アートとビジネスの接点
こんにちは、坂本澄子です。
6月上旬にサイトのリニューアルを行います。このブログの中でも何度かお話してきましたが、「バリアートショールーム」を今後どんな方向に持っていきたいのか、また、いくべきなのか、その構想にかなりの時間をかけました。
私自身、人生の後半戦に入り、今まで何かと急ぐことばかりで、まわりの景色を楽しむ余裕もなくつっ走ってきたけれど、これからは風化した感性を改めて磨き、心豊かな時を刻んでいけたらなあという思いが日々強くなってきました。おそらく同年代の方は多かれ少なかれ、そんな気持ちをお持ちではないでしょうか。
先日、たまたま遠山正道さんのお話を聴く機会がありました。遠山さんと言えば、三菱商事時代に社内ベンチャーを興され、すっかりおなじみとなったスープ専門店”SOUP STOCK TOKYO”やネクタイブランドの”giraffe”、リサイクルショップ”PASS THE BATON”(名前がいいですよね〜)、などいくつもの新事業を立ち上げて来られた、実業家としていわばビジネスサイドの真ん中にいる人。その一方で、サラリーマンをやりながら個展を開いて70点の作品を完売した経験を持つアーティスティックな側面も。
その講演は右脳と左脳がバランスして、とても刺激的でした。ビジネスの中で4つ大切にしていることがある。それが、①必然性、②意義、③やりたいこと、④他にはない価値、というお話の中で、思わずグイっと引き込まれたのが、「根っこにある必然性(個人的な動機)」と「共感によって仲間を増やす社会的な意義」の違い、そして「やりたいこと」と「ビジネス」のバランスでした。
SOUP STOCK TOKYOの場合を振り返ると、遠山さんにとっての必然性は「いつか社長をやってみたかった」ことで、意義は 「スープを軸に共感を広げ、生活価値、文化的価値を創ること」だったそう。「ボクの場合はなかなかビジネスとして利益が出ないのが悩みで…」と言いながらも、やりたいことが次々あって楽しくて仕方ないといった感じでもうワクワク感全開です。
そこで、私の場合はどうなんだろうと考えてみると、初めてバリ絵画に出会ったとき、こんなにすばらしい、しかも版画ではない本物の絵が手の届く価格で買える(インドネシアと日本の物価の違い)ことに感激、「これほしい!友達にも教えたい」と思ったのが、「バリアートショールーム」を始めるきっかけでした。
アートには見る人の想像力をかきたて、記憶を呼び覚まし、そこを起点にイマジネーションの世界を広げる力があります。そんな奥深さを感じる作品に出会うたびに、「これがいつでも鑑賞できたらなあ」と思い、雰囲気だけでも持ち帰りたいと、ポスターとかポストカード、時には複製画を買っていましたが、やっぱり本物とは似て非なる物と思わされていたジレンマがありました。
そして、絵を扱うことを仕事にすれば、いつも絵に囲まれていられるという個人的な動機は、次第に本物のアートを毎日の生活の中でふつうに楽しむ文化を日本に作りたいという気持ちへと広がっていきました。つまり、「根っこにある必然性」を「社会的にも意義あるもの」に昇華する工程に今こうして取り組んでいるわけです。遠山さんのお話をお聞きして、改めてそのことに気づかされました。
今回のサイトリニューアルも、バリ絵画の物販に留まることなく、日常的にアートに触れることの楽しさを含めてお伝えしたいという思い、そしてさらには、生きること自体をもっと楽しみませんかという私からのメッセージなのです。それがあなたの心にも響き、共感してくだされば嬉しいです!
「バリアートショールーム」のサイトリニューアル、6月10日公開予定です。
バリ島の美術館に選ばれた作家たち① ウィラナタ
こんにちは、坂本澄子です。
6月上旬にサイトのリニューアルを行います。「バリアートショールーム」のフォーカスであるミュージアム作家にスポットをあて、ピックアップ・アーティストのコーナーでは毎回1人の画家を取り上げて「絵を描くことの源泉」に迫ります。
そのサイドストーリーということで、今日から美術館に収蔵されている彼らの作品を紹介していきたいと思います。第一回はWIRANATA(ウィラナタ)さん。バリの現代作家の中でもいま最も作品が手に入りにくい画家といってもいいでしょう。昨年10月に少し大きめの作品をお願いして、気長に待っているところです。これまで描いた作品およそ100点は完売。その中にはもちろん美術館で見たあの作品もありました。
世界中から観光客が訪れるバリの美術館。そこで様々な人の眼に触れて、磨かれてきた作家たち。展示室の中でもひときわ存在感を放っていたのが、ウィラナタさんの作品です。実際に目の前にして見ていると、影があることで光がいっそう際立って見え、気持ちがシャキっとしてくるんです。いい意味での緊張感みたいなものが伝わってきて、特に逆境や深い孤独にあるとき、そっと寄り添ってくれるような安心感を感じます。
それでは、彼のこれまでの作品の中から私の好きなTOP3を紹介します。コメントは書きませんので、絵から伝わってくるものを直接感じ取ってくださいね。
ね、何だか頑張ろうという気持ちがわき起ってきません?
こんなすごい画家の本物の絵がうちにあるなんて、ちょっとカッコよくないですか?
「本物の絵と暮らそう」展@スマートハウジング豊洲まちなみ公園(6月7、8日、14、15日)でウィラナタさんの作品の実物がご覧になれます。ぜひお越し下さい!
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美と笑顔を創る場所で
こんにちは、坂本澄子です。
バリアートショールームは「ウェブで調べて、実物を見て購入できる」をコンセプトに、絵画展を定期開催してバリのすぐれた作品をご紹介していますが、同時に共感できるパートナーとのコラボレーションによるアートイベントも開催しています。
その一つが住宅展示場とのコラボです。住まいが変わることは絵を持つきかっけのひとつ。昨年7月の絵画展で作品を購入くださったお客様も、「今まで外にばかり目が行っていたのが、結婚して家族ができてからは、最も落ち着く家という場所をさらに心地よいものにするために絵が欲しくなった」と言われていました。4人家族を4羽の野鳥に重ね合わせ、EBENの花鳥画を嬉しそうに選んでいかれた姿が今でも温かく心に残っています。→詳細はこちら
そこで、東京オリンピック会場、築地市場移転と今もっともホットなエリアにある「スマートハウジング 豊洲まちなみ公園」で6月に絵画展を行います。園内には18棟の洗練されたモデルハウスが立ち並び、近くにはアメリカン・ディテールにこだわったBBQが楽しめる都市型アウトドアパーク”THE THIRD PARK”もあります。ぜひ、お出かけ下さいね。
アートフェア『本物の絵と暮らそう』
【日時】6月7日(土), 8日(日), 14日(土),15日(日) 11:00〜17:00
【場所】スマートハウジング 「豊洲まちなみ公園」 センタースクウェア 地図
そしてもうひとつが、対象が女性に限られるため、これまでお伝えしていなかったのですが、独自の製品技術にバリのホスピタリティをプラスした” VS28スキンケアスタジオ BALI”を展開するEBMさんとのコラボ。銀座5丁目店でバリ絵画の展示を開催中です。
バリの雰囲気いっぱいの店内に作品がしっとりと溶け込み、お店のお客様からも、「バリの空気を感じる」「もっと色んな作品が見たい」と好評です。2フロアを吹き抜けにした異空間サロンで、ロビーではANTARAのBalinese Beautyが月替わりでお客様をお出迎え、お着替えに向かうコリドーをGAMAの熱帯睡蓮シリーズが彩り、さらにその奥の花鳥画へと続きます。
実は、EBMさんには私自身もう10年以上お世話になっています。身体や肌を委ねる場所なので、使用する化粧品の品質はもちろん、施術をして下さるスタッフの方の技術や知識も重要な要素になってきます。私は流れが滞りやすく、すぐにくすみが出てしまうのですが、ここではどなたに担当してもらっても素晴らしい施術で、今までがっかりしたことが一度もありません。今回こういった形でご一緒できたことをとても嬉しく思っています^_^
これからも楽しい共感、どんどんやっていきます。皆様からも是非お声かけてくださいね!
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新作情報『ある少女の肖像』絵はどこまで人の内面に迫れるのだろう
こんにちは、坂本澄子です。
彼女の名はウタリ、6月に高校を卒業する17歳で、私がバリに行く度にお世話になっている宿のご主人の娘さんです。
パンジャールと呼ばれる村組織が生活の基盤となるバリ島では、女性は夫を通じて初めてその組織の構成員と認められてきました。しかし、近年のインドネシアの経済成長はめざましいものがあり、女性たちの意識にも少しずつ変化が見られます。ウタリも卒業後は州都デンパサールにある看護師学校に進学し、将来は仕事を持って自立した女性になりたいと考えているんです。
1年前まだあどけなさが残っていた少女はいつのまにか大人の女性へと成長し、その決意と自信とが彼女の笑顔に新たな魅力を加えていました。
今回はそんなウタリの肖像画をANTARAさんに描いてもらいました。
イーゼルに立てかけたスケッチブックに向かうと同時に、木炭ペンシルを持つ手がなめらかに動き始めました。その集中力たるやすごいものです。繊細な線、力強い線からあっと言う間に輪郭が現れ、目を描くとそこにいのちが宿りました。
肖像画と言うと外見的に似ているかどうかに目が行きがちですが、写真とは違う絵ならではの魅力は、描き手(あるいは依頼主)の目を通じて見たその人が描き出されることではないかと思います。その意味で、ANTARA氏の描いたのは私の感じたウタリそのものでした。
この作品は額装され、つい先日日本に届きました。ショールームの私の机の横にあります。アトリエから写真を送ってもらった時の印象よりもずっと存在感があり、『若さ』の持つ瑞々しさや純粋さに溢れています。そんな肖像を見ていると、こちらまで何だか元気になってきます。彼女に今のこの気持ちを忘れずにこれからも頑張ってほしいなと願っています。
さっそく作品詳細を公開しましたので、ご覧くださいね。この作品の売上の10%をウタリに進学のお祝いとして贈ります。
また、肖像画の制作を7名様限定で承ります。注目の若手作家として多忙な毎日を送るアンタラ氏ですが、日本のお客様にその作品の魅力をお伝えしたいという「バリアートショールーム」の思いに応えていただきました。技法(木炭デッサン画、油彩画)、サイズはご希望に応じます。詳しくはお問合せフォームからご相談下さい。
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5/3ブログ 「アトリエ訪問〜田園風景を眺める場所から」 私のポートレートも描いてもらいました
風情ある街並み谷中・根津・千駄木を散歩
こんにちは、坂本澄子です。
先週の日曜日、上野の国立東京博物館でやっているキトラ古墳壁画展を観ようとしたところ、なんと待ち時間70分。キトラ古墳と言えば、高松塚古墳に続く2番目の極彩色壁画として注目を浴びており、恐らく東京で観れる機会はこれが最初で最後かも…。うーんと悩んだ結果、お天気もいいことだし、いずれ奈良に遊びに行くこともあるだろうしと予定を変更、谷根千(谷中・根津・千駄木)を散歩することにしました。
まず旧岩崎邸を訪ね、そこから東大の本郷キャンパスに沿って北上し、根津神社、谷中ぎんざ、谷中墓地と円を描くように回り、上野公園に戻ってきました。8キロ位歩いたでしょうか。日頃の運動不足がたたり、最後は足がガクガクです(^o^;
特によかったのが旧岩崎邸。ボランティアのガイドさんのお話がとても興味深く、自分で見て回るだけではここまで楽しめなかっただろうなと思いました。ツアーは随時やっていますので、行かれたらぜひ参加されることをおすすめしまーす。
この洋館を設計したのはジョサイア・コンドルというイギリス人建築家。明治政府が文明開化を進めるために招聘した外国人建築家のひとりとして来日、鹿鳴館、上野の博物館など数々の洋館の建築に携わりました。でも、彼の建築家としての独自性が発揮されたのは、むしろ政府との契約が終わってから。政府のお雇い建築家ではできなかった自由な発想を三菱財閥との契約の中ではいかんなく発揮しています。
家族は日本家屋の方で生活し、この洋館は主にお客様をもてなす場所として使用されました。食後には男性客たちを撞球室へ。コンドル先生は茶室の感覚を取り入れ、本館と地下通路で繋がった離れとして設計しました。
それから、洋館と言えばシンメトリーな造りが普通ですが、ちょっと写真を見て下さい。左が高く、右へ行くほど低い段々構造になっていますよね。これは左側の建屋がお客様をもてなす場所で、右側はその準備室だからなのだそうですが、これも新しい発想です。
まだあります。男性がビリヤードに興じている間、女性たちは婦人客室でお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいたそうですが、その部屋は写真の通り随所にイスラム様式が取り入れられています。おそらく、イギリスから日本へ渡ってきたコンドル先生がその中間にあるエキゾチックなイスラム世界を再現したのではないでしょうか。
西洋と東洋、そしてその間にあるイスラムを含めたこれらの融合は、バリにおいて伝統絵画が西洋絵画と出会い、さらに磨かれていったことを思わせました。
このコンドル先生、日本人の奥さんをもらい、日本に骨を埋めています。自ら多くの洋館建築を手がけただけでなく、西洋の建築技術を後進に伝え、彼に学んだ日本人建築家たちが東京駅舎、迎賓館、慶応義塾の図書館など、すばらしい作品を残しています。
旧岩崎邸を後にした後はしっとりとした風情漂う街並みをお散歩しました。こちらは写真にてお楽しみ下さい。
以前から一度行ってみたいと思っていた場所でしたが、それが思いがけない形で実現しました。独特の風情と雰囲気を持った街、東京のまた別の顔を見せてもらいました。
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バリの伝統絵画が西洋絵画と融合するきっかけとなった外国人画家たち
ルドルフ・ボネ … オランダ人画家、プリ・ルキサン美術館の創設に携わりました
ヴァルター・シュピース … ドイツ人画家、絵画に留まらず舞踊・演劇などバリ芸術全般に渡って貢献しました
アリー・スミット … オランダ人画家、特に色彩の点でバリ絵画に大きな影響を与えました
絵が呼び起こすイマジネーション
こんにちは、坂本澄子です。
先日Facebookに「どこでもドアがあったらいいな」という投稿をしたところ、「どこでも窓」なるものがあるとのコメントをいただきました。みなさん、ご存知でしたか?ご興味ある方はこちらに動画がありますのでどうぞ。
実物を見たことはありませんが、ムービーを見た感じでは、その場にいる雰囲気がかなり味わえそうです。プロジェクターを使用するので、窓の向こうの風景が自由に変えられるのもいいですね。そのうち、その時々の気分で映像が変わり…といった、高校時代に読みあさった星新一さんのショートショートに出て来るような未来の生活を思い浮かべました。ITの進歩によってこんな生活ができる日もそう遠くはないかも知れません。
その一方で、アナログなものの持つ力もあなどれませんよ〜。
今、村上春樹さんの『女のいない男たち』(文藝春秋)を読んでいます。売上トップに入り書店に平積みされていますので、お読みになっているかも知れませんね。そこに収録されている『イエスタディ』という短編の中にこんな箇所があります。
「音楽にはそのように記憶をありありと、時には胸が痛くなってしまうほど克明に喚起する効用がある」
この物語に登場する主人公(男)の大学時代の友人木樽は、生粋の東京生まれ・東京育ちにも関わらず完璧な関西弁を話すちょっと(かなり)変わり者で、ビートルズのかの有名な表題曲を関西弁でヘンな替え歌にして歌っていました。16年たった今、その歌詞はほとんど覚えていないけれども、この曲を耳にするたびに、半年という凝縮されたつきあいの中での彼との会話や情景が自然に蘇ってくるというのです。
ここを読んで、身につまされました。村上春樹さんの作品にはこんなふうに、「そうそう、よくぞ言ってくれました」と共感することが多く、大好きな作家のひとりなのですが、同じように絵にも、普段は心の奥底に眠っている記憶を呼び覚ます効用を果たすときがあります。一旦、水面に引き上げられた記憶はそのときの情景や心のありさまを呼び起こし、立体的なイメージを脳内に浮び上がらせます。
「どこでも窓」が2Dならこちらは(3+α)Dでしょうか、つくづく人の持つ想像力は無限であると思います。
私にとってのそんな絵のひとつが、LABAさんの『少年たちの情景』です。特に今日みたいに「これから夏がやってくる!」と感じるお天気の日にこの絵の醸し出す昭和っぽい雰囲気や緑色の深さに触れると、遠い昔のある夏休みのできごとを思い出します。その記憶の持つ優しさや切なさを感じることによって自分への信頼を取り戻し、今こうして守り生かされていることを感謝するのです。
絵の持つ力ってすごいですよね。ぜひあなたにもそんな作品に出会っていただきたいと思います。
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バリアートのある暮し⑩ バリ舞踊を通じて繋がった縁
こんにちは、坂本澄子です。
3月の1周年記念展示会、大雨の中来てくださったNさんから写真が届きました。
東京郊外にご主人とお住まいのNさんはバリ舞踊を始めて10年。現地の先生から直接指導を受けるために毎年バリに渡っては、技術や表現力を磨いておられます。最近は舞台に立つことも多く、私がNさんに初めてお会いしたのも、渋谷のバリカフェ「モンキーフォレスト」でのライブ講演でした。
ブラウンを基調にシックにまとめられたリビングからも、バリに特別な思いを寄せておられることが伝わってきます。バティックがタペストリー風に飾られた壁面にANTARAさんの木炭デッサン画がしっくりと馴染んでいますね。
最初は花鳥画にも惹かれておられましたが、画家のANTARAさんがバリ舞踊を題材に子供たちを描いているのを見て、ご自身のバリに対する思いに繋がる何かを感じられたようです。
そこでバリ舞踊について色々と教えていただきました^_^
「バリ舞踊は毎日どこかしらの寺院で行われているオダランに神様をお招きして喜ばせるものなんですよ」とNさん。
オダランというのは各家にあるファミリーテンプルもあわせるとバリ島の人口に匹敵すると言われるほどの数にのぼるお寺の創立記念祭、バリ暦にそって210日に一度行われています。奉納舞踊は観光客向けのプログラムとは異なり、お寺の境内で舞う神聖なもの。
「今でこそ誰でも踊れるようになりましたが、昔は選ばれた人しか踊れないものでした。たくさんの子どもが集められ、そのなかから選ばれた子どもが寺院に預けられて踊りを習ったという、いわば巫女的なものだったそうなんです」
ー なるほど、それでNさんはANTARAさんの作品集をあんなに熱心に見ておられたのですね。
「舞踏用の衣装はほとんどが寺院やサンガル(踊りや楽器のグループ)やバンジャール(村組織)の所有物です。 有名な踊り手さんの場合は自分の衣装を持っていたりしますけど。 なかでもグルンガン(冠)には神様が宿ると言われ、寺院に保管されて門外不出のものごあったり、使う前にお坊さんにきちんとスンバヤン(ご祈祷)してもらったり、絶対に腰よりも低いところに置かないなど大切に取り扱われているんですよ」
ー バリの人々にとって舞踊は特別なものなんですね。
「本当に奥が深くて、やればやるほど自分がまだほんの入口にしか立っていないと痛感します」
ー なんだか、またバリに行きたくなりました。日本でバリ舞踊が見れる機会ってあるんでしょうか。
「8/2(土),3(日)に東京・阿佐ヶ谷の神明宮という神社で、阿佐ヶ谷バリ舞踊祭という大きなイベントがあります。 関東のバリ舞踊家が100名くらい出演する大きなイベントで、ガムランの生演奏もすごい迫力です!」
舞踊だけでなく、絵画、音楽、彫刻、織物、金銀細工など、バリの芸能・芸術は降臨された神様をもてなすことから始まりました。バリ絵画に向き合うとき、愛や平安な心、厳かな静けさといったものを感じるのは今でもその源流が受け継がれているからかも知れませんね。
<関連サイト>
ANTARA作品ページ ページの下の過去作品のコーナーにかわいらしい子供たちがいますよ
阿佐ヶ谷バリ舞踊際 昨年の写真がたくさん掲載されています
肖像画の本質について考えてみました
こんにちは、坂本澄子です。
先日の震度5の地震、久し振りに揺れました。うちは家中に絵を掛けているため、ぐらっときた瞬間慌てて飛び起きました。幸い絵はそれぞれの場所にじっとしておりほっとしましたが、それも束の間、今度はマンションのエレベータが停止。このあたりのタワーマンションは軒並みエレベータが止まったらしく、保守作業員の方が順番に回って安全確認が完了するまで随分時間がかかりました。それでも、大事に至らずほんとによかったです。
さて、前回(5月3日)のブログでアンタラさんの新しいアトリエと肖像画についてご紹介しましたが、実は私自身も未消化になっていることがひとつありました。写真を見て描いたものは、外見が似ているかどうかに終始してしまい、結局は写真を超えることはできないのではないかという疑問です。
それが偶然出会ったあるデッサン画がするりと解決してくれました。
東京オペラシティのアートギャラリーにて開催中の舟越保武さんの「長崎26殉教者 未発表デッサン」展でのことです。写真のパンフレットの通り、精緻に描き込まれたものではありませんが、その表情は一度見たら脳裏に貼り付いて忘れられなくなるほど、その人の心情を描き出していました。
1597年に長崎で磔処刑されたキリシタン26人(6人が外国人宣教師、20人が日本人)の記念像の建立にあたり、イエズス会からその制作を依頼された舟越さんが描き起こしたデッサン画です。それぞれの顔はもちろんのこと、合わせた手や足、衣のひだに至るまで思いを巡らせた後を見てとることができます。
この作品展のパンフレットから引用しながらご説明しますと、400年以上も昔の話ですから、写真はおろか容姿を伝える絵画資料は一切残っていません。殉教者たちが生前書き記した手紙や処刑の際の様子を紹介した、ルイス・フロイスの『日本二十六聖人殉教記」などの情報を元に、作家はそれぞれの人物の性格や内面を捉え、100点近いデッサンを通じて、まさにゼロからその造形を行ったわけです。例えば、十字架の上から民衆にキリストの教えを説いたというパウロ三木は強い信念を もつ逼しい青年として描かれ、司祭が捕縛されたときに自分も捕らえるように願い出て、刑場で「自分の十字架はどこ」と尋ね たという最年少12歳のルドビコ茨木の面立ちにはあどけなさが漂い、また、喜びの涙を流し、讃美歌を歌いながら絶命したと いうフィリッボ・デ・ヘススの顔貌には安らぎと希望が感じられるというふうです。
ご存知かも知れませんが、舟越保武さんのご子息舟越桂さんも我が国を代表する彫刻家ですから、きっとどこかでご覧になったことがあるかも知れません。その宙を見つめるような穏やかな瞳には様々な内面が凝縮されており、不思議な感じさえします。
話を殉教者に戻しますと、この26名は冬の寒さの中を京都から長崎まで引き回されてきました。やせ衰え、身なりもひどいものだったと想像されますが、 作家は髪を整え、衣服も真新しい晴れ着に替えています。「私はせい惨なものは好まない。激しい動きも喧燥もきらいである」という作家の想いとその後の作品に一貫する特徴一均整のとれた統一感、不純なものを排した簡潔性が認められます。
つまり、実際とは違うかも知れないけれども、作家の目を通じて見た彼らの姿を描き出したわけです。
私は肖像画もこうでなければならないと思いました。肖像画には必ず依頼主がいます。本人の場合もあれば、ご家族、友人の場合もあります。いずれにしても近しい存在で、その人に対するイメージや特別な想いがあるはずです。
ならば、写真を外見上の手がかりとするにせよ、そのときの状況やご本人の気持ち、それを見ている依頼主の想いなどを描き手との間で共有することにより、依頼主の目を通じて捉えたその人の内面に迫ることができ、絵ならではの魅力を生み出すことができると考えました。
そこで今度は、アンタラさんにある女性を描いてもらうことにしました。モデルは以前Facebookアルバム「バリの笑顔」でたくさんのいいね!をもらったウタリ(17歳)です。この写真からわずか1年ですが、彼女は自分の考えを持った大人の女性に成長していました。アンタラさんにとっては初対面ですが、彼女の今を伝えてデッサン画をお願いしています。
この続きはサイトリニューアル後の「ピックアップ・アーティスト」のコーナーでご紹介します。5月下旬公開予定、ぜひご覧下さいね。
アンタラさんへの肖像画のご相談はこちらへどうぞ。
アトリエ訪問 〜 田園風景を眺める場所から
こんにちは、坂本澄子です。
その人の内面にまで迫る描写力で定評のある写実画家のWayan Bawa ANTARA(アンタラ)。いつか私を描いてほしいという願いがついに実現しました。昨年完成したウブド郊外の新しいアトリエも気になっており、現地パートナーの木村さんにさっそく取材に行ってもらいました。
そのアトリエは、大きく開かれた2階の窓から田園風景が見渡せる場所にありました。バルコニーに出ると、田んぼはちょうど刈り取りを終えたところで、普段は湿気の多いバリですが、その日は心地よい風が感じられるほど。
アンタラさんにはこれまで何度かお会いしていますが、気に入った写真をお渡し、それを元に描いてもらうことにしました。
広いアトリエのほぼ中央には、原木から切り出した一枚板の大きなテーブルが置かれています。アンタラさん、ここにスケッチブックを立てかけるようにして座ると、チャコールペンシルを持つ手が猛スピードで動き始めました。その集中力たるやすごいものです。見る見るうちに白い画用紙に輪郭が現れ、目を描くとそこにいのちが宿りました。
待っている間、アトリエの中を見せてもらっていると、きれいな装丁の画集が目にとまりました。昨年ジャカルタの老舗ギャラリー”GALERI HADIPRANA”が開催した、国内で最も輝いているアーティストたちの作品展『Bridging two worlds』向けに作られたものです。ぱらぱらとめくってみると、このアトリエの紹介とともにアンタラさんの作品が大きく取り上げられていました。”Golden Harvest”をテーマに描いたという黄金色に輝く抜けるような田園風景は、まさしくこのアトリエのもたらした新たなインスピレーションでしょう。
近年の経済の発展は目覚ましいものがあり、首都ジャカルタなど大都市の富裕層、中間層を中心に、アンタラさんのような人気作家の作品が飛ぶように売れているそうです。
そうこうしているうちに絵が完成しました。
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後日額装してこんなに立派なポートレートに。ちょっぴりくすぐったい気分です。
「いくつになっても精一杯生きていたいし、そんな自分を信頼する画家の手によって残しておきたい」、アンタラさんには私の気持ちをしっかりと受けとめてもらえました。宝物としてずっと大事にします。
一方、木村さんから送ってもらったこれらの写真を見ながら、日本は経済だけでなくアートに於いてもアジアの中心にいると言えるだろうか…と考えさせられました。
絵画だけでなく、音楽や文芸、日本の伝統芸能など芸術全般に対して政府や民間企業が拠出しているお金は、日本とインドネシアの経済規模を考えたとき桁違いに小さいのではないでしょうか。芸術家が日本で食べていくのは難しいし、優秀な人は海外へ活躍の場を求めて出て行ってしまう。鑑賞する側も美術館には行っても、日常の中で身近にアートを愉しむという発想になかなかなれないのではないかと思いました。
日本人は毎日を心豊かに過ごすことをもっと考えてもいいのではないでしょうか。私も微力ながら、アートのある毎日を愉しむ提案を続けていきたいと思っています。
アンタラさんの肖像画制作に関するお問合せはcontact@balikaiga.comまで。
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