気もよく真緑の棚田の向こうに広がる青空と雲の白さがまばゆいばかりのコントラスト。イッポンさんの説明によると、バリ島では多くが三期作ですが、ジャティルイはオーガニック農法で二期作。そのため刈入れを間近に控えた稲は日本で見るよりもずっと背が高く成長していました。スバックと呼ばれる1000年も前から続く伝統的な水の分配方式の御陰で、小川の水は水草がたゆたうのがはっきり見えるほどきれい。棚田の緑と言い、水の清らかさと言い、心洗われる光景でした。

黒く見えるのが溶岩。右にわずかに見えるカルデラ湖をせき止めて流れた。

黒く見えるのが溶岩。右にわずかに見えるカルデラ湖をせき止めて流れた。

続いて向かったのは島の北東部にあるキンタマーニ高原。バトゥール火山を中心に外輪山がぐるりと取り囲んだ火山地帯で、内側にはカルデラ湖が。1989年を最後に噴火はしていないそうですが、溶岩が流れて湖の一部が埋まった跡はまだ生々しい感じが残っていました。キンタマーニ高原は外輪山のひとつで、そこから眺める大パノラマは壮観。車の中から幾重にも重なる遠くの山並みを見ていると、昨日見たウィラナタさんの風景画が思い出されました。

ウブドに戻る途中、インドネシア独立戦争の戦没者慰霊碑に立ち寄りました。戦没者の名前を見ると日本人の名前も刻まれています。第二次世界大戦中、日本軍がインドネシアを占領下に治めた時期があり、戦争が終わってもバリに留まった元日本人兵士数千人が義勇軍に加わってバリ人と共に戦ったのだそう。

イッポンさんのように日本人を奥さんに持つバリ男性は多く、彼の住む村に7組もいるそう。日本人とバリ人はそのメンテリティにおいて共通する点が多いと幸せそうな表情でした。独立を目指して共に戦ったのもわかるような気がします。日本とバリの色々な形のつながりを感じた一日でした。

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2013.5.19

バリ旅日記⑧ 憧れのチャンプアンホテル

こんにちは、坂本澄子です。昨日で仕事が一区切りついたので、今日から三日間バリ島ウブドでの休暇を楽しむことにし、以前からずっと泊まりたいと思っていたチャンプアンホテルにやってきました。ここはドイツ人画家ヴァルター・シュピースが住んでいた場所に住居を復元したヴィラがあることでも有名です。

チャンプアンホテル

(左)チャンプアンホテルのロビー。この遥か下の谷底近くまでヴィラが点在する。
(右)シュピースの住居を復元したヴィラ

チャンプアンとは“交わる”という意味。主に川と川が合流する場所のことを言い、バリの人たちから精霊が宿る聖なる場所と信じられています。橋の上から覗き込むとめまいがしそうなほどの深い谷。その急な斜面に沿っていくつものヴィラが立てられており、そのひとつがシュピース・ヴィラと言う訳です。もちろん宿泊もできますが、今回は残念ながら先約が入っていました。

部屋にはテレビもなく、WiFiもホテルのロビーだけ。美しい自然に同化して、ゆっくりと流れるバリの時を楽しんで下さいという配慮のようです。ヴィラの天井は藤を編んだもので、クラシックなファンがゆっくりと回っていました。ベッドの枕元には大きなカマサン・スタイルの絵が掛けられています。

窓を開けると遥か下の方から川のせせらぎが聴こえてきました。谷のずっと下の方から高く伸びた長い木々の間を羽ばたいて飛んで行くつがいの野鳥。まさに「緑に抱かれる午後」です。きっとシュピースもこの地に暮らし、同じように感じていたのではないでしょうか。

ブログ26ネカ美術館のウィラナタ作品午後からホテルから徒歩20分のネカ美術館に行きました。バリ絵画の歴史と進化がわかりやすい展示と解説で紹介されています。ここにはウィラナタさんの作品が展示されているとのことで、今日の目的はそれを見ることでした。ウィラナタさんはシュピース・スタイルでは、姉のガルーさんと並んで国内外で高い評価を受けている画家。先日、アトリエに伺った時にも制作中の作品を見せてもらいましたが、美術館が所蔵する作品というのをやはりこの目で見てみたかったのです。

彼の作品は展示室の中で独特の存在感を放っていました。夜明けのほのかな光を受けた水田、神々しいばかりの斜光が遠景を照らしています。同じシュピース・スタイルでもガルーさんとはまた違った魅力を持つ作品です。今から100年近く前にドイツ人シュピースがもたらした技法が今日に受け継がれ、それぞれの画家の独創性を加えてなおも進化し続けています。伝統を大切にし、そこに新たなものを加えて変わっていくところは、バリの文化の魅力のひとつではないかと思います。

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2013.5.18

バリ旅日記⑦ 艶かしくも美しい熱帯睡蓮

こんにちは、坂本澄子です。今日のウブドは朝曇り、お昼はちょっと晴れて、午後からまた一雨来そうなお天気です。乾季に向かう今の季節、ちょっと珍しい。御陰で快適に過ごせました。

ブログ25熱帯睡蓮睡蓮と言うと、夏の水辺を涼しく彩る花として、どちらかと言えば清楚なイメージですよね。ところが、熱帯睡蓮は茎が高く伸び、色も紫、青、濃い赤などとてもあでやか。ふとした瞬間、妖しい艶かしさすら感じます。そんな睡蓮のある光景を直感的な色彩で描く画家がいました。バリの画家たちの中でもひときわ異彩を放っています。

画家の名はガマ(I Wayan GAMA)。お腹の辺りをひと撫でしながらニンマリの風貌を見て、失礼にも吹き出してしまいました(ゴメンナサイ)。ちなみに、Wayan(ワヤン)は一番目の子という意味。二番目がMade, 三番目がNyoman, 四番目がKetur、五番目以降はまた最初に戻ります。Iは男性、女性ならNiです。つまり、「I(Ni) _ Wayan(Made/Nyoman/Ketur) _ 固有の名前」という命名法なのです。バリにはカースト制が残っており、この命名法は人口の大半を占める第四の層でのこと、他の層はまた別の名付けのルールがあるみたいです。だから、Wayanさんが多いのですね。

ブログ25ガマ作品話を戻します。このガマ氏、気分が乗るとインスピレーションで筆を走らせるアーティスト。直感的に背景の色を決めると、熱帯の植物や鳥をやや様式化されたスタイルで描きます。背景は写真のように黒であったり、赤、白、青、時には金を使うことも。夜ライトアップされた水槽で泳ぐ魚たちを見ていると、一日の緊張が解きほぐされていく感じがしますが、この青い睡蓮もそれと似た静かな感覚を持ちました。まるで、絵の中に小さな世界があるみたいに。

7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」では、ガマ氏の作品で、夏を連想する花のエッセンスを加えてみたいと考えています。緑とどんな風に調和させていくか楽しみです。

今回仕入れた作品は5月末までに「バリアートショールーム」の作品ページに公開します。ガマ氏の作品は四点ありますので、お楽しみに。

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2013.5.17

バリ旅日記⑥ 花鳥画の鬼才ラジックさんとの出会い

こんにちは、坂本澄子です。7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」に出品する作品が決まり、今日は朝から仕入れのため再度画家さんを回ってきました。サイト掲載用に写真を撮ったり、額縁を相談したりと最高に楽しい時間。これを選ぶお客様はどんな方だろうと想像するだけでワクワクしてきます。

ドラゴンフルーツの花。満月の夜、一夜限りの花を咲かせる。

ドラゴンフルーツの花。
満月の夜、一夜限りの花を咲かせる。

今回、衝撃的だったのは花鳥画家ラジックさん(I Made Rajig)との出会い。このサイトでも彼の作品を掲載していますが、2月に訪ねた時はタイミングが悪くご本人にはお会いできず、作品だけ見せてもらっていました。今回再びアトリエを訪ねると、とてもモダンな花の絵を制作中で、大きなキャンバスから幸せのオーラが漂ってくるほど。

さっそくお話を聞いてみました。

‘64ウブドのペネスタナン村の生まれ。父も祖父も画家、回りも画家ばかりという恵まれた環境の中、幼い頃から絵に興味を持ち、10歳から本格的に描き始めました。ちなみに、ウブドは犬も歩けば画家にあたるくらいの芸術村なので、それ自体は珍しいことではなく、ヤング・アーティスト・スタイル発祥のこの村において、ラジックさんも最初は極彩色の伝統絵画を描いていたそう。ところが、その後3回もスタイルを変えているのです。というのも、自分が描くだけでなく、人の絵を観るもの大好きで、機会あるごとに展示会に出掛けたり、画集を見たり、TVの美術番組を観たりと探究心旺盛。そんな長年の蓄積が肥やしとなって作品のアイデアが閃くようになり、いつしか作風も変化していったのだとか。バリの人たちは島の外へ出掛けることはほとんどありません。また、画家は自分と向き合う孤独な職業。同じスタイルや題材で絵を描き続ける画家が多い中、珍しい存在と言えます。

ブログ24竹筆技法は下絵、陰影付けまでがバリ絵画の伝統的な手法を用い、彩色以降はグラデーションを多用するなど、コンテンポラリー・アートの技法を用いています。バリ伝統技法で典型的なのが竹筆(写真)。これは竹を様々な太さに削って自作したもので、鳥の目回りの細かな描き込みや、輪郭をシャープに描きたいときに活躍しています。作品イメージが閃いた後は、スケッチしながら構図を決めていきますが、一旦キャンバスに下絵を描き始めた後も試行錯誤を繰り返します。奥から取り出して来た別の大きなキャンバスには、鉛筆書きで下絵の苦労が滲み出ていました。「なかなか構図がまとまらなくて、もう5ヶ月もこのまま」と苦笑い。

冒頭のモダンな作品と同じ花だが、受ける印象が全く異なる。

冒頭のモダンな作品と同じ花だが、受ける印象が全く異なる。

今回私が仕入れた作品は4点。現在のモダンな作風に移行する前に描かれたものです。いずれもやわらかな印象の作品で、絵画展の“永遠の夏休み”のコンセプトにも合っていると直感し、ほとんど一目惚れでした。きっと様々なタイプのお部屋を明るく彩ってくれることでしょう。ラジックさんは日本画家の田中一村に強い影響を受けており、彼の作品に日本画のテイストを感じるのはそのせいかも知れません。

画家としての今後の目標は世界各地での個展。ラジックさんの作品はヨーロッパにもファンが多く、イタリアの美術評論家のヴィットリオ・スガルビー(Vittorio Sgarbi)氏もバリ絵画で最も優れた画家の一人と絶賛しています。いつか日本でも個展が開けるよう、私も応援していきたいと思います。

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2013.5.16

バリ旅日記⑤ 永遠の夏休み

こんにちは、坂本澄子です。家族から夏服を出したとのメール、日本も夏の訪れを感じる季節になりましたね。

特集_緑の小径夏と言えば子供の頃のことです。田舎のおばあちゃんのうちに泊まりに行った時、従兄弟のお兄ちゃんたちと裏山探検に出掛けたことがありました。慣れない林の中を後ろからついて歩いていると、皆の姿を見失ってしまいました。急に不安になり、両側から緑が迫る小径を追いかけました。やがて少し広くなった場所に出ると、そこには大きな木が。肩で息をしながら木陰にしゃがみこむと、蝉の声に交じって、時折鳥の鳴く澄んだ声が聴こえてきました。見上げると幾重にも重なる枝葉からキラキラと木漏れ日が。風の音。森の匂い。そして一面の緑。今でも思い出す、私の心の夏休みです。

 誰の心の中にも、こんな原風景が宿っているのではないでしょうか。ふとした時に思い出しては、深いなぐさめと勇気を与えられます。そんな懐かしい風景に再会して以来、私はバリのファンになってしまいました。

バリの画家たちはこんな日本人のメンタリティとどこか似た所を持っているように思います。今回お会いした7人の画家たちもそれぞれ自分の世界を持っていました。「画家としての将来の夢は?」と尋ねると、「イマジネーションを表現し、さらにいい作品を描いていきたい」と異口同音に返ってきました。根っから絵を描く事が好きで、自分の好きな絵を描きたいのだなと感じました。ある売れっ子画家はこうも言いました。「完成する端から画商が持って行く(ゴメンナサイ)ので、手元に残っているのはわずか2点だけ。いつかの日か、小さくてもいいので、自分の作品だけを飾ったギャラリーを作り、ずっと眺めていたい」と。きっと彼は自分の描く風景画の中に、自らの心の風景を求めているのでしょうね。

特集_緑に抱かれる午後イメージ次回のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」はそんなウブドの画家たちが描く風景画、花鳥画を集めます。展示する作品構成もほぼ固まりました。これらの作品を目の当たりにして思うことは、リトグラフなど版画並みの価格で質の高い原画を購入できるということ。国内外でグループ展/個展を開催、あるいはバリ島の主要美術館で作品が所蔵されているクラスの画家の作品約40点を展示販売します。そうそう、バリ彫刻を施した額縁は何度も手を加え、かなりいいものに仕上がってきましたよ。これまでもそれぞれの作品に合った額縁を選び、額装してお届けしてきましたが、さらにバリエーションを広げる予定です。どうぞお楽しみに。

7月10(水)〜15日(祝)、どうぞあなただけの心の夏休みを見つけに来て下さい。

 明日は花鳥画の鬼才ラジックさん(I Made Rajig)の近況をお伝えします。

 

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2013.5.15

バリ旅日記④ 芸術村ウブドの生活事情

こんにちは、坂本澄子です。バリに来て早くも4日経ちました。朝食の時、宿の一番下の坊やがうちにいたので、あれ学校は?今日はバリの州知事選挙。学校が投票場になるためお休みなのだそう。今回は候補者二人の一騎打ちで、投票率は高そうです。

私はウブドに来る度に、日本の民宿みたいなところを常宿にしています。一般の人たちの生活、これがなかなかユニーク。今日はそれをご紹介します。

今朝の宿のご飯。ご主人は画家兼ヴィラの管理人兼ガイド。

今朝の朝ご飯はナシチャンプル
鶏肉の素揚げに厚揚げ風のおかず+野菜炒め。

まずは食生活。こちらの人はほとんど外食をしません。せいぜい屋台で買って家で食べる中食です。朝お母さんが一日分のおかずを作り、それを一日掛けておなかが空いた時に食べます。食材の買い物は毎朝市場へ。私も朝は宿のお母さんが作ってくれる家庭料理を食べています。ご飯と2〜3種類のおかずが一つの皿に乗せられ、それらを混ぜていただくのが基本形。ご飯はおかゆ風に調理することも。肉はほとんどが鶏肉。ヒンドゥ教徒のため牛肉は食べません。豚の丸焼きや家鴨は祭事のごちそうとして振る舞われます。お酒は税率がとても高く、ココナツを原料とする地酒もありますが、現地の人がお酒を飲んでいる姿はあまり見かけません。

次に交通事情。庶民の足はバイクです。法律はありますが取締りが少ないためか、ヘルメットなしの多人乗りが横行、前後に一人ずつ子供を乗せた三人乗り、さらには今まで見た最高の五人乗りまで、ほぼ無法地帯。信号のない細い道路に車とバイク、しかも交差点には放し飼いの犬がチョロチョロし、一本奥に入ると今度はニワトリの放し飼い…とヒヤヒヤの連続ですが、こちらの人は至ってのんびりで、事故もそれほど起こりません。でも、観光で行かれる方は運転しない方が無難だと思います。ちなみに、子供の学校の送り迎えはお父さんの仕事。低学年は7時に登校、9時には帰宅します。あら、もう帰ってきたの?という感じです。

最後に仕事ですが、バリは島全体が観光で成り立っており、農業の村ウブドも近年ホテルやヴィラの建設ラッシュで、外国人向けの宿泊施設、レストラン、ショップで働く人が増えてきました。また、公共の交通機関がないため、自家用車やバイクを持ち込んでガイド兼運転手として働く人たちの客引き、路上の物売りなど、色んな人でごった返しています。絵を描いては土産物として売っている職人(一定のパターンで塗り絵的に絵を描く人を画家とは区別しています)もたくさんいます。しかし、まだまだ共同体意識が強いムラ社会。祭事があれば仕事を休み寺院に集い、共同作業に勤しむというように、一年が寺院祭礼を中心に回っています。

制作中のガルーさん。この後ろには幅2m以上もある大型キャンバスが制作を待っていた。

制作中のガルーさん。この後ろには幅2m以上もある大型キャンバスが制作を待っていた。

インドネシアは他の東南アジア諸国に比べて、経済面で出遅れ感がありました。しかし、アジアショックで数年前まで国民の大半が食べるのがやっとの生活を送っていた頃に比べると経済は急速に加速している印象を受けます。今回、おつきあいしている画家さんを訪問して感じたことは、ジャカルタからの大型作品の注文が増えていること。経済的に余力のある人が増え、芸術を楽しむと共に絵画は投資の対象にもなっています。いずれもプロの画家として真剣に制作に取り組んでおられ、作品の販売に関わる者として大変嬉しく思いました。7月の絵画展の構想もほぼ固まってきましたので、明日から画家の近況を交えながら、少しずつご紹介していきますね。

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2013.5.14

バリ旅日記③ バリ島で温泉発見

こんにちは、坂本澄子です。バリ3日目は火葬式で大混雑のウブドを抜け出し車を走らせること40分、ウィラナタさん(シュピース・スタイル画家、ガルーさん実弟)を訪ねました。制作中の作品を見せてもらいながら、お話を聞く中で、やっぱり芸術家なんだ…と思ったことがあり、ちょっと嬉しくなりました。その話はまた別の機会に。

ブログ21ジャティルイ棚田2お昼頃おいとまして、さらに足を伸ばしてジャティルイに向かいました。ここには昨年世界遺産に認定された美しい棚田があります。バリ島で二番目に高いバトゥカル山(標高2276m)の麓に位置するジャティルイは、雲が山にぶつかって雨を降らせるため稲作に欠かせない水が豊富で、また火山灰から染み出るミネラルが土地を豊かにしています。棚田を見渡すレストランのテラスで昼食、お客はほとんど外国人観光客です。バイキングで900円、昨日のパダン料理に比べると観光地プライスです。運転手のプトゥさんの姿が見えないと思ったら、彼らには主人を待つ間無料で食事が振る舞われる場所があるのだとか。下から上がってくる霧で霞んでいましたが、今見てきたばかりのウィラナタさんの作品のように幻想的な雰囲気を醸し出しており、その意味ではラッキーでした。

ブログ21バリの温泉火山と言えば温泉。バリ島にもあるらしいと聞くといても立ってもいられなくなり、急遽温泉探検に。次第に道が悪くなり、舗装されていないところを通り、最後は車を停めて徒歩で谷を降りた所にようやく見つけました。写真のように水着を来て入るパブリックエリアと日本の家族風呂みたいなプライベートスペースがあります。250円の入場料を払って、プライベートスペースでお湯加減を見せてもらうと随分ぬるいお風呂です。それを聞いた係の人が、こっちのお風呂はvery hotだと手招きするので行ってみると、そこが源泉で岩間からお湯が涌き出していました。それでも、日本の感覚からするとそれほど熱くはない、きっと38℃くらいでしょう。でも考えてみると、熱帯のバリでわざわざ汗だくになる必要はないですよね。ブログ21バリの温泉2これが適温なんだと納得し、今来た道を上がって外に出ると、そこには地元の人向けの無料の温泉施設がありました。施設と言っても小さなお風呂をちょっと囲んである程度の場所ですけど。車まで戻る途中、ひと風呂浴びに来た少年たちに会いました。写真撮らせてと言うと、とっても愛嬌のある笑顔を振りまいてくれました。観光の島バリ、外国人に対するこの距離感がなんとも心地よいのです。またバリが好きになってしまいました。

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