バリ旅日記⑥ 花鳥画の鬼才ラジックさんとの出会い
こんにちは、坂本澄子です。7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」に出品する作品が決まり、今日は朝から仕入れのため再度画家さんを回ってきました。サイト掲載用に写真を撮ったり、額縁を相談したりと最高に楽しい時間。これを選ぶお客様はどんな方だろうと想像するだけでワクワクしてきます。
今回、衝撃的だったのは花鳥画家ラジックさん(I Made Rajig)との出会い。このサイトでも彼の作品を掲載していますが、2月に訪ねた時はタイミングが悪くご本人にはお会いできず、作品だけ見せてもらっていました。今回再びアトリエを訪ねると、とてもモダンな花の絵を制作中で、大きなキャンバスから幸せのオーラが漂ってくるほど。
さっそくお話を聞いてみました。
‘64ウブドのペネスタナン村の生まれ。父も祖父も画家、回りも画家ばかりという恵まれた環境の中、幼い頃から絵に興味を持ち、10歳から本格的に描き始めました。ちなみに、ウブドは犬も歩けば画家にあたるくらいの芸術村なので、それ自体は珍しいことではなく、ヤング・アーティスト・スタイル発祥のこの村において、ラジックさんも最初は極彩色の伝統絵画を描いていたそう。ところが、その後3回もスタイルを変えているのです。というのも、自分が描くだけでなく、人の絵を観るもの大好きで、機会あるごとに展示会に出掛けたり、画集を見たり、TVの美術番組を観たりと探究心旺盛。そんな長年の蓄積が肥やしとなって作品のアイデアが閃くようになり、いつしか作風も変化していったのだとか。バリの人たちは島の外へ出掛けることはほとんどありません。また、画家は自分と向き合う孤独な職業。同じスタイルや題材で絵を描き続ける画家が多い中、珍しい存在と言えます。
技法は下絵、陰影付けまでがバリ絵画の伝統的な手法を用い、彩色以降はグラデーションを多用するなど、コンテンポラリー・アートの技法を用いています。バリ伝統技法で典型的なのが竹筆(写真)。これは竹を様々な太さに削って自作したもので、鳥の目回りの細かな描き込みや、輪郭をシャープに描きたいときに活躍しています。作品イメージが閃いた後は、スケッチしながら構図を決めていきますが、一旦キャンバスに下絵を描き始めた後も試行錯誤を繰り返します。奥から取り出して来た別の大きなキャンバスには、鉛筆書きで下絵の苦労が滲み出ていました。「なかなか構図がまとまらなくて、もう5ヶ月もこのまま」と苦笑い。
今回私が仕入れた作品は4点。現在のモダンな作風に移行する前に描かれたものです。いずれもやわらかな印象の作品で、絵画展の“永遠の夏休み”のコンセプトにも合っていると直感し、ほとんど一目惚れでした。きっと様々なタイプのお部屋を明るく彩ってくれることでしょう。ラジックさんは日本画家の田中一村に強い影響を受けており、彼の作品に日本画のテイストを感じるのはそのせいかも知れません。
画家としての今後の目標は世界各地での個展。ラジックさんの作品はヨーロッパにもファンが多く、イタリアの美術評論家のヴィットリオ・スガルビー(Vittorio Sgarbi)氏もバリ絵画で最も優れた画家の一人と絶賛しています。いつか日本でも個展が開けるよう、私も応援していきたいと思います。