画家紹介番外編「バリ女性の美を追求する気鋭の新進画家 ボリ」
こんにちは、坂本澄子です。
あっと言う間に3月も残り2日となりました。お勤め先では年度末や四半期の締めでお忙しい一週間を過ごされた方も多いのではないでしょうか。3月はひとつの区切り、卒業、異動など別離の季節でもあります。何かが終わる時というのは淋しいものですが、見方を変えれば、新しい何かの始まり、新しい人との出会い、そして新たな自分の発見へのステップでもあります。私自身も人との出会いを通じて新たな道が拓けたことを幾度か経験しました。またいつかそんな話もさせて下さいね。
さて、今日は画家紹介の番外編です。先週が最終回のつもりだったのですが、この人を忘れてはいけないと思いました。モダン人物画では異色の新進画家ボリさん(Putu Antara BOLIT)です。実は4月の絵画展に先立ち、友人たちに内覧会と称して作品の品定めをしてもらいました。その時に何かと話題を集めたのが彼の作品「陽光の微笑」だったのです。写真の通り大きな作品ですので、ちょっと広めのリビング、あるいは店舗、オフィスの受付などに飾るとインパクトあるよねというのが、彼らの異口同音に発せられた感想でした。
バリに行かれた方は同じように感じられたと思いますが、雨期(10〜3月)には昼過ぎから強い雨が降り、乾季特に7〜8月には強い風が吹きます。そのためか、澄んだ空気を通して太陽の光に照らされると万物が原色の鮮やかさを放っています。マリリン・モンローを描いた版画で有名なアンディ・ウォーホルの作風に似た印象を持たれるかも知れませんが、そのタイトルの通り、光の中で幾つもの色彩がバリ女性の肌や舞踏衣装を美しく浮かび上がらせている様子は、まさにバリという土地ならではのもの。このシリーズは島内のリゾートホテルで採用されるなど、商業利用でも人気を集めています。
しかし、ボリさん、普段はさらにメッセージ性の強い作品を描いています。そのひとつがこれ「I am not confident without you」、ちょっと意味深なタイトルですが、YOUとは口紅のこと。バリの片田舎ウブドにも観光地開発の波が押し寄せています。欧米文化の流入によって濃いメイクやタトウに走るバリの女性たちに「君たちは自然なままで十分美しいんだよ」と訴えています。それが高く評価され、一昨年インドネシア国立ギャラリーで開催された「ヌサンタラ美術展2011~装飾のイメージ展」の入選作品に選ばれるなど、高い評価を受けています。
まだ25歳のボリさん、これからどんな作品を描いていくのか、楽しみです。
4月19-21日バリ絵画展「青い海を描かない作家たち」
こんにちは、坂本澄子です。
前回のブログでも見どころをお伝えしました通り、4月19〜21日@パレットギャラリー麻布十番にて、「青い海を描かない作家たち」と題してバリ絵画展を開催致します。このタイトル、私にとって深い思い入れがあります。詳しくは4月下旬公開(絵画展に合わせて19日に間に合うよう鋭意準備中)のコラム「ここに、あなたが知らないバリがある」に掲載します。どうぞ読んでみて下さいね。そして、絵画展に足を運んでくだされば幸いです。
【4月19-21日】原画でしかわからないバリ絵画展の見どころ
4月19日〜21日、東京のパレットギャラリー麻布十番にて、バリ絵画展「青い海を描かない作家たち」を開催します。近年、画像処理技術は格段に進歩していますが、それでも現物を見て初めて伝わることは意外に多く、私が原画にこだわる理由もここにあります。今日は、そんな表現者たちの制作意図と工夫をご紹介します。東京近郊にお住まいの方が中心になってしまいますこと、お許しくださいね。
GALUH「黄昏の静謐」
この作品を見て、水田への映り込みの方が実際の空よりも明るいことを初めて知りました。写真ではやや沈んだ印象を持たれるかも知れませんが、原画を前にすると周囲の落ち着いた色調がゆえに、手前の鏡のような静穏さが尚の事感じられるのです。暮れなずむ空を映して朱と藍が淡く滲み合う水面と家鴨たちのシルエットの対比は心憎いほど繊細な表現力。画家自身が「最も苦心し、最も気に入っている箇所」と称した場面です。同じシュピース・スタイルの画家である実弟クパキサン氏の作品も2点展示します。早朝と黄昏時の空気感の違いも見ていただきたいポイント。なお、展示会期間中に「黄昏の静謐」を購入(インターネットでのご注文も承ります)されたお客様にはGALUHさんからのプレゼントを用意しています。
ANTARA「Sweet Daydream〜夢見る頃」
先週仕上がったばかりの最新作。少女の淡い甘美な想いがキャンバスいっぱいに伝わり、幸せな空気に包み込まれるようです。バリの砂を絵の具に混ぜて下地を作るのがANTARA作品の特徴。きめ細かい砂の温かな質感は氏の創作テーマである”LOVE and JOY”とバリ女性の肌の色を表現するのに一役買っています。今回ANTARA氏の作品は本画2点、木炭スケッチ2点を展示します。スケッチも見どころのひとつ。州都デンパサールの美大に在学中、最優秀デッサン賞を受けたこともあるほどの腕前。その清新なタッチは人物の内面性までも描き出しています。期間中に本画作品を購入(インターネットでのご注文も承ります)されたお客様にはANTARAさんからのプレゼントをご用意。詳細は展示会初日に発表します。
LABA「若豹の憧憬」
深い緑の密林を背景に、つがいの文鳥を好奇心いっぱいの瞳で見つめる若い豹。LABA氏の描く動物は目に特徴があります。幾つもの色の細い線で描き込まれた瞳は瑞々しい生命力に溢れ、まるで人間のように個性を持って描かれています。画家自ら選んだバリ彫刻が施された額装も作品の一部として味わいを添えています。LABA氏の作品は今回3点を展示します。それぞれ異なるモチーフを扱いながらも作品に共通する独特の世界観“LABA’s WORLD”をお楽しみ下さい。
以下の作品写真はブログ「【号外】バリ絵画展 4月開催決定!」に掲載しています。併せてお読み下さいね。
ARIMINI「バリ島物語 」
画面いっぱいに描き込まれた各場面が全体としてひとつのテーマ(信仰と生活)を形成しています。神話の登場人物と村人の生活が描かれた作品は、ARIMINI氏の得意とするモチーフ。物語にあわせて見る人の視線が画面上を流れるように構図と色の配置に工夫がなされています。今回は作品2点を展示し、会場にはモチーフに関する理解を深めていただくための解説を用意しています。
SOKI「実りの季節」
バリの村人たちの生活が極彩色で描かれた楽しい作品。それぞれの場面の意味を理解できると、バリの文化や村人たちの生活、さらにはその背景にあるものまでも見えてきます。それも絵画の楽しみのひとつ。会場にはそんな仕掛けを用意しています。
RAI「牛飼いのレース」
バリの大地を思わせる茶を基調とした色合いの作品。よく見ると、微妙な色の違いや濃淡による描き込みによって、作品に奥行きと躍動感を与えているのがわかります。時間と手間を惜しみなく掛けて一枚の作品を仕上げる、農民画家RAIさんならではの丁寧な仕事ぶりをご覧下さい。
【バリ絵画展のご案内】
画家紹介⑥「情熱の熱帯花鳥画家 ラバ」
こんにちは、坂本澄子です。
東京ではここ数日で一気に桜が開花し、あっと言う間に春爛漫。皆さんの街ではいかがでしょうか。画家シリーズも今回が最終回、私が今までで一番元気をもらえた画家、ラバさん(LABA, I Dewa Nyoman)をご紹介します。
ラバさんはプンゴセカン・スタイルと呼ばれる熱帯花鳥画を代表する画家。1970年代に確立した、バリ絵画の中では比較的新しい様式ですが、深い緑を背景に原色の花や鳥獣を描くその色使いは、赤道近くに位置するバリならではの光の具合をよく表しています。
ラバさんの作品に出てくる動物たち、実を言いますと、私自身は最初あまり好きではなかったのです。「こんな動物いるわけない」という斜に構えた気持ちが先に立っていました。ところが、ラバさんの描く動物たちの魅力は目にあると言われ、実際の作品をよく見てみるとなるほど。幾つもの色を使った細い線で描き込まれており、それが動物たちに生命力と独特の個性を与えているのです。それからです、ファンになってしまったのは。
今年、ラバさんに初めてお会いしました。御年64歳、バリの画家としては高齢です。数年前、目の病気から失明の危機に。しかし、多くの人たちの支援で無事に手術を受け、再び絵筆を取る事ができました。当時目に不自由しながら描いた作品の中には、画家として満足の行かないものもあったようです。お会いした時、ちょうど奥のアトリエでそんな作品を手直ししているところでした。「もう年だから、やっぱり目がね」と言いながらも、素晴らしい作品にぐいぐいと引き込まれてしまいます。そして、何より表現者として制作において決して妥協しない姿勢には頭が下がる思いでした。
4月の展示会では、ラバさんの作品は3点展示します。この「カエルの親方」、私なら自宅の仕事机の横に飾ります。仕事でテンパった時にこのユーモラスな表情を見たら、肩肘張ってる自分が滑稽になって肩の力がスッと抜けることでしょう。また、凧揚げの思い出を描いた「子供の情景」もありそうで意外にない作品です。7〜8月はとても風が強く、凧揚げは冬のバリの風物詩。特に男の子にとって懐かしい記憶の一コマです。こんな風に、子供の頃の記憶に励まされることってよくありますよね。不思議と急に凛とした気持ちになるのです。どちらの作品もちょっと心が疲れた時に元気をもらえそうですね。
ラバさんは、私たち日本人にとってもどこか懐かしい素材をモチーフに独特の世界観と内面性を持って描き上げる名人。何度も色を塗り重ねた彼ならではの深い緑の色使いは、あなたの心の原風景を呼び覚ましてくれるかも知れません。
画家紹介⑤「バリ絵画に極彩色を持ち込んだ画家 ソキ」
こんにちは、坂本澄子です。一気に春爛漫、観測史上最早の桜開花とのこと。バリアートショールームもそんな春風に乗って、4月19〜21日に初めてのバリ絵画展「青い海を描かない作家たち」を開催します。このブログでご紹介している作家たちの原画を展示しますので、東京近郊にお住まいの方は是非覗いてみてくださいね。詳細は当ブログの号外をご覧ください。
さて今日はバリの伝統絵画に極彩色を取り入れたヤング・アーティスト・グループの草分けであるイ・ケトゥート・ソキさん(I Ketut SOKI)をご紹介します。
バリ絵画は影絵芝居に端を発する伝統的技法に西洋技法の影響が加わり、様々な進化を遂げてきました。オランダ人画家アリー・スミットも近代バリ絵画に大きな影響を与えた一人。バリのネカ美術館には彼の作品だけを展示したパビリオンがあり、その作品のほとんどを見ることができます。ウブドのプネスタナン村に定住し、地元の画家たちに絵画レッスンを施しながら西洋の画材を与えて自由に描かせました。それが、バリ伝統のモチーフを極彩色で描くヤング・アーティスト・スタイルへと発展していくのです。
ソキさんは彼の直弟子と聞き、さっそく会いに行きました。典型的なバリの民家の門をくぐると、中庭を見渡せる場所にアトリエがありました。壁には恩師とのツーショット写真が。奥のギャラリーには稲刈り、祭礼、闘鶏といったバリの伝統的なモチーフをポップな色使いで描いた作品が所狭しと並べられ、見ているだけで気持ちが明るくなってきます。
首都ジャカルタはもとよりホノルル、パリなど広く海外でも活動する国際的なアーティストですが、彼の住むプネスタナン村は元は貧しい農村。1960年代にヤング・アーティスト・グループとして脚光を浴びるやいなや、極彩色を用いた明るい作風に象徴されるように、バリで最も輝かしいサクセス・ストーリーとなりました。ロックバンド“THE BOOM”のアルバムジャケットを飾ったこともあり、日本にも多くのファンがいます。島内の主要美術館で作品が所蔵され、インドネシアを代表する画家として不動の地位を築いています。近年は後継者育成に力を入れており、弟子との共同制作によりソキ・ギャラリーとして作品を発表しています。
画家紹介④「バトゥアンを進化させた色彩とリズムの調律師 アリミニ」
こんにちは、坂本澄子です。本格的な春の訪れを感じる季節になりましたね。毎朝の犬の散歩コースは早咲きの桜が満開です。
さて、今日はバトゥアン・スタイルに新風を吹き込んだ女性画家アリミニ(AYU NATIH ARIMINI Ni Gusti)さんの紹介です。
バトゥアン・スタイルはバリ伝統絵画を代表する様式のひとつです。バトゥアン村に滞在した外国人は芸術家ではなかったため、西洋の影響をあまり受けず独自の発展を遂げました。このスタイルの画家たちは暗い色彩を用いてキャンバスいっぱいに細かくモチーフを描き込んだ作品を発表しています。アリミニさんは 8歳から画家の兄の手ほどきを受けて絵画の世界に 入り、女性ならではの感性を生かしたポップな色彩とリズミカルな動きを取り入れた作風で新しい流れを 作っています。その作品はバリの主要美術館で所蔵 されると共に国内外に多くのファンを持っています。
日本でも、1985年に開催された展覧会にウブドの女性芸術家協会の主要メンバーとして出品しています。また、漫画家のさくらももこさんとも著書「ももこの世界あっちこっちめぐり」(集英社刊)の取材を通じて交流があり、2005年には氏のデビュー20周年記念で合作リトグラフの制作にも参加するなど、日本との関わりも少なくありません。皆様方の中にもアリミニさんの作品を目にされた方は少なくないかも知れませんね。
アリミニさんはインド神話の登場人物(神)や村人たちの信仰生活を好んでモチーフに取り上げています。この「バリの生活」にもヒンドゥ教で最高神と言われるヴィシュヌを中心に村人たちの生活が生き生きと描かれています。ご覧の通り明るい色使いが特徴で、作品中央のヴィシュヌ神から湧き出た泉の水色と赤、ピンクで彩られた花が作品の中に配置された村人たちの様々な活動(田植え、祭礼、家畜の世話)へと見る人の視線を誘導し、軽快なリズム感を作り出しているのがわかります。
現在は出身のバトゥアン村を離れ、ウブド中心部から車で約一時間の郊外にあるご主人の郷里で創作活動に専念しています。ギャラリーやコレクターからの注文に応じつつ、マイペースで独自の世界を切り拓く毎日、芸術家として理想的な生き方ですよね。
画家紹介③「スローライフで磨かれた細密画の世界 ライ」
こんにちは、坂本澄子です。
バリの画家紹介も3回目となりました。今回はバリ絵画の伝統技法のひとつ、細密風景画のクリキ・スタイルと画家ライさんをご紹介します。
クリキ・スタイルという名は、この技法の発祥の地であり、今でも多くの画家を輩出しているクリキ村(Keliki)に由来しています。ウブド中心部から一時間ほど車を走らせたバリ島中央部の田園地帯にあり、今でも独特の風情が漂っています。その一軒を訪ねると画家ライさんの自宅アトリエがありました。
余談ですが、バリ島で画家さんを訪問するのに助かったことは、アポイントなしで伺っても大抵お会いできること。普段から遠くへ外出することは滅多になく、留守でも少し待っていれば、そのうち帰ってくるといった具合だからです。そんなゆっくりと時間が流れる中、クリキ村の画家たちは農作業の傍ら、じっくりと手間をかけ緻密な作品を仕上げていました。
元来、バリ伝統絵画の技法には遠近法はほとんどなく、画面いっぱいにバリの風物が描き込まれているのが一般的です。ライさんの作品もその性質を持ちながら、動きと躍動感に溢れる作風が特徴です。写真は王家の葬列、棺に納められた亡骸は村人たちによって、ウブド中心部の王宮から墓地まで運ばれる様子が描かれています。左にはバデ(Bade)と呼ばれる遺体を運ぶ塔、そして中央の木の左側には火葬をする際に棺が入れられる牛の形をしたランブー(Lembu)が見られ、こうして細部を見ているとその場の興奮が伝わってくるようです。
ところで、私も多少絵をたしなむ者として、このような細かい作品をどのようにして描いているのだろうと興味津々、特別にお願いして制作途中の作品を見せていただきました。まず、そのままでも作品として通用しそうなほど精密な下絵を作成した後、細い筆を使って作品全体に黒の絵の具で陰影を付けながら、水を含ませたもう一本の筆でぼかしていきます。乾いた後、その上から色を重ねます。気の遠くなるような細かな作業で、小さな作品でも1枚完成させるのに1~2ヶ月はかかるというのには納得感がありました。
ライさんはプリ・ルキサン美術館などバリ絵画を代表する美術館での企画展に数多く出展しており、最近では『Modern-Traditional Balinese Exhibition』(’12/10月), 『Bali Deep 2012 Exhibition』(’12/12月-’13/1月)に出品、その精緻な作品には国内外から高い評価が寄せられています。
【号外】バリ絵画展 4月開催決定!
※7月も開催します。詳しくはこちらから
こんにちは、坂本澄子です。先月バリで買い付けした作品が昨日届きました。現地のビジネスパートナーから「今晩のガルーダに乗りますから、明朝には日本に着きますよ」と連絡があった時から、私のテンションは上がりっ放し。画家さんたちを直接訪ねて買ってきたものばかりですから、思い入れは半端ではありません。これらの作品を一刻も早く見ていただきたいと思い、当初の予定を繰り上げ、4月に絵画展を開催します。 バリ絵画にはいくつかのスタイルがありますが、その中から6つを選び、それぞれを代表する画家の作品を中心に約30点を展示販売する予定です。
1)プンゴセカン・スタイル(熱帯花鳥画)
深い緑の中に配置された原色の花や鳥、あるいは擬人化されたユーモラスな動物たちの姿に心がふっと軽くなるのを感じます。ラバ氏の作品を中心に今回の展示会で最も多くの作品を展示します。ラバ氏はバリのアルマ美術館が作品を所蔵する、プンゴセカンを代表する画家のひとりです。
2)シュピース・スタイル(幻想風景画) バリに移住したドイツ人画家ヴァルター・シュピースに影響された画家たちが描く熱帯風景画です。どこか懐かしい風景が幻想的なタッチで描かれています。非日常の世界へタイムトリップする感覚を味わって下さい。インドネシアを代表する女性画家ガルー氏(当ブログの画家紹介①をご覧下さい)と弟ケパキサン氏の作品を展示します。
3)バトゥアン・スタイル 西洋の影響を受けなかったバリの伝統技法です。遠近感がほとんどなく、画面いっぱいに描き込まれたモチーフが特徴。元来は暗い色を使いますが、明るい色調とリズムで新たな流れを作ったアリミニ氏の作品を展示します。アリミニ氏はガルー氏と並んでインドネシアを代表する女性画家で、作品はプリ・ルキサン美術館、アルマ美術館に所蔵されています。さくらももこ氏の著書「ももこの世界あっちこっちめぐり」(集英社刊)で取り上げられ、氏のデビュー20周年には合作の記念リトグラフが販売されました。今回はそのアリミニ氏の原画をご紹介します。
4)クリキ・スタイル(細密風景画) モチーフを画面いっぱいに描き込むバリ絵画の伝統手法をさらに緻密にしたスタイルで、クリキ村から発祥、現在も多くの画家が活動しているところから、その名がつけられています。田園地帯のスローライフの中で、何ヶ月もかけ完成させた作品はまさに芸術。プリ・ルキサン美術館の企画展で活躍中のライ氏の作品を展示します。
5)ヤング・アーティスト・スタイル オランダ人画家アリー・スミットの弟子たちによる極彩色を用いた風景画です。稲刈り、闘鶏、祭礼などバリの伝統的なモチーフを描き込んだポップな作風は見る人の気持ちを明るくしてくれます。ソキ・ギャラリーの作品を中心に展示します。ソキ氏はアリー・スミットの直弟子で、このスタイルの草分け的存在です。作品はプリ・ルキサン美術館、アルマ美術館で所蔵されています。 6)モダン人物画 バリ絵画では新しいジャンルで、若手画家が独創性のある作品を発表しています。バリの伝統画法とは異なる魅力を感じられることでしょう。今回は写実人物画のアンタラ氏(当ブログの画家紹介②をご覧下さい)とポップな表現技法を用いてバリ女性の美しさをメッセージするボリ氏の作品を取り上げます。南国バリらしい色彩感覚やモチーフを織り込んだ作品です。 いずれの作品からも、原画ならではの画家の息づかいや思いが伝わってきます。是非、この機会にバリ絵画の魅力に触れていただければ幸いです。
画家紹介②「バリ写実人物画の旗手 アンタラ」
こんにちは、坂本澄子です。
初めてアンタラさんの自宅を訪ねた時、私の目は階段に沿って掛けられたいくつかの絵のひとつに釘付けになりました。朝の湖のほとりで祈りを捧げる司祭。その清々しさにまるで心洗われるようでした。湖面、遠景の大地、そして空、それぞれが違った表情の青で描かれ、雲間から差し込む朝の光にしばし厳かな気持ちになったのでした。それから、作品たちに誘われるように二階へ上がるとそこが彼のアトリエ。大きなキャンバスに向かって絵筆を取っているのが写実人物画家イ・ワヤン・バワ・アンタラさんその人でした。
それまでにも氏の作品は見ていましたが、いずれも画家の愛情に溢れる眼差しを通して瑞々しいタッチで描かれており、その人物の持つ崇高性が強く表現されているのを感じていました。バリの伝統文化をモチーフにした人物画を得意としています。子供の弾けるような笑顔だったり、舞踏が始まる前の緊張した表情だったり、あるいは母と子の優しい関係性であったりと、すべての作品が温かな愛情、楽しさに包まれています。それを表現するのに一役買っているのがバリ島の砂。これを絵の具に混ぜてキャンバスの下地を作り、独特の柔らかさを出しています。
最近の作品はシンガポールで行われた個展でほとんど売れてしまっていたため、作品集を見ながら、こんな感じでと伝えて出来上がった作品がこれです。イメージがぴったりな上に、途中経過を写真で送ってくれる画家はそれほど多くありません。注文を受けて肖像画を描くことも多いので、注文主とのコミュニケーションを大切にしているのでしょうね。38歳という実際の年齢よりも若く見えるのは、彼の持つ少年のような魂のせいかも知れません。
モダン画はバリ絵画の中では新しいジャンルですが、彼の作品はLARASATIなどの絵画専門オークションでも取引されており、今回セレクトした6人の中で私自身が最も期待している画家の一人です。
画家紹介①「静謐さ溢れる幻想風景画 ガルー」
こんにちは、坂本澄子です。 今回から6回シリーズで「バリアートショールーム」で作品を扱う画家たちを紹介していきます。第一回目はインドネシアを代表する女性画家ガルーさんです。 同じ女性だからという訳ではないのですが、正直なところガルーさんにはかなり入れ込んでおり、熱烈応援中です。初めてお会いしたのは、ジメジメと蒸し暑い雨期のこと。エアコンのないクルマで汗だくになって到着した私を迎えてくれたガルーさんは、そこだけ涼やかな風が吹いている、そんな印象でした。
父親は高名な画家、 5人兄弟のうち4人までが画家というアーティスト一家。現代バリ絵画の父と言われるドイツ人画家ヴァルター・シュピースの影響を強く受け、その技法を深く研究しました。今や、シュピース・スタイル(熱帯風景画)では一二を争う売れっ子画家と言っても過言ではないでしょう。国内外からひっきりなしに注文が入り、先日アトリエを訪ねた時も着手待ちの大きなキャンバスが並んでいました。バリの画家名鑑に名を連ね、ウブドのプリ・ルキサン美術館でもその作品を見ることができます。 多忙な毎日ですが、作品に対するインスピレーションを絶やさないためにも、散策を欠かさないそう。早朝、夜が明けきらぬうちに自らクルマを運転し、お気に入りの場所へ。そして、水田に映り込む空の色が刻一刻と変化していくのをじっと観察する、そんなインプットが心の内部に蓄えられていき、キャンバスの上に再構成されるのです。何よりもイマジネーションを大切にしているガルーさんならではのやり方だと感じました。 インタビュー中、一緒にいるとてもきれいな女性が気になったので、「一番下の妹さんですか?」と訊ねると、意外にも「娘よ」とのお返事。聡明で美しく、画家として成功、同じく画家のご主人に美人の娘さん。天は二物も三物も与えるのだと思った瞬間でした:)
【お詫び】ガルーさんは4人兄弟と記載しておりましたが、その後の取材で5人兄弟であることがわかりました。末の妹さんは舞踏家とのことで、本文を訂正致しました。(2013/06/21)