「マグリット展」で感じたこと
こんにちは、坂本澄子です。
今日は「美術館の企画展感想」として、六本木の国立新美術館で開催中のマグリット展をご紹介します。
何を隠そう、私はマグリットの大ファン。日本では13年ぶりとなる大回顧展で、かれこれもう3ヶ月近くやっていますが、いまだ客足の衰える様子はなく、3月に行った時と同じくらい賑わっていました。6月29日までですので、もしまだご覧になっていなければぜひ。私もあともう一回は行きたいと思っています^_^
多くの方もそうかも知れませんが、マグリットとの出会いは中学校の美術の教科書でした。曇った海の風景に羽ばたく一羽のハト。そのシルエットが切り抜かれ、白い雲が浮かんだ青空が(『大家族』)。当時、「こんなに好き勝手に描いていいの?」とかなりショックを受けたものです。夏休みの宿題に真似して描いた絵が校内に飾られ、すっかり気を良くして以来、かれこれン十年のファンです。
『大家族』『光の帝国』などマグリットの代表作と言われるものの多くは晩年に描かれたもの。それまでは、なかなか認められず、経済的にも苦しい時代が続いたそうです。後年の写実的描写によるシュールリアリズムの萌芽は、既に30代前半の作品に見られます。その後、作風が何度か変わり、50代になって改めてその頃の作風に回帰することを選んだといいます。
私が一番好きな作品は『光の帝国』。マグリットは同じタイトルの作品を全部で27点描いていますが、今回展示されたのは2番目に描かれた作品です(写真)。
手前にあるのは夜の風景ですが、その背景に描かれているのはよく見ると昼間の空。一見チグハグに思えて、不思議なしっくり感があるのは、この風景のもうひとつの側面を表しているからではないかと思いました。
「ルビンの壷」をご存知ですか?1つで2つの意味があるものという意味で、心理テストによく使われています。私たちは図(壷)の方ばかり見てしまいがちですが、スペースの方に目を向けると全く別のものが見えてきます。これとちょっと似ています。
ところで、中学生の頃の私は、色んな意味でモヤモヤとしていました。今日の続きが明日で、明日の続きが明後日。そんな現在の延長線としての未来に、あまり希望が持てなかったのです。そんな時に出会った『大家族』の切り抜かれた空は、ドキッとするような非連続性を見せてくれ、新鮮な驚きを感じました。「思いがけない未来がきっと待っている」、そんなワクワク感を今回の「マグリット展」はたくさん感じさせてくれますよ。
ポジティブな力を与えてくれる絵って、本当にいいですね。次回は、バリ絵画に見られるシュールなタッチをご紹介します。