未来への軌跡
こんにちは、坂本澄子です。
今年娘が社会人になりました。親子というよりは同志に近い関係ですが、少しだけ肩の荷が下りました。娘に対する思いを描いた作品が今年も二科展に入選しました。バリ絵画という、人様の絵を扱う上で、自分自身も絵に対する軸をしっかりと持ちたいと思っており、目標にまた一歩近づけたことをとても嬉しく思っています。
その100号の作品、「過去」「現在」「未来」と3つの次元で構成されています。娘を主人公に描きつつも、自然と自分が歩んできた道が重なっていきます。
例えば、家並みの窓に浮かび上がる母子のシルエット。周りの風景は私自身が子供の頃に見た郷里・広島の街並みがモデルになっています。庭にあったびわの木には毎年たくさんの実がなっていました。何年か前に枯れてしまい、今では記憶の中にだけ存在する木。私をずっと見守ってくれた故郷の風景に感謝の気持ちを込めました。
中央は「現在」。これから始まろうとしている出会いに対する高揚感を影で表現してみました。影は時として実体よりも雄弁に内面を語ります。戸惑い、憧れ、情熱、様々な想いを影に託してみました。
そして、「未来」。いま住んでいる東京の有明は2020年に向けて街全体が大きく変わろうとしています。多様な価値観を受け入れ、未来へと向かって歩んでいく姿をイメージしてみました。有明と台場をつなぐ「夢の大橋」が舞台ですが、ここはケン(フレンチブルドッグ♂5歳)との散歩コースで。波のようなタイルの模様が特徴的な、私の好きな場所のひとつです。
母親という立場や役割は変わらなくても、娘との関係は少しずつ違ったものになっていくことでしょう。ちょっぴり淋しくもあり、嬉しくもあります。そしてなにより、これからは私自身がもっともっと輝けるよう、頑張らなくてはと思っています。
会期:8月31日(水)〜9月12日(月) ※9月6日(火)休館
10時〜18時(最終日:14時終了)
会場:国立新美術館(六本木)
日本の夏 風情ある情景
こんにちは、坂本澄子です。
オリンピックの熱戦に連日熱くなり、閉会式を迎えたら、あっという間に夏も終わりに近づいていました。まだまだやりたいことがいっぱいあったのに…と、
ふわりと泳ぐ金魚。
次の蕾を数える朝顔。
ぽとりと儚い線香花火。
まぶしい夏色のほおずき。
移り変わる蝉の鳴く声。
朝靄の中で開く蓮の花。
今年こそはこんな風景にゆっくりと身を委ねてみたいと思っていたのに、本当に時は慌ただしく過ぎていきます。
それならと、イマジネーションをフル稼働して、自ら描いてみました、日本の夏。写真によくある誰もが想像する構図ではつまらない、絵だからこそできる表現をめざしたいと思いました。
写真の金魚は以前浅草の和紙のお店で見つけた金魚柄を自分なりに再現してみたものです。水に映った空はバリ島の風景画からヒントを得ました。
それから、上野の不忍池の蓮池。広い池いっぱいに蓮の青々とした葉が連なり、ところどころにぽってりとしたピンクのつぼみが。夏も終わりに近いこの時期まで、花が見ごろなのは珍しいですよね。
こんな作品をインスタグラム(写真のSNS)に投稿していたら、「自分にも思い出す懐かしい風景があります」と写真を送ってくださった下さった方があり、とても嬉しく拝見しました。
夕方近くになると、
そんな素朴で懐かしい情景に出会って、バリ島に恋してしまった人は多いでしょう。私もその一人ですから。
日本の夏の情景を描きながら、いい絵というのは、観る人の想像力を掻き立ててくれる作品ではないかと思いました。バリ絵画で言えば、やはり、ガルー(Galuh)、ウィラナタ(Wiranata)でしょうか。新作を見るたびにその思いを新たにし、すごい画家だと感心することしきりです。
Wiranataもよく子共の頃の情景から着想を得て、絵づくりをすると話してくれたことがありました。バリと日本と懐かしさのツボがどうやら似ているようです。そんなおすすめの作品はこちらをどうぞ。
おまけ:坂本澄子の日本の夏シリーズはインスタグラムに掲載していきます。よかったらsumiko.c.sakamotoをフォローしてくださいませ。
軽井沢の休日② 千住博美術館
こんにちは、坂本澄子です。
軽井沢の休日第二弾は、「軽井沢千住博美術館」をお届けします。
あちこち美術館巡りをして思うことは、大規模な企画展もいいけれど、地方のプライベート美術館にもいいところがたくさんあります。コレクターとしての蒐集のコンセプトがはっきりしており、また、作品に加えて建物や風景を含めた一体感でメッセージ発信しているミュージアムに出会うと、いつまでも記憶に残りますよね。
私の場合ですと、直島の地中美術館やベネッセハウスミュージアム(香川)。ホキ美術館(千葉)、DIC川村記念美術館(千葉)、清春芸術村(山梨)などがそうで、軽井沢千住博美術館もまさにそんなタイプのアートスペースです。
一歩入って驚きました。床全体が緩やかな下りになっていて、所々にガラスでできた外界との接点があり、光と緑にあふれる野山を散策しているような感じで、見て回れるのです。
千住博さんといえば、滝(Water Fall)や崖(Criff)といったように、半抽象的な作品イメージがあったのですが、そんな思い込みは一気に吹き飛び、画家としての幅の広さに感動!でした。
開催中の四季「秋冬」展のポスター(下半分)にもなっている『湖畔初秋図』と『湖畔に蜻蛉図』は屏風風に横につなげて、丸い部屋をぐるりと取り囲むように展示されているのですが、2つの作品が繋がっているようで、別次元のようでもあり、なんとも不思議な構図。単なる風景画を超えて、見る人に様々なストーリーを想像させてくれます。絵の中にご本人も登場されてるのですが、さすがよく似てますよ〜。(画像をクリック)
私のイチオシは、遠い国の森に住む一頭の小鹿が主人公の、一夜の冒険の物語を描いた連作。16点からなり、キャプションと一緒に小さな地図があります。お父さん鹿、お母さん鹿と一緒だった最初の場所から、ひとりどんどん離れて行くのがわかり、ハラハラ見守りながら、想像力が逞しくなっていくのがわかります。
川に映る一面の銀河、小動物たちが潜んでいそうな暗闇の中、人っ子一人いない街のネオン…。どの作品も色彩を抑えた主張しすぎない作りだけに、見る人の気持ちがグイグイ入っていく感じなのです。一度みた後、もう一度No.1に戻って順番に見直しました。そうするとまた違う発見があるのですね。何度でも見たいなあと思ったら、ちゃんと『星のふる夜に』という絵本になっていました。ミュージアムショップで売っていたので即買い。amazonにもありました。
ところで、大地と一体化したようなこのユニークな美術館を設計したのは西沢立衛(りゅうえ)さん。瀬戸内海のアートの島として有名な豊島(直島のお隣)の美術館を設計したことでも有名。後から気がついたのですが、先月MoMAで紹介されていた建築家のひとりでもあります。
軽井沢って新幹線でわずか1時間。機会がありましたら、ぜひ立ち寄ってみられてはいかがでしょうか。
軽井沢の休日① 別荘にお招きいただきました
こんにちは、坂本澄子です。
先日の「山の日」は、前職時代からの友人Tさんに軽井沢の別荘に誘っていただき、涼しい休日を過ごして来ました。
集まった10人は、私が’02年に大阪から東京に転勤となり、初めて配属された部署からのご縁。それまで営業経験しかなかった私がアジア・パシフィック本社勤務となり、初めての東京、初めてのスタッフ職、英語での仕事…と、勝手がわからず目が回りそうになっていたときに、色々なことを教えてくださった方々です。
そんな大切な仲間たちとまずは乾杯。奥様の心づくしの手料理を前に、10人がゆったりと座れる、カナダのメープルから切り出された長〜い無垢のテーブル。一切塗料を使わず仕上げたという、白木のすべすべとした木肌はずっと触っていたくなるほど。広〜い窓の向こうには溢れるような緑が広がり、クーラー要らずの心地よい風が入ってきました。
10年以上の歳月が流れ、別の会社に移られた方もあれば、私のように違う世界に飛び込んだ人もあり、いまの環境はぞれぞれですが、折にふれ、こうやって集まっては時間を共にする関係が続いているのは、本当にありがたいことです。いま振り返ってみても、困難な時期というのは人を成長させ、変化の時期を共有した仲間は忘れがたいものですね。
そのときに学んだことでいまも大切にしていることがあります。それは、誰も見ていないと思っても、決して手を抜かず、やるべきことを一生懸命やり続けること。そんな姿を見てくれている人が必ずあり、次のステージへの扉が開かれるものだと教えてくださったのが、Tさんでした。
感謝の気持ちを込めて、今年お庭に植えられたゴヨウツツジが咲く姿をイメージして描いた絵を贈りました。
ところで、軽井沢の別荘は夏だけのものではないそう。薪ストーブでコトコトと時間をかけて煮込んだ料理は絶品だそうです。火の周りに集まって語り明かす夜もきっと素敵ですね。
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次回は翌日訪れた「軽井沢千住博美術館」をご紹介します。
ウィラナタの作品の魅力
こんにちは、坂本澄子です。
暑いですね〜。少しの時間だからいいかと油断して外を歩いていると、あっという間に日焼けしちゃいます^o^; たっぷり水分補給してくださいね。
さて、お肌や身体に水分補給が必要なように、心のうるおいもとても大切。私のケアは妄想タイム。絵も建築も好きなので、「こんなおウチに住みたい」という理想の家を想像しながら眠りについています。想像の世界でなら好きなようにイメージを膨らませられます。
先月、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で、私の妄想アンテナにピピっと反応したものがありました。3階でやっていた建築の企画展です。そこで紹介されていた建築家のひとりが平田晃久さんでした。斬新な発想でユニークな集合住宅を手がけておられます。「こんなのあり?!』的な建物を、現実のものとして創り出しておられるのはすごい。こんな建物が増えると、街の景色もさぞ潤うことでしょう^o^
平田さんの集合住宅の特徴は四角い部屋がなく、一軒ごとの間取りが異なること。それらがつながりながらひとつの建物を形作り、緑が配置されています。まるで建物全体が丘のような感じ。私がもしオーナーだったら、部屋ごとに表情の異なるウィラナタの絵を飾りたいなと思います。
ウィラナタは常に新しい何かにチャレンジするタイプの画家。人気作家だからと言って、そこにとどまらないところが、彼を何度も紹介したくなる理由。今日はそんなウィラナタ作品の幅広さの一端をご紹介します。
朝の心洗われるような静謐な風景。朝の光の中を白い鳥が一斉に飛び立ちました。
嵐がくる前の海。棚田の静かな風景だけでない、ウィラナタの絵の魅力です。
真っ赤にたぎる溶岩。バトゥール山の大噴火をイメージしたのかも知れません。
賑やかなお祭りの光景も多く描いています。気難しい芸術家肌である一方、陽気なバリ人の一面も。伝統芸能ワヤン(影絵芝居)を楽しむ人々
ひとつの絵に複数の時空間が描かれた夢の中のような絵。スポットライトが当てられた人物は、画家あるいは見る人自身の姿なのかも知れません。
ウィラナタ作品の在庫はこちらをご覧ください。その場でご購入いただくことも可能ですし、現物をご覧いただくこともできます。ご希望の題材がありましたら、ご注文制作も承ります。詳しくはこちらをどうぞ。
スコールにうたれて
こんにちは、坂本澄子です。
このところ大気が不安定で、あちこちで局地的な豪雨がすごいですね。気象庁のナウキャストを見ると、赤く表示された強く降っている範囲が、ごく狭い地域にピンポイントで点在しているのがよくわかります。日本列島は亜熱帯化していますね。
雨降りの朝ってちょっと憂鬱。それは同じなのか、雨降りを描いた風景画は少なく、インターネットで検索してみても、出てくるのは子供の絵日記ばかり。そんな中、雨降りも悪くないと思える風景画に出会いました。少し前に六本木のサントリー美術館で開催されていた歌川広重展でのことです。広重といえば、昔、永谷園のお茶漬けに入ってた「東海道五十三次」を一生懸命集めましたっけ。
入ってすぐのところに展示され、大勢の人が足を止めて見入っていたのが「大橋あたけの夕立」です。滲んだようにたれ込める暗雲から降り注ぐ雨は、太さと角度を微妙に変えた2種類の線で描かれています。面刷りでシルエットだけを描いた遠景とあいまって、奥行きと共に、ザーッという音が聞こえてきそうなほどの臨場感を感じさせました。まさに今で言うゲリラ豪雨ですね。
版画ゆえの産物かも知れませんが、雨を線で表現するのは日本独特なものだそうです。浮世絵は19世紀に、輸出用の陶芸品が割れないための包み紙としてたまたま海を渡り、ヨーロッパの人々の目を引きました。特に印象派の画家に強い影響を与え、ゴッホはこの作品を模写しています。
バリ島のウィラナタは熱帯の激しい雨をモチーフに描きました。常に新しいことに挑戦するタイプの画家ですから、実に様々な題材を取り上げています。朝、昼、夕方、夜といった時間帯の違いやお天気。ひとりの静かな時間もあれば、大勢で賑やかに過ごす作品も。その幅の広さがファンを惹きつけ、1枚、また1枚とコレクションを増やしていく愉しみに繋がっているのだと思います。
今日はそんな雨の風景から3点をご紹介します。雨は白く煙った空気、風にしなる椰子の木、波立つ水田の雨紋などで表現されています。
広重とはまた違った表現ですが、まるでその場にいるようなリアルさはさすが。部分的に明るい空は、激しく降ってカラリと晴れる熱帯特有のスコールを思わせます。
傘の代わりにバナナの葉で雨をしのいでいるのがバリ島らしい。
何年か前にウィラナタのアトリエを訪ねたとき、急変する空の雨雲にこだわり、様々な表現上の試みをしていました。人気作家でありながら、とことん極める姿勢には心うたれるものがありました。
ウィラナタの作品は作品ページをご覧ください。ご希望のテーマで注文制作も承ります。詳しくはこちらをどうぞ。