人間・高山辰雄展 森羅万象への道
こんにちは、坂本澄子です。
涼やかな風が頬に心地よく、よい季節ですね。
ある方に勧められ、世田谷美術館で開催中の「人間・高山辰雄展 森羅万象への道」を見に行ってきました。
東急・用賀駅から徒歩20分。閑静な住宅街です。
美術館行きのバスもありますが、様々な花が迎えてくれる美しい街並みを見ながら歩くにはちょうどよい距離。また、美術館は砧公園内にあるため、後半は大きな樹々が作り出す涼しい木陰を通ることができます。
実は、高山辰雄さんの作品を見たのは、今回が初めてでした。
日本画の世界では、東山魁夷、杉山寧と並び、「日展三山」と称された画家。
人間をテーマの中心に据えつつ、自然、宇宙への広がりを感じさせる作品たち。
気がついたら、再入場して二回目を見ていました。
最初は、色に惹かれました。
ゴーギャンに傾倒した時期があったそうです。
ゴーギャンについては、偶然にも少し前に映画を見ました。
貧困や家族からも理解されない孤独と戦いながら、自らの芸術を貫く姿に、同じ絵を志すものとして深い感動を覚えた記憶がよみがえりました。
高山辰雄さんも、帝展時代から入選を重ねた日展に落選。一時は絵をやめようかとさえ思ったときに、ゴーギャンの伝記本を読んで勇気を奮い立たせたといいます。
その頃の代表作が『室内』です。
不規則な形をしたいくつもの鮮やかな色がパズルのように組み合わさった背景。そこに二人の女性が溶け込むように(いえ、見方によっては浮き上がっていると感じられるかも)描かれた作品です。
次に惹かれたのは背景でした。
まるで抽象画のように、形をなさない明暗と色だけで表現した背景。あるときはぼんやりと、またあるときは曲線を描くように表現された明るさ。
背景の曖昧さが絵に深みを与え、モチーフを幻想的に浮かび上がらせていると感じました。
作品の前を離れがたく、いつまでも見ていたのがこちらの作品『一軒の家』です。
一見どこにでもありそうな片田舎の風景ですが、左に描かれた明るい曲線。これはなんなのだろう。山の端のようにも見えましたが、そうでもなさそうです。
そして、ふと視線を移すと空には細い三日月が架かっています。
日常の風景が見ているつもりが、いつの間にか非日常の色を帯びてくるのです。
制作のテーマとして「人間」にこだわった画家は、たとえ風景を描いていても、常に人と意識して描いたそうです。
大分県出身の画家は、活動の拠点を東京に持ちながらも、晩年は故郷の風景を題材にした作品を多く描いています。
その代表作が、『由布の里道』。
今回の企画展の図録の表紙を飾っています。
道に沿って右に小さく井戸が見えますが、実際のその場所には井戸はなかったそうです。
しかし、自身がその風景になりきったとき、そこに乾きを覚え、井戸を描いたといいます。
数年後、その場所に本当に水が湧き出たと聞き、大変驚いたと、ご自身も著書『存在追憶 限りなき時の中に』の中で回想しておられます。
日曜日でしたが、六本木や上野の美術館のような混雑はなく、作品を近い距離でじっくりと楽しむことができました。
6月17日まで世田谷美術館で開催中の『高山辰雄展 森羅万象への道』。ぜひ行ってみられてはいかがでしょうか。
太陽の塔のお腹に入ってきました
こんにちは、坂本澄子です。
太陽がいっぱいのGWが終わったら、冷たい雨ですね。
GWはいかがお過ごしでしたか?
私は、岡本太郎さんの『太陽の塔』の内部が復元されたと聞き、大阪に見に行ってきました。
大学〜社会人前半の20年を大阪のしかも北摂で過ごしたので、「太陽の塔」は身近な存在だったはずなのですが、距離的に近いのと、知っているのとはえらい違い。お恥ずかしながら「内部」があったなんて、この再生イベントがあるまで知らなかったのですよ。
なにしろ、万博が閉幕してもう48年。その間、封印されていたのですから。
この企画展、当時を懐かしむ世代や岡本太郎さんのファンが押し寄せ、随分先まで予約で埋まっているそうですが、ふるさと納税の優先予約枠のおかげで、GWにもかかわらずじっくり鑑賞できラッキーでした。
万博記念公園に到着すると、ゲートで30分待ち。それもそのはず、エキスポランドあり、フリマあり、カレーEXPOありとGWはイベント満載。入場後は比較的空いている太陽の塔を囲む芝生に沿って一周し、太陽の塔をまずは外側から360°鑑賞しました。
お腹についている「太陽の顔」は現在を
頂部の「黄金の顔」は未来を
そして、背面の「黒い太陽」は過去を表しています。
ここまでは多くの方がご存知でしょう。
でも、「太陽の塔」には4つ目の顔があったことは、私を含めて意外に知られていないのでは。
塔の内部にあった「地底の顔」です。
太陽の塔は、もともと万博の会期が終わった後はとり壊される予定だったため、閉幕後は展示物は内部から運びだされ、多くは「川崎市岡本太郎美術館」(などで保存・展示されていますが、「地底の太陽」だけはその後行方不明になっているそうです。
顔の直径が3m、左右のフレアを入れると全長11mの巨大な黄金の仮面、一体どこに…と思うと、なんともミステリアスです。
今回の内部公開では、当時の写真を頼りに復元された「地底の太陽」が地下に展示されています。呪術的な存在と言われ、テーマを支えた世界の仮面や神像が共に展示されています。バリ島とおぼしきお面もありました。
70mの塔の内部にそびえ立つのが、高さ41mの「生命の木」。5色に塗り分けられた幹は五大陸を表すそう。
原始生物から人類の祖先クロマニヨン人まで33種の生き物たちが、進化の歴史を追うように上へ向かって配置され、吹きあげるような生命の力を感じます。
ほとんどのオブジェは修復されたり新たに作り直されて、元の枝に戻されたそうですが、一番大きなプロントサウルスとゴリラだけは、動かせなかったのか当時のまま残されていました。
毛に覆われていたはずのゴリラの頭部は機械仕掛けがむき出しになり、形あるものはやがて朽ちる、半世紀の時の流れを目の当たりにしたようでした。
階段を上りながら生き物の進化の過程を追っていきます。
永久保存が決まってから、補強のため壁を20cm厚くしたり鉄骨部材を入れたことで、その分塔の内部が狭くなり、木の枝がところどころ階段へと突き抜けています。これがなかなかよく、当時の制作意図とは別ですが、一層エネルギーを感じるものになっています。
壁一面が赤い襞のようなオブジェで覆われ、本当に体内にいるような錯覚。音楽、照明が一体となった空間です。
「生命の木」のてっぺんまで上るとそこは踊り場になり、太陽の塔の腕へと繋がっています。
かつては、長さ25mの腕をエスカレーターで斜めに上昇し、腕の先端の開口部から建物の屋上に出ることのできる設計だったそうです。
今はエスカレーターは撤去され、むき出しの鉄骨がライトに照らされ幻想的な光景を描きだしていました。
とにかくスケールが大きく、太陽の塔自体はもちろん、あらゆる展示物が解説などまるで寄せ付けない存在感を放っています。
ほとばしる生命のエネルギーにただ身を任せる…これが「太陽の塔」の正しい鑑賞法のようです。
朝日新聞digital「再生 太陽の塔」に動画付きで紹介されていますので、ぜひどうぞ。