最近読んだ本から
こんにちは、坂本澄子です。
ごめんなさい、10日もご無沙汰してしまいました。
実は広島の実家に帰っておりました。滅多に電話をかけてくることのない母から、突然弱った声で、「ふたりとも具合が悪くて…」と連絡があり、さすがに慌てました。その日は朝から出かけていたのですが、着替えも仕事の道具も持たず、そのまま東京駅へ直行、新幹線に飛び乗りました。
おかげさまでそれほど深刻な状態ではなかったのですが、両親とも結構な高齢、父が骨折をして自分では何もできなくなったことに端を発し、負担のかかった母もついにダウン。ほんの数ヶ月前の元気な姿は見る影もなく、親が年をとるということはこういうことなのかと、じわじわ来た次第です。
大学から親元を離れたので、一緒に暮らしていた時間は短く、「便りがないのはよい知らせ」といやみを言われるくらい、淡々とした親子関係だったと思います。これからはもう少し一緒にいる時間を増やすようにという、神様からのメッセージなのかも知れませんね。皆様もどうかご両親を大切になさってください。
いろいろ大変でしたが、いいこともありました。病院の待ち時間、行き帰りの新幹線で、かなり本が読めました。
特に面白かったのが、原田マハさんの『#9 ナンバーナイン』、上海を舞台にした大人の恋愛小説です。かつてMoMA(ニューヨーク近代美術館)に勤務し、キュレーターでもある原田さん。モダンアートの取引に関わる舞台裏が丁寧に描かれています。中国奥地の寒村に生まれた画家が描いた、心に染み渡る風景は、ウィラナタの棚田の風景を思わせました。「#9」というタイトルの意味は何か、急展開していくストーリーは、終わりに近づくほど、2行一緒に読んでももどかしいくらい。アート好きなあなたにオススメですよ〜。
帰りの新幹線に乗る前に、駅の本屋さんの新刊コーナーでパッと手に取ったのが、村上春樹さんの『村上ラジオ3』。随分昔にイラストレーターの安西水丸さんとコラボされた、『ランゲルハンス島の午後』という絵本がありましたが、この『村上ラジオ』も洗練された文章と素朴なイラストがいい感じで絡み合っています。2000年3月からアンアンで連載されたエッセイが単行本化されたシリーズ第三弾。アンアンの読者=若い女性と村上春樹さんって、なんだかあまり結びつきませんが、余計な雑念がない分、自由に書きたいことが書けたとご本人談。何気ない日常(といっても、多くは海外が舞台なのでオシャレなのは羨ましい限り)の光景が独自の視点で描かれています。
あなたは最近どんな本を読まれましたか?
熱帯の密林の中へ
こんにちは、坂本澄子です。
アンリ・ルソーが好きで、
原田マハさんの『楽園のカンヴァス』ー ミステリー、恋愛小説、ビジネス小説、アート…、様々なジャンルがてんこ盛り。ぐいぐいと読者を引っ張っていく展開の速さと意外な結末、そして最後は心に爽やかな風が吹き抜けていく、そんな小説です。
大学時代に美術史を専攻し、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に勤務、また、キュレーターとしての経験も持つ著者ならではの作品。アートに対する深い造詣と、小説としての面白さがダブルで押し寄せてきますよ〜。
物語の中にはルソー、ピカソなどたくさんの絵が出てきますが、この本のタイトルとも密接に関係しているのが、ルソー最後の作品『夢』です。MoMAにキュレーターとして勤務する主人公ティムが、この作品を前に次のように思う場面があります。
「作品の舞台は、密林。夜が始まったばかりの空は、まだうす青を残し、静まり返っている。右手に、ぽっかりと明るい月が昇っている。鏡のような月だ。
月光に照らし出される密林は、うっそうと熱帯植物が密集している。名も知らぬ異国の花々が咲き乱れ、いまにも落ちそうなほど熟した果実が甘やかな香りを放つ。ひんやりと湿った空気のそこここに、動物たちが潜んでいる。その目は爛々と、小さな宝石のように輝いている。
遠く近く、聞こえてくるのは笛の音ー黒い肌の異人が奏でる、どこかせつなくなつかしい音色。耳を澄ませば、そのまま彼方へ連れ去られてしまいそうなほど、深く静かな旋律」(原田マハ著『楽園のカンヴァス』より)
この箇所を読んだとき、初めてウブドを訪れたときの記憶に重なりました。
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ルソーの絵が好きなあなたにぜひご紹介したいバリ島のアーティストがいます。Dewa Nyoman LABA(デワ・ニョマン・ラバ)。
写真のように、作品のほとんどが緑、緑、緑です。ニュアンスの異なる緑が巧みに配置され、絵に深みをもたらしています。まるで密林に迷いこんだように、森の匂いやひんやりと湿った空気がからみついてきます。遠くの村からかすかにガムランの音色も聴こえてきそう。
今年68歳のLABAさんは、熱帯の森に暮らす動物たちを描き続ける、巨匠格のアーティスト。深い緑とユーモラスな動物たちに、私自身いつも癒されています。あなたもこの癒されるような深い緑に包まれてみませんか。LABA作品ページはこちら。また、この作品に関するお問い合わせはこちらから承ります。
<関連ページ>
LABA作品ページ ・・・お求めやすい小さな絵もあります
応援したくなる作家
こんにちは、坂本澄子です。
バリ島は今日はニュピ(バリ暦の新年)、静寂の一日でした。ウブドでは清々しい快晴の朝を迎えた後、俄かに薄暗くなり、おや、一雨くるのかなと思っていたら、日食だったそうです。日本では残念ながら、ほとんどの地域で雨模様でした。
さて、最近おもしろい本を読みました。『公方様のお通り抜け』、江戸時代末期を舞台にした時代小説です。作家は西山ガラシャさん、「日経小説大賞」を受賞し、この作品でデビューを飾った女流作家です。
私は普段時代小説を読むことはほとんどないのですが、この本に出会ったのは、その授賞式を見に行ったから。毎回楽しみにしているのが、授賞式の後に行われる選考委員の3氏(辻原登、高樹のぶ子、伊集院静)による座談会。特に、伊集院静さんのボソッとつぶやく発言は最高です。今回も「今の時代、みんな疲れて帰ってきて、小難しい本なんて読みたくないんだよ。そういう意味でも、この小説は素直に楽しめた」というコメントに、俄然興味を持ったというわけです。
ちなみに、3人というビミョーな数の選考委員、全員一致で決まることなど過去一度もなく、今回も激しいやりとりが繰り広げられた末、男性委員2人が推しまくった?というこの作品に決まったそう。
「落語を聞いているような軽快な文体で、ムダな文章がひとつもない」
この一言で駄目押し〜。実際、本当に面白く、一気に読みました。
寛政4年、14代将軍家斉が鷹狩りの後で、下屋敷の庭を通り抜けるという一大行事が決まり、大騒ぎの尾張藩戸山荘。御用聞きとして屋敷に出入りする大百姓の主人公外村甚平は、金儲けが何より好き。褒美金欲しさに、将軍を楽しませるためのアイデアを百姓衆から募り、不思議な滝、怪しい洞窟、お化け屋敷のような町屋と、まるで江戸時代のテーマパークを作るというストーリー。
グイグイと引っ張られるような早い展開ながら、登場人物たちの描写にも決して手を抜かず、気がつくと甚平やその周りの人たちを好きになっている。倹約の時代は現代社会の閉塞感にも通じるところがあり、爽快なハッピーエンドの中にも、じんわりとした余韻が残る作品です。いい作家さんが出てきたなあという印象で、二作目、三作目と、その成長を見守っていきたい、そんな気持ちになりました。
ところで、絵画のコレクターがある画家の作品を集めるきっかけも、これと似たところがあるかも知れません。技術的には多少至らないところがあったとしても、他の作家にはない魅力を感じて、次はどんな作品を出すだろうかと心待ちにする心境です。
「バリアートショールーム」では、そんな若手作家として応援している人がいます。
ボリ(Putu Antara BOLIT)。28歳、織田裕二似の好青年です。メッセージ性のあるモダンな女性人物画を得意としていますが、彼の描いた花の絵が見たくて、最近一枚描いてもらいました。期待通りの出来栄えに、春のキャンペーン「記念ギフトにお花のアートはいかが」の制作をお願いすることにしました。
異動の多いこの季節。一緒に仕事をした仲間から花束を贈られる方も多いと思います。その花束を「世界でただひとつの絵」にして、思い出と共に大切に残しませんか。
詳しくはこちらをどうぞ。