作品にこめられた物語
こんにちは、坂本澄子です。
注文制作の愉しみ、第二回は芸術家らしい画家のご紹介です。ウィラナタ。次々と注文が入り、手元に作品が残らないと嘆いている、なんとも羨ましい売れっ子作家です。
独特な世界を持ち、そのいさぎよさは時に気難しい印象を与えることもあります。それでも、彼の作品に対する考えや思いの深さを知ると思わず納得してしまう、それがウィラナタの魅力なのです。
あるお客様からのご注文制作でこんなことがありました。満月をテーマにした作品です。
お客様は真夜中に近い暗い風景をイメージされており、完成間近にお送りした写真をご覧になって、月の明るさが少し気になられたようでした。
「ウィラナタさんの考えを訊いてみてもらえませんか」
すぐに連絡を取りました。そしてわかったのが、ウィラナタは満月の風景を誰よりもよく知っているということでした。
日没とともに湖に出かけては夜通し釣りをするのが何よりも好きな風流人。放っておけば何日も続けて出かけ、そのうち家族から苦情が出るほど。だから、時間とともに移ろう空はもちろん、水に映った月や茂みに潜む虫たちの気配など、どれも実際の風景から五感を通じて感じ取ったものなのです。
さらに、心象風景画として、物語と情景描写が一致しているのも彼の作品の特徴です。この作品は、日没間もない8時頃、仕事を終えた父と子が空に明るさが残る畦道を帰る場面だと説明してくれました。改めて作品を見てみると、神々しいばかりの月の青い光に対して、手前のランプの光に親子の関係になんとも言えない温かさを感じました。
「だから、この空の色は自分としてはパーフェクトだと思っている。逆にそれを変えてしまうと、作品全体のコンセプトが壊れてしまうんだ」
こんなやりとりを通じて画家の思いを知り、完成した作品にさらに愛着を感じていただいたできごとでした。こんな経験も注文制作ならではの醍醐味、次はぜひ真夜中の満月をテーマにいかがでしょうか。
「第9回バリアートサロン」5月29日(日)11−12時@東京・有明はこういったご注文制作の実例をいくつもご紹介しながら、世界でただ一つの作品ができあがっていく愉しみをお伝えしたいと思います。詳しくはこちらをどうぞ。
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