2015.5.13
夏が近づくと思い出す風景
下町の風情に溢れる荒川区の町屋。その駅前に数年前から絵の教室のついでに時々寄る小さな食堂があります。ラーメン屋さんでもないし、中華でもない、町の庶民食堂です。オジさんがひとりでやっている小さなお店で、懐かしい味のカレーライスや野菜たっぷりのタンメンをいただきながら、静かなひとりの時間を愉しんでいます。
ある時、50号の大きなキャンバスを持ってお店に入ったら、「絵を描かれるんですか?」とビックリ顔のオジさん。その近くにある先生のアトリエに行くために、毎週この町に来ているのだと話しました。それがきっかけで、お勘定のときに少しだけ言葉を交わすように。年を経てもへんな馴れ馴れしさはみじんもなく、昨日は台風が来るとの予報に、「今日はこれから?帰りは気をつけてくださいよ」と、やさしい言葉をかけてもらいました。毎週足繁く通う時も、お久しぶりのときも、この心地よい距離感は変わりません。
このちょうどよさはバリの人たちの「外国人」に対する間の取り方によく似ています。私がバリに行く時は大抵ひとりですが、淋しさを感じないのはこのためかも知れませんね。
さて、夏が近づくと思い出す風景ってありませんか。
「少年たちの情景」は、バリ絵画の巨匠LABA氏が自身の少年時代を思い出して描いた作品です。バリ島の夏はご覧の通り風が強く、凧揚げには絶好の季節。
青が溶け込んだ深い緑色の調和がとても美しく、水平を基調にした穏やかな構図に、風にしなる椰子の木の斜めの動きが面白さを加えています。
また、LABAさんの絵の特徴は様式化された描写にあります。例えば、空の水平雲や水紋、草や葉っぱ、椰子の実や稲穂の描き方をご覧になってみてください。単純な繰り返しのようでいて、よく見ると、様々な方向や形があるんですよ。
ちょうど今頃の新緑のような清々しさに、深呼吸したくなるような絵です。
いよいよ来週から始まる「春のバリ絵画展」で、ぜひ実際の作品の持つ爽やかな鼓動を感じてくださいね。LABA氏の作品は6点を展示します。
<関連ページ>