クリキ村に伝わる細密画ができるまで
こんにちは、坂本澄子です。
「これぞバリ絵画」と胸を張ってご紹介できる新作が完成しました。クリキ村に伝わる伝統的な手法で描かれた細密画です。
このところ、飾りやすい花鳥画、風景画が多かったのですが、バリ絵画を扱う者としては、伝統絵画もきちんとご紹介したいという思いがあり、昨年末から題材を検討していました。
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輪廻転生を信じるバリ島では、死は終わりではなく、新たな生の始まりと考えられており、とても盛大な、まるでお祭りのような火葬の儀式が行われます。
きらびやかに装飾された多重の塔は棺を乗せ、火葬する場所まで運ぶもの。最近は下に小さなタイヤがついて、日本のお祭りでも使われる山車のように押して歩けますが、以前は村人総出でお神輿のように担いでいました。
そして、火葬に欠かせないのが、ランブー。牛を象った火葬用の棺です。写真をご覧ください。こんなに大きいのですよ。
そして、会場に着くと、そびえ立つやぐらのようなものを使って、塔から棺を下ろし、張り子状に空洞となった牛の体内にご遺体を移し、火を放ちます。金銀で美しく模様が描かれたランブーが、焼け落ちていくのはもったいないほどです。
そんな壮大な儀式を思いながら、細密画の伝統絵師のライさんにお願いしました。
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それでは、『王家の火葬式』が完成するまでをご覧ください。
まず、画用紙をベニア板に水張りしてもらいました。
水張り?
はい、日本画などでよく行う手法で、画用紙にたっぷりと水を含ませ、濡れた状態でベニア板に張り付け、テープで端を固定します。乾くと紙が縮むため、シワがピーンと伸び、少々水を含んだ絵の具を乗せても、画用紙がヨレヨレになることはありません。
おおらかなバリ島では普通こんなことはしませんが、少しでも良い状態で作品をお届けしたいと、Youtubeで水張りの動画を見てもらったところ、ライさん、興味津々でやってくれました。
次に下絵です。
鉛筆で細かく下絵を描いていきます。バリの伝統絵画の特徴は、下絵をしっかり描くこと。絵の具を塗りながら、形をとっていく西洋絵画とはアプローチが異なります。100人を超える村人たちもひとりひとり丁寧に描かれました。
下絵が終わると、墨で輪郭をとりながら、影になる部分に陰影をつけていきます。墨の薄め加減を調整し、ざっと五段階くらいでしょうか。
そして、彩色にかかります。
塔には様々な装飾が施されていますが、細かい描き込みは一通り色を塗ってから、全体のバランスを見ながら、仕上げていきます。
このように細かい作業を積み重ねて、ようやく完成!!!
塔の装飾もここまで描き込まれました。
様々な色が使われていますが、全体として落ち着いた色調でまとまっており、伝統絵画らしい格調高い仕上がりです。
ちなみに塔の階数は奇数と決まっており、多層になるほど、身分が高いことを表すそうです。
この塔は数えてみると11層ありますが、11層が最大で王族の儀式であることがわかります。
絵師としたの腕のよさももちろんですが、この細かい作業を継続する集中力と忍耐力は感動もの。
クリキ村はウブドの喧騒から離れ、今でも農業中心の静かな村。細密画発祥の土地として、腕のよい絵師が多いことでも有名です。なかでもライさんは、壮大な構図の作品が描ける高い力量の持ち主。バリアートショールーム5周年にふさわしい作品を描いていただきました。
伝統絵画をお探しなら、ぜひ!自信を持っておすすめします。