夏目漱石の美術世界
こんにちは、坂本澄子です。先日、東京・上野にある東京藝術大学大学美術館に「夏目漱石の美術世界」展を見に行ってきました。実は、私は大の漱石ファン。学生時代、その作品のほとんどを読みました。この絵画展は、漱石の作中に登場する絵画を取り上げ、文章とのコラボレーションという新しい視点で展示・解説したもので、通常の絵画展とはひと味違った面白さがありました。漱石が国内のみならずイギリス留学中に目にしたさまざまな絵画を通じて、美術の世界に造詣が深かったこと、そして自身も絵を描いていたことを知ってビックリ。なるほど、漱石の作品はいずれも絵画的な描写が特徴で、情景が眼に浮かぶように感じるのはそこから来ていたのかと納得した次第です。
例えば、私が好きな「三四郎」。熊本の高校を卒業した主人公三四郎が東京帝大に入学したての頃、大学構内にある池のほとりでヒロイン美穪子に初めて出会う場面は、こんな風に表現されています。
「ふと眼を上げると、左手の岡の上に女が二人立っている。女のすぐ下が池で、池の向こう側が高い崖の木立で、その後が派手な赤煉瓦のゴシック風の建築である。そうして落ちかかった日が、凡ての向こうから横に光を通してくる。女はこの夕日に向いて立っていた」この場面は、画家藤島武二の「池畔納涼」をイメージして書かれたものと言われています。
また、みなさんもよくご存知の「坊ちゃん」で、三津浜から眺める島をターナー島と名づけるシーンがありますが、ここでは画家ターナーの風景画が引用されています。
『あの松島を見給へ、幹が真直で、上が傘の様に開いてターナーの画にありそうだね』と赤シャツ(教頭)が云ふと、野だ(画学の教師、教頭の腰巾着)は『全くターナーですね。どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ』と心得顔である。ターナーとは何の事だか知らないが、聞かないでも困らない事だから黙って居た。すると野だがどうです教頭、是からあの島をターナー島と名づけ様ぢゃありませんかと余計な発議をした。
こうしてみると、漱石の作品には直接的あるいは間接的に絵画がうまく取り入れられ、文章に深みを与えていますね。
さらに、漱石は本の装丁にも強いこだわりと美意識を持っていました。写真は「吾輩は猫である」の初版本。その後も漱石の本の装丁を多く手掛けた橋口五葉の装丁デビュー作です。アールヌーボー調のデザインがなんとも洒落てますよね。
「夏目漱石の美術世界」展は7月7日までやっています。その後、静岡県立美術館でも開催されるそうなので、特に漱石ファンの方、また違った発見があると思いますので、是非どうぞ。
さて、7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後 〜Deep into the Forest〜」で、私も絵画と文章の融合を意識して特集記事を書いてみました:-)イメージは子供の頃の夏休みです。このテーマの中で目指しているのは、作品と文章(作品解説)をカタライザー(触媒)として、ご自身の心の風景を引き出して(=思い出して)いただくこと。それによって心穏やかなひとときを過ごしていただき、「よし、また頑張るぞ」と元気になっていただければ嬉しいなと思っています。7月10日(水)〜15日(祝)@パレットギャラリー麻布十番、お待ちしています。
また、アールヌーボーと言えば、先月バリに行き、睡蓮をモチーフにしたステキな作品を見つけてきました。様式化して描かれた睡蓮が鮮烈な背景色と相まって美しい個性を発揮しています。モダンなインテリアにも合いそうです。こちらも絵画展に展示しますので、ぜひ見て下さいね。
【関連リンク】
バリ絵画展「緑に抱かれる午後 〜 Deep into the Forest 〜」
アールヌーボーを彷佛させる熱帯花鳥画 ここから購入もできます