光と戯れる風景
Bこんにちは、坂本澄子です。
前回、写実絵画専門の美術館として定評のあるホキ美術館と画家・島村信之さんの作品をご紹介しました。島村さんの婦人像は、光という名脇役が、主役である女性の清らかな美しさをより強く印象づけているように感じました。このような光を用いた室内画は、北窓の部屋で描くのが常識だそう。時間の経過によって光が変わるのを抑えるためなのでしょうね。
一方、光の変化によって絵の印象が変わるのを楽しめる作品もあります。その代表格が、こちら、ウィラナタの『光の風景』です。
ウィラナタは、光との戯れをテーマにした風景画を得意とする画家です。山の向こうに夕日が沈む最後の瞬間を描いたこの作品も、そんな画家の魅力が存分に感じられます。
光の変化による見え方を検証するために、作品にスポットライトをあててみました。(写真下、iPhone 5で撮影)かなり印象が変わりますね。逆光となった左右の木の端がキラキラと光り、水をたたえた棚田はまるで鏡のようです。
実際にこの絵を飾っていると、部屋の明るさや窓から入る光の変化によって、見え方が変わってくるのがわかります。以前、鑑賞会を行った際には、「絵の中でも実際に夕暮れが進行しているみたい」とおっしゃったお客様もありました。
そこで、次回のバリアートサロン(11月29日)では、クリップ式ライトを使って、その変化を実際にご覧いただきたいと考えています。ぜひご一緒に体感してみてください。
ところで、冒頭の写実絵画は、先月亡くなった巨匠・森本草介さんをはじめ、日本では高値のつく著名作家を多く輩出していますが、その緻密さゆえに年に4、5点と言われています。描かれたものが実際と同等の物質感を持つまで制作が続くという、気の遠くなるような仕事に、世界的にみると決してメジャーな分野ではなく、むしろ描き手がどんどん減っていると聞き、とても残念に思いました。
時間と手間を惜しまず作品に向き合う点では、バリ絵画にも共通するものがあります。以前、ウィラナタに聞いたときも、年間に描ける作品はやはり数点だと言っていました。そんな貴重な作品、写真ではなかなか伝わらない本物の絵の持つ美しさを、ぜひ見に来てください。2015歳末感謝セールも好評開催中です。
<関連ページ>
第6回バリアートサロン 11月29日(日) 11:00-12:00
2015歳末感謝セール ほとんどの作品が10-20%off (12月28日まで)
触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに…
こんにちは、坂本澄子です。
今日のタイトルは、写実絵画の巨匠、野田弘志さんが著書の中で、「写実絵画とは何か」を語られた言葉からお借りしました。
まるで写真を見ているような精緻な写実絵画に惹かれ、そのコレクションで有名な千葉県のホキ美術館をよく訪れています。360点のコレクションのほとんどを観たでしょうか。
先日の日曜日、企画展『写実って何だろう?』の最終日に行ってきました。ちょうどギャラリートークが始まったところで、いつもより多くの来場者に混じって解説員のお話を伺うと、写実絵画に対する見方が少し変わったことがありました。
島村信之さん。静謐な光と清らかな女性像を描く画家として定評があり、ホキ美術館にも多くの作品が所蔵されています。その清らかなタッチは本当に素敵で、女性の私が見てもうっとりするほど。
ところが、その島村さんが戦闘的な姿のロブスターを描かれたのです。今でこそ、氏の代表作のひとつとなっていますが、当時、それを見た人は「島村さんはこんな絵も描くのか」と驚き、画廊では売れ残りの絵になってしまったのだそう。その迫力に圧倒されつつも、はたと飾る場所を考えるとなかなか手が出せなかったのでしょうね。1年半画廊の壁を飾った後、ホキ美術館に最適の住処を見つけ、瞬く間に人気作品のひとつとなったという訳です。
この作品を描くにあたり、島村さんはなんとロブスターの剥製作りから始められたそうです。生きているロブスターを買ってきて、茹でてて(だから赤いのです)、その身を存分に味わった後、殻をバラバラにしてまるでロボット模型のように。その硬い殻の感触を指先に感じながら、子供の頃に観た戦闘アニメを思い出しながら、組み立てたのです。
それまで、写実絵画といえば、その技術的な巧みさにばかり目がいっていましたが、このエピソードをお聴きして、画家が五感を通じて得た情報を作品としてアウトプットする作業は、決して写真のように単眼的に写し取ったものではなく、画家の思考、感情、感覚などが立体的に作用して、紡ぎ出されるものであることを知りました。そう思って、島村さんの描かれた婦人像を改めて観てみると、光と戯れるような眼差しや肌の美しさが真に迫ってくるわけがわかるような気がしました。
都内からは少し距離がありますが、美術館のモダンな建物にも様々な見所があり、それだけでブログ一本かけちゃうくらいです。そして、併設レストランのイタリアンが美味しいのも嬉しい。駐車場は無料で利用できますので、ドライブがてら如何でしょう。おすすめです。
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作風は異なりますが、ウィラナタの『満月の夜に』を観たときにも、同じ印象を受けました。つまり、画家の五感が感じたことをこの絵から受け取ったのです。
水に映るまばゆいばかりの満月。
湿った空気。
足先に感じるやわらかい草の感触。
田んぼから流れ落ちる水の音。
澄んだ音色を奏でる虫の聲。
篝火の光で浮かび上がる、
田んぼの生き物たち。
それらが、まるでその場にいるかのように感じられるのです。
そんな感覚をぜひ味わっていただきたくて、11月29日、「第6回バリアートサロン」でこの作品を展示します。アクセス人気上位作品もご覧いただけますので、ぜひお越しください。詳しくはこちらをどうぞ! 2015歳末感謝セールも好評実施中!ほとんどの作品が10-20%offです。
発表!今年の人気アクセスTOP10
こんにちは、坂本澄子です。秋も徐々に深まってまいりました。秋といえば…新米。明太子でもあろうものなら、困ったことにご飯が何杯でもいけちゃうんですよね〜。バリの人もお米大好き。ご飯にサンバルがこれまたよく合うんです。これはかなり危険^o^;
食欲はさておき、芸術の秋です。11月の第6回バリアートサロン(11月29日)は、今年たくさんのアクセスをいただいた作品を展示・販売します。作家たちの制作への思いや作品解説もたっぷりお伝えします。今年最後の「バリアートサロン」に是非お越しください!
ところで、人気作品と一口に言えども、たくさんの人がアクセスする作品、じっくり時間をかけて見られる作品、もう一度戻って二度見される作品など、人気の中身はさまざま。人数、回数、時間などを元に集計しました。
それでは、2015年アクセス人気ランキングTOP10の発表〜!画像をクリックすると作品全体が、また、以前ブログでご紹介したそれぞれの作品の見どころを「詳しくはこちら」からご覧になれます。よろしかったらあわせてどうぞ!
11月の第6回バリアートサロンでは、これらの他にも上位作品を展示いたします。
ところで、人気のある作品ばかりがよい作品とは限りませんよね。画家と見る人の感性がぴったり合った時に感じる「やっと会えたね〜」という幸福感は、人と人の出会いとまったく同じ。その気持ちをどうか大切にしてくださいね。サイト掲載の中でご覧になりたい作品がありましたら、申し込みフォームのコメント欄にその旨をお書き添えいただければ、会場に展示いたします。また、当日はバリ絵画の変遷と主要スタイルのご説明も致します。詳細とお申込みはこちらをどうぞ!
*『バリ島』SOKIは注文制作のため、展示は行いません。あらかじめご了承くださいませ。
1000人が押しかける?! バリの結婚式
こんにちは、坂本澄子です。3連休ですね。特に今日10日は大安吉日とあって、結婚式を挙げる方も多いのではないでしょうか。
そこで、今日から2回にわたって、バリ島の結婚についてご紹介します。バリの伝統的な結婚式は日本とはかな〜り違うようですよ。
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まず驚くのが、結婚式の数日前から新郎・新婦は外出禁止になること。理由はいくつかありますが、ひとつにはマジックにかかって、大切な結婚を邪魔されないようにということみたいです。目に見えない力を信じるバリらしい習慣ですね。実際、門の近くに近づくことさえダメという徹底ぶりなのだそう。
そして、いよいよ結婚式当日。結婚の儀式は大抵が自宅で行われます。朝から家族で新婦の家に行って「お嬢さんをください」「いやいや、ウチの娘はそう簡単にはやれない」といったやりとりが繰り広げられます。これが家を出る儀式。このあたりの様子は、私の大好きなバリ・ブログ『バリ雑貨店スタッフ達のへんてこバリ島生活』に臨場感たっぷりに紹介されていますので、こちらもぜひ読んでみてくださいね。
家を出る儀式が終わると、今度は揃って新郎の家に行き、女性が男性の家に入るための儀式、続いて結婚の儀式が行われます。伝統的なバリの家屋では、敷地の中央にバレ・ダンギン(Bale Dangin)と呼ばれる東屋がありますが、ここにプタンダ(祭司)を呼んで行うんです。
このあたりから招待客がひっきりなしにやってきますが、この数がハンパじゃないんです。バリ島には招待客は多ければ多いほどいいという考え方があり、その数、1000人単位@_@
招待客のお祝いは、米に砂糖にコーヒーが定番。ザルにザザ〜っと入れて、そのまま頭の上に載せて持参、いたってシンプルです。お祝いのお料理は親戚と村の人たちで準備しますが、お米100キロ炊いたという話もあるくらい。そんな量、いったいどうやって炊いたのでしょうね。新郎・新婦は婚礼衣装を着たまま、訪問客への対応は夜まで続きますので、まさに長〜い1日です。
日本人女性がバリの男性と結婚する場合は、これに改宗のための儀式が加わるため、さらに複雑。生まれてからの様々な儀式を順番にぜ〜んぶやってしまうのだそうです。「言われるがままに動いて、何だかよくわからないうちに終わってました」とは、くだんのバリ雑貨店スタッフの奈々さん。いまやお子さんを授かり、バリ島生活の長い奈々さんでも、まだまだバリには摩訶不思議なところが多いそう。
そんなバリの人々の一生を取り巻く儀式を描いたSOKIさんの作品『バリ島2』がこちら。これを見ると、バリの人々の生活がいかに神様と深く関わっているかがわかります。作家自身が語る作品解説(Youtube)もご覧になってみてくださいね。
次回は『たかが結婚、されど結婚 〜 バリ編』をお届けします。
第5回バリアートサロン(10月17日開催)もいよいよ来週末に迫りました。今回は細密画をテーマにお話しますよ〜。詳しくはこちらをどうぞ。
<関連ページ>
ソキ作品ページ・・・バリの風習がびっしりと描かれた作品をお楽しみください
バリ雑貨店『ピュア☆ラ☆バリ』の人気ブログ『バリ雑貨店スタッフ達のへんてこバリ島生活』・・・バリ在住だから書けるこの臨場感
バリ島のお祭りを描いた作品
こんにちは、坂本澄子です。
先日の満月&スーパームーン、きれいでしたね。東京ではほとんど雲もなく、晴れ渡った空にぽっかりとまあるい月が浮かびました。
バリのウク暦では月の満ち欠けに基づき、210日で一年が回っていきます。満月の日にはいつもお寺にお祈りに行くそうですが、今回はウブドでもいつもより盛大に満月のお祭りが行われたそうです。これからしばらくいいお日柄が続くため、様々なお祭りや結婚式のラッシュ。お祭りの内容によってお供え物も変わり、置く場所も決まっているのだそう。村の女性たちはこれらがぜ〜んぶ頭に入っているんですって。結婚式にはお米やお砂糖を頭の上に載せて、お祝いに行くのだそうですよ。
ところで、お祭りの様子はバリ絵画の題材としてもよく描かれますが、実はこれ、1920年代以降と比較的新しいことなのです。それまではバリにおける絵画は神様を讃えるためもので、もっぱら神話の場面が描かれていました。(カマサン・スタイル)
多くの観光客とともにバリ島を訪れた西洋人画家たちは、南国の風習や風景が珍しくて、それらを題材にして絵を描きました。バリの画家たちはそれを模写することで、西洋絵画の技法を習得し、かつ、題材として日々の生活に目が向けられるようになったというわけです。(ウブド・スタイル)
そんなバリの暮らしを描き続ける伝統画家ダギン(Daging)氏の作品『村の暮らし』(写真左)です。
バリの正装であるウダン(頭巾)とサルンを身につけた男性、お供えを頭の上に載せ、忙しそうに立ち回る女性たち。お祭りの準備をする姿が生き生きと描かれ、活気あるバリ島の生活が伝わってきますね。
また、バリ絵画の特徴のひとつでもある細密画。(クリキ・スタイル)この『チャロナラン』(写真下)は、バリ島のお祭りの様子がわずか15cmx49cmの上に精緻な筆使いで表現されています。細密画で有名なクリキ村の画家ならではの線の細さと優美さは秀悦。これで30,000円はお買い得ですよね。
第5回バリアートサロンは細密画を取り上げます。今月は土曜日開催の10月17日です。詳しくはこちらをどうぞ!
<関連ページ>
カマサン・スタイル・・・バリの古典絵画
ウブド・スタイル・・・西洋絵画の影響を受け、一般の暮らしにも目が向けられるように
クリキ・スタイル・・・画家どうしで細かさを競ったことから始まったバリ細密画。
もうひとつの満月
こんにちは、坂本澄子です。
電車の吊り広告で前から気になっていたキリン「十六夜の月」、コンビニで見つけてついに買っちゃいました。ワイングラスに注ぐと、ふわっといい香り。ベルギービールを思わせるような、やわらかい飲み口でした。これかなり好きになりそうです^o^
9月といえば中秋の名月。今年は9月27日です。月が地球に最も近づくスーパームーンとも重なるそう、大きく明るい満月が期待できそうですね。
さて、今日はバリの満月を描いた作品をご紹介します。この作品はお客様からのご依頼により制作したものです。
ご注文くださったのは、5月の「春のバリ絵画展」でウィラナタの『満月の夜に 〜フルムーンガルンガン』(左写真)をご覧になった江東区のK様。
「この絵好きだけど、ちょっと大きいなあ」。そこで、その絵の持つ雰囲気はそのままに、30x50cmのサイズで新たに描いてもらうことになったというわけなのです。
さっそくウィラナタさんに相談したところ、「そのサイズだと結構難しいけど、とにかく全力で頑張ってみるよ」との心強いお返事。確かに、元の作品は60x80cmと約4倍ですから、そのまま縮小というわけにはいきません。絵の大きさにあった構図というものがありますものね。
一体どんなふうになるのか、私もお客様と一緒にドキドキしながら楽しみに待っていました。そして出来上がった作品がこちらです。
ウィラナタさん、さすがです。。
青白い満月と石油ランプの暖色系の光。ふたつの光が交錯する幻想的な雰囲気は、元の絵の雰囲気そのままです。作家の弁を伺ったところ、「これは夜8時頃、日没後、まだ微かに明るさの残る東の空に大きな満月が昇ったところを描いたものです。牛を引きながら、家路についた農夫とその息子。その温かな関係と一日を終えた充実感を静かな情景の中に表現したいと思いました」
そして、この絵にはもうひとつ素晴らしいところが。写真ではわかりづらいかも知れませんが、キャンバスの隅から隅まで、細いところまで実に丁寧に描き込まれているのです。いい絵というのは主役以外の部分も決して手を抜かず、隅々にまで見所があるものですが、この絵の場合、暗い部分もよく見ると、葉っぱなのか土なのか、自然の息吹とでもいった何かが感じられます。それが見る人の想像力をかきたててくれる、そんな魅力ある作品です。
画家にそのことを伝えると、「久しぶりに小さな絵を描いて目を使いましたよ。おかげでいつもの倍時間がかかっちゃった(笑)でも、自分でも満足のいく作品に仕上がりました。お客様にも同じように思ってもらえると嬉しいです」
もちろんK様にも喜んでいただけました。ご注文制作は最後まで実物を見ることができない分、ご不安もあると思いますが、お部屋にあったサイズで気に入ったモチーフを描いてもらえるという点ではおすすめです。お客様のお気持ちに寄り添って、お手伝いができればと思っています。注文制作の詳細につきましては、こちらもどうぞご覧ください。
それでは、連休最終日、楽しんでくださいね〜!
<関連ページ>
ウィラナタ作品ページ・・・幻想的な光との戯れ
ご注文制作の流れ・・・ご注文制作はこのように進めさせていただきます
第4回バリアートサロン・・・いよいよ今週日曜日。バリ絵画の歴史と進化についてお話します
こんなところに画家の工夫 ー プンゴセカンの巨匠ラバ
こんにちは、坂本澄子です。長雨の後、ようやくお日様が顔を見せてくれましたね。前回はブログをお休みしてしまい、ごめんなさい。
実は、今バリをモチーフにしたちょっとシュールな絵を描いています。
仕事でイヤなことがあって、グダグダに疲れて帰宅。「あ〜、もうヤダっ」とソファに倒れこむと、今日の出来事が脳裏に蘇ってきます。そんな時って、ありますよね。ふと、ソファの後ろに飾られたバリの絵が目にとまり、「あ〜、またバリに行きたいっ」とため息。目をつむってウブドの田園風景を思い浮かべていると、いつの間にかウトウトと。その波長が絵の風景とシンクロし、夢と現実の境目がなくなくなっていったらおもしろいな…と思った気持ちを、ソファで眠る人物、その後ろにかかった大きなバリ絵画という構図で表現してみました。
この絵に登場させる画中画については、かなり試行錯誤を繰り返しました。最初はバリで撮ってきた写真を元に描き起こそうかとも思いましたが、それはバリ絵画ではありません。バリの作家に対するオマージュとして、プンゴセカンの巨匠ラバさんの絵を模写させてもらうことにしました。その一部が左の写真です。
模写しながら、ラバさんの絵に対する自分の考えがどんどん変わっていくのを感じました。それまでは、「深い色の緑が、子どもの頃の懐かしい風景を思い出させてくれる」というノスタルジーに基づくものでしたが、新たに、これだけの作品を描くための画家の技術的な工夫を随所に感じたのです。
ひとつは色の調和の見事さ。ある色がその場所に使われているのは、画家にとっての必然性がちゃんとあってのこと。例えば、左の赤いインコ。主役にふさわしい強いコントラスで描かれています。赤の強さを中和させつつ、引き締める役割を果たしているのが黒。つなぎ色としての黄色。そして、頬に赤の反対色のシアンを使うことで、日本の着物の柄を思わせるような装飾的な美しさを出しています。
ふたつめは様式化された描き方です。背景の空と水を見ると、形を徹底的に簡略化し、その分、色と明暗とで変化を出しています。見る人が想像を膨らませて、その時の気分でいろんなことを考えられる間合いのようなものを作り出しています。例えば、この空の向こうにもうひとつ別のバリがあるんじゃないか…とか妄想してみると、あたまのマッサージになりそう。
そんなラバさんの絵の魅力は小さな絵にもぎっしりつまっています。バリアートショールームにある作品から2点ご紹介します。
先ほどの赤のインコを50cmx40cmのキャンバスに描いた作品がこちら『LOVE, LOVE Ⅲ』です。
雌の方は緑に溶け込むような淡いタッチで、赤の雄のインコとは対照的に描くことで、小さいながらも画面に広がりを感じさせます。
背景の緑は、笹のような尖った葉と三つ葉に蔓と、緑一色に見える背景の中にも、様々な変化があるのがわかります。白のプルメリアが曼荼羅的なリズムをもたらしているのも、面白いですよね。
『少年たちの情景』は緑と茶系の色使いで描かれ、母なる大地を感じさせる絵です。先ほどの作品と同様に、青みがかった緑から、黄色がはいった緑まで何種類もの色調が用いられ、濃淡、明暗による変化で、実に豊かな色の表現があります。
そして何と言ってもこの絵の特徴は、風でしなる椰子の木が斜めに横切るダイナミックな構図です。単純化された草や稲穂、水、空の形、そして、少年たちの素朴な表情が、逆にその力強さと動きを引き立てています。見る人を飽きさせない絵というのは、きっとこういう作品をいうのだと思わされます。
この2点は、9月27日の第4回バリアートサロンで実物をご覧になれます。好評受付中、詳しくはこちらをどうぞ。
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バリの古典絵画 その素朴なあじわい
こんにちは、坂本澄子です。
天井にいっぱいにギッシリと古典絵画が描かれた場所をご存知でしょうか。バリ島東部の古都クルンクンにあるスマラプラ宮殿です。イスラム勢力の侵攻から逃れてきたジャワの知識階級(王国の廷臣、僧侶、工芸師)がバリ島に渡来したのが16世紀。文学、影絵芝居、音楽、彫刻など様々な文化がもたらされ、現在のバリ島の文化の土台を形成しました。
そのスマラプラ宮殿で最も異彩を放っているのが、こちらクルタ・ゴサ。裁判所として1942年まで実際に使用されていた場所で、村のレベルでは解決できない問題や犯罪が持ち込まれました。当時使用された机や椅子がそのまま残されており、天井にはこの通り、いっぱいにかけられた絵画。首が痛いのをガマンしてしばらく見ていると、それが地獄絵であることがわかります。
さすが裁判所。悪いことをするとこうなるというのを絵で示しているというわけです。三途の橋を渡る人々、落ちれば下は火の川です。地獄の大釜で釜茹でにされる人。木の葉が剣になってきて、グサッ。地獄の様々な刑罰の場面がずらりと並んでいる割に、こわーいという感じにならないのは、その素朴なタッチのせいでしょうか。
続いては、少し優雅に行きましょうか。
同じ敷地内にあるバレ・カンバン。水の宮殿とも言われ、水に浮かぶように建てられた珍しい建築様式。王族の休憩所として建てられたこの場所は、暑さをしのぎつつ、池に咲く蓮の花を愛で、音楽に打ち興じていた雅やかな姿が眼に浮かぶようです。ここにもギッシリの天井画が飾られていますが、こちらはラーマーヤナー、マハーバーラタなどヒンドゥ神話の場面が描かれています。
ヒンドゥ教の三大神と言えば、プラフマ(世界の創造を司る神)、ウィシュヌ(世界の秩序を司る神)、シヴァ(終わりの日に世界の破壊と再生を司る神)と、それぞれに役割があり、中でも、10以上の化身を持って物語にも多く登場するウィシュヌは、バリの人々から敬愛され、絵画のモチーフとしてもよく取り上げられています。横向きの顔、平面的な人物描写が特徴ですが、それは、バリ絵画が影絵芝居を起源としているからなんです。
このように、バリの芸術は神々と人間界をつなぐものとして生まれ発展してきました。舞踊しかり、音楽しかり、彫刻、絵画などの装飾しかりです。絵画においては、描く題材はあらかじめ決まっており、描き手個人の個性を発揮するというよりは、職人としての技術的な面が重視されました。この古典的な描写を今に伝えているのが、カマサン・スタイルで、素朴な味わいがあります。
そのカマサン・スタイルから女流画家ムリアティが描いた『ラーマヤナー 魔王と戦う正義の猿軍団』をご紹介します。
『ラーマヤナー』はウィシュヌの化身であるラーマ王子が政変で国を追われ、鬼神にさらわれた妃シータを探して旅する物語。お供の猿王ハヌマンがサル軍団を率い、鬼神とその手下と大乱闘を繰り広げるシーンは、物語の中でも一番の見せ場。
画面中央の大男が鬼神ラワナ、羽交い締めにされているのがハヌマン、右上の人物がラーマ王子と弟のラクシュマナです。戦いの場面ですが、悲惨感はなく、どこか滑稽な感じさえするのは、先ほどの地獄絵に共通していますね。
バリ絵画ファンなら、一枚は持っていたい古典絵画。その素朴な味わいをお楽しみください。
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日本のお盆とバリ島のガルンガンの共通点
こんにちは、坂本澄子です。
今週はお盆休みで帰省をされる方も多いでしょうね。
私の郷里、広島では、お盆になるとお墓に灯籠を立てる習慣があるんです。竹を縦に6つに割って朝顔型に広げ、そこに赤・青・黄などの鮮やかな色紙を貼って作られたもので、お墓参りに訪れた人がそれぞれお墓の周りに立てていくため、写真の通りとても賑やかに。初盆のときだけ、白い灯籠をたてます。この風習、江戸時代から始まったものらしく、由来については諸説ありますが、先祖の霊をお迎えする目印の役割を果たしているのかも知れません。
バリ島のガルンガンも、先祖の霊が家族の元に帰ってくるとされ、家の前にペンジョール(竹飾り)を掲げます。これもご先祖様が迷わないようにとの目印。
善が悪に打ち勝ったことを記念するガルンガン。お祭りのごちそうを作り、親戚やご近所で互いの家を訪問し合い、盛大にお祝いをします。
日本もお盆には家族・親戚が集まったものですが、みんなの顔が揃う機会も減ってきました。日本のよき風習ですから、ご両親や親戚にご無沙汰気味の方、お電話だけでもしみてはいかがでしょうか。お話しているうちに、自分の原点に帰った気がするかもしれませんよ。
さて、昨日「ふるさと納税」を考案されたベンチャーキャピタリストの村口和孝さん(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表)とお会いする機会がありました。村口さんと言えば、DeNAなど名だたるベンチャー企業を上場させたことでも有名なキャピタリスト。ビジネス全開のオーラを想像していたのですが、アナログな面をたくさんお持ちの素敵な方でした。
徳島県の風光明媚な漁業の町のご出身。これといった産業もなく、若者たちは高校卒業と同時に都会へ。村口さんも御多分に洩れず高校卒業後、東京の大学に進学されました。人口ピラミッドは18歳を境にガクンと激減。高齢化で税収は細り、ますますさびれる悪循環。典型的な過疎の町の様相を呈していたそう。
「田舎のお父さん、お母さんたちは自分たちの消費を抑えてせっせと仕送りするわけですよ。でもね、そのお金が落ちる先は都会。就職した子供が働いて納めた税金も都会へ吸い取られていくばかり。結局、一生懸命に息子・娘を育て、すぐれた人材を世に輩出したにもかかわらず、その先行投資は結果は地方へはさっぱり返ってこないわけです」
そこで思いついたのが、地方出身者が税金の一部を出身地へ納め、そのお金を地方で創造的に使えるようにする「ふるさと納税」。日経の夕刊コラムにそんな提案を投稿したのが2006年のことだったそうです。
先行投資と回収といったキャピタリストらしい一面を見る一方で、「ふるさと」という和ことばにこめられた思いも感じました、家族や先祖を大切にし、美しい自然を尊ぶのは日本人の美徳ですよね。
村口さんにも忘れられないふるさとの情景があるそう。
「中学生の時に、水泳の練習からへとへとになって帰り、二階の勉強部屋から外を見たときに、ほとんど真っ暗な中、虫だけが鳴いていて。でも、じっとみているとうっすらとそこにモノとか植物の気配が感じられるんです。それを写生で描きたくなって、でも、うまく描けなくて。。あの絵にならない、圧倒的な存在感と空気感が凄く魅力的で、よく屋根に上がって、星空や周囲の山をずっと見ていたりしましたっけ」
誰の心の中にもこんな原風景がありますよね。それを何かの折にふと思い出し、つらい時にも頑張る力をもらえたりします。初めてバリ島を訪れたとき、懐かしい幼なじみに出会ったような気持ちになったのも、子供の頃の情景をバリ島の田園風景に重ね合わせたからかも知れません。そんなバリと日本の共通点をお話しすると、村口さん一言。
「日本人のルーツはバリにあるかもよ 笑」
村口説に一票投じたいと思います^o^
<お知らせ>
8/23(Sun) 第3回バリアートサロン「見れば見るほどおもしろいバリ島の風俗画」
バリ島の風習に触れながら、人々の生活を描いた風俗画の魅力をお伝えします。
注文制作の醍醐味
こんにちは、坂本澄子です。
暑いですね。猛暑の記録更新中の日本ですが、冬のバリ島は比較的過ごしやすく、大きなお祭りが終わった今、画家たちはみな制作に打ち込んでいます。
「バリアートショールーム」では、最近ご注文制作の比率が増えてきました。既にある作品を元にお部屋にあわせたサイズで制作したり、バリの風景に登場人物を入れて描いたりと、ご希望にあわせた作品作りのお手伝いをしています。今日はそんな現在進行中のお話を2つご紹介します。
注文制作はお高いというイメージがありませんか?画家が同じであれば、既製品とあまり変わらないのです。むしろ苦労のしがいがあるのは、お客様のあたまの中にぼんやりと存在する、まだ見ぬ作品イメージをどうご一緒に実現するかなんです。
サイズを変えるだけなら簡単と思われるかも知れませんが、これが意外に難しいのです。
ウィラナタさんに60cmx80cmの『満月の夜に』(写真左)を30cmx50cmで描いてもらっています。面積としては約3分の1。そっくりそのまま縮小すると細かくなりすぎて、見る人が自由にイメージを膨らませる余白的な部分が損なわれてしまいます。やはり、サイズにあった別の絵にする必要があるのです。
そこで、お客様がこの作品のどこを気に入っておられるのかを伺い、「空にかかる月と水に映った2つの月、そして、月の光とは対照的な暖かみのあるもう一つの光」という設定だけは変えず、後は自由にお願いしました。先日、途中経過の写真が送られてきましたが、幻想的な雰囲気はそのままに、元の作品とはまた違ったとても素敵な作品になりそうです。
元になる作品がなく「こんな感じで…」と、ご依頼を受けることもあります。ソキさんの特別企画をご覧になったお客様から、「じゃあ、こんなのは」と、ソキさんの描くバリの風景と「あるもの」を融合できないかとのご相談を受けました。最初は私自身もイメージがわかず、とにかくご希望をお聞きしながら、ラフスケッチを描かせていただきました。(絵をやっていてよかった^o^;)
結局、3回描き直しましたが、完成形をお客様としっかり共有でき、ソキさんにも具体的なイメージを持ってもらえました。後は画家を信頼して任せるのみ。「あるもの」とは空想上の生き物。もちろんソキさんも私も見たことがありません。それをどうソキワールドと融合できるのか、正直ドキドキしましたが、さすがバリの巨匠。ソキさんらしいアレンジで、エネルギーに溢れた作品になりそうです。
注文制作の醍醐味は、画家とお客様を繋いでの共同作業の中で、ドキドキ、ワクワクを共有できることにあります。そして、できあがった作品は画家があなたのために描いてくれた世界でただひとつのアート。もちろんあなたご自身を絵に入れてもらうこともできます。記念日にもぴったり。注文制作のお問い合わせはこちらからどうぞ。
<関連ページ>
ソキ特別企画 ご好評につき継続中