パウル・クレーの絵の面白さ
こんにちは、坂本澄子です。
先日、宇都宮美術館に『パウル・クレー だれにもないしょ』展を見に行ってきました。宇都宮美術館と言えば、マグリット(美術の教科書でもおなじみの「大家族」も所蔵)、シャガール、カンディンスキー、クレーなど、20世紀を代表する巨匠たちの作品を中心に約6500点もの充実したコレクションを持ち、前から気になっていた美術館でした。
実は私自身、クレーにはちょっとした思い入れがあります。抽象と具象の間にあるミステリアスな雰囲気に憧れて、何点も模写した時期があります。暗号のように作品にしのばせられた記号、不思議な形をした物体など、「これは何なのかしらん」と考えているうちに、いつの間にかクレーの世界にはまりこんでいました。
今回の展示は様々な工夫を凝らしながら、そのミステリアスな魅力を解明してくれています。
クレーはキャンバスの裏側に別の絵を描いていたり、もとは大きな一枚の絵だったものを切断して複数の作品に仕上げたりと、おもしろい制作をしています。会場では、壁の両側から2つの作品を鑑賞できたり、もとの大きな作品の全体が見れたりと、謎解きのヒントが与えられます。
例えば、こんな展示がありました。町と人物を描いた一見穏やかな風景なのですが(左写真:『窓辺の少女』、切り取られた作品を並べてみると、その視線の先には女性の死体が横たわり、あたり一面に第一次世界大戦直後の荒涼たる風景が広がっています。
ところで、前回のブログでバリ絵画の価格についてご紹介しましたが、この点においても、クレーはとてもユニーク。ギャラリーとの契約を解除して以降、クレーは作品価値を自らコントロールし、作品一点一点に「価格ランク」をつけました。通常、絵の値段は作家ごとに号あたりの金額がだいたい決まっており、号単価50,000円の作家の場合、10号(長辺53cm)の作品だと500,000円が目安となります。が、クレーの場合は作品に対する自己評価で価格設定され、最高ランクである「特別クラス」は売らずに手元で大切に保管されていました。
こんなふうに制作の背景がわかると、新たな視点を持って作品に向き合うことができます。都内からですと少し距離がありますが、里山に囲まれた美しい公園が美術館までのアプローチを楽しませてくれます。そして、レストランもなかなか。窓の外を見ながらのランチは、まるで森の中にいるみたいです。この企画展は9月6日まで。ドライブがてらいかがですか。
バリ絵画も描かれた題材や背景がわかると、何倍も楽しめます。という趣旨で毎月開催している「バリアートサロン」、次回は8月23日(日) です。バリ島の暮らしを描いた風俗画をご紹介しますので、詳しいご案内はこちらをどうぞ。
<関連ページ>
第3回バリアートサロン「見れば見るほどおもしろいバリ島の風俗画」開催ご案内
宇都宮美術館 『パウル・クレー だれにもないしょ』展 公式サイト
絵の値段はこうして決まる
こんにちは、坂本澄子です。
郊外に出掛けてきました。新宿から電車で約一時間、その後、バスに20分揺られ、歩くこと25分。猛暑の坂道はツラかったですが、冷たい渓流の側でのBBQは気持ちよかったですよ。
さて、今日は絵の値段についてです。バリ島七不思議のひとつとも言われるバリ絵画のお値段。交渉しているうちに、半額以下になったなんてよくある話ですよね。
一般的に絵の値段は画家のランクとサイズによって決まりますが、バリ島では作家とギャラリーの関係や流通の仕組みが欧米や日本のように確立されていないため、画家の多くは自分で価格を決めて売っています。そのため、よく言えばかなり柔軟で、交渉によってはやった〜と思う金額が出てきたりするわけです。果たしてそれは本当にお買い得だったのか。
バリ島の画家にはピンからキリまでざっくりわけて3つの層があります。
①いわゆる著名作家。バリの伝統画家名鑑「BALI BRAVO」が参考になります。
彼らには大手ギャラリーがついていて、サイズごとの販売価格はほぼ決まっています。また、絵画オークションなどの二次流通価格も目安があります。人気作家になるほど価格交渉は難しく、アトリエに行っても在庫はほとんどありません。
②実力作家。①に次ぐ層として、現地である程度名前を知られており、ガイドが観光客を連れてきてくれたりと、お客を呼び込む力があります。自宅の一角をギャラリーにして作品を販売している他、ホテルでの展示販売や企画展にも声がかかります。販売価格は画家自身が決めますが、交渉によって大きく下がることはあまりありません。
③大多数を占めるのが、その他大勢の画家たちです。画業だけでは生活できないので、ガイドなど副業をしながら絵を描いている人もいます。地元の観光客相手のギャラリーや②の画家のところに作品を置かせてもらい、価格はある程度お任せで販売を委託しています。
バリ島に観光に行って七不思議が起こる多くは、③の画家の作品でしょう。しかし、バリ絵画のすごいところは、店の裏でオバちゃんたちが流れ作業で量産しているお土産物の絵は論外としても、③の底のレベルが高いことです。特に技術的な面では間違いなくそう言えると思います。
7月18日のブログでもお伝えしたように、神様へのささげものとして神話をモチーフとして描くことから始まったバリの伝統絵画は、徒弟制度の中で師の描いたものを寸分違わず再現する、いわば職人技として受け継がれてきました。ウブドの画家の多くは父親、叔父といった身近な人から絵の手ほどきを受けた人が多く、技術的な面での伝承は、今もこの形態が広く残っています。そのため、ある決まった題材を上手に描ける画家が多いのです。
一方、絵を描く能力にはこういった技術的な面の他に、絵作りというもう一つ別の側面があります。後者が画家としてのオリジナリティであり、絵の魅力にも大きく影響してきます。今このブログを読んで下さっている皆様がいつか絵を購入される際には、この2つの面を兼ね備えた作品をと思っておられることでしょう。そうなると、①、②からしっかりと作家を選ぶ必要があり、それが私がこの仕事を始めたきっかけでもあります。
「バリアートショールーム」は①の著名作家(「美術館に選ばれた作家たち」)と②の実力作家のなかからこれだと思った画家の作品(「気軽に飾れるバリアート」)を選んでお届けしています。どうか安心してご利用くださいませ。
<お知らせ>
第3回バリアートサロン「見れば見るほどおもしろいバリ島の風俗画」を8月23日(日)に開催します。詳しくはこちらをご覧ください。
夏が来ると思い出す情景
こんにちは、坂本澄子です。
暑中お見舞い申し上げます。梅雨が開け、いよいよ夏本番を迎えました。南半球にあるバリ島はいまは冬。ウブドでは朝晩気温が20℃前後まで下がると、友人からメールがありました。先週のガルンガンの後も小さなお祭りが続き、バリの人たちはみな忙しくしているそうです。
さて、夏が来ると思い出す情景ってありませんか。
私にもあります。確か、小学校3年生だったと思います、遠い親戚のおばあちゃんのうちに行ったときのこと。そこは広島県北部にある山あいの町で、青い田圃がどこまでも続き、隣の家はと言えば、何百mも歩いていくようなところでした。土間には牛が1頭、裏庭にはニワトリ。毎朝卵を取りに行くのが私の仕事になりました。湧き水で顔を洗うと、冷たい水にシャキッと目が覚めたものです。
ある夜、蛍を見に連れていってもらいました。街灯もまばらで、たよりは足元を照らす懐中電灯と月明かりだけ。闇の中を進むと、やがて、あちらに一匹、こちらにも一匹とほのかな光が。まるで呼吸をしているように、時々ふっと明るさを増します。
「懐中電灯を消して」
あたりはまた闇に包まれました。虫の鳴く声に混じって田圃を流れる水の音。稲の青い匂いと足元にやわらかい草を感じながら、蛍の光を追っていました。
この作品を初めて見た時、そんな子供の頃の情景が鮮やかに甦ってきました。
『満月の夜に』は、画家のウィラナタが子供の頃の記憶を紡ぎ合わせて描いた作品です。4000km離れた南洋の島で、同じように心の風景を持つ画家と出会えたことに感激しました。60x80cmの大きさは、窓から外の風景を見ているような臨場感があります。ウブドの田圃で見る蛍は見過ごしてしまいそうなほどの小さな光ですが、バリにいて日本を思い出す瞬間でした。
みなさまも、この夏素敵な思い出をたくさん作ってくださいね。
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バリ絵画のオリジナリティ
こんにちは、坂本澄子です。
今日は第2回バリアートサロンを開催しました。今回のお題はシュピース。バリ絵画のみならず芸術全般において、最も大きな影響を与えた外国人のひとりです。その功績や作風の変化を追いながら、生誕120年の今なお、彼を慕う現代作家たちの作品を鑑賞しました。
また、お時間の許すお客様にお残りいただき、終了後に初めて懇親タイムを設けました。通日前にバリ島旅行から戻られたばかりのT様から写真を見せていただきながら、バリの魅了を語り合いました。
実は、この何年間か喉にかかった小骨のように感じていたことがありました。バリ絵画に作家のオリジナリティがあるかという疑問です。今回シュピースのことを調べる中でひとつの回答が得られ、改めて、バリ絵画の質の高さと魅力を感じたので、今日はそのお話を。
シュピースにはかわいがっていた弟子が2人いました。ソプラットとメレゲックといういずれもウブド王族の親戚筋の若者で、シュピースのアトリエに熱心に通っては、作品を模写していたそうです。ある日シュピースは言いました。
「君たちのスタイル(カマサン・スタイル)で風景でも人物でも自由に描いていいんだよ」
シュピースは2人が真似をすることで作品としてのオリジナリティが失われることを、さらには、バリで培われた伝統絵画のよさが失われることを危惧したのです。
これは、その当時のバリにおける芸術のあり方をよく表しています。
<バリ絵画はもともと個人主義でも、商業主義でもなかった>
バリの芸術は舞踊にせよ、音楽にせよ、絵画にせよ、いずれもみな「神様へのささげもの」であって、作家個人を表現するものではありませんでした。特に、西洋の影響を受ける前の古典絵画は神話を題材とし、若い画家たちは、徒弟制度の中で師の描いたものを克明に真似ることでその技術を継承していきました。画家は芸術家というよりはむしろ職人に近かったんですね。何を描くかは既に決まっており、線をいかに細く優雅に引くか、いかに細密に描き込むかといった技術的な面で、その完成度を競ったというわけです。
ガルーは奇しくも生誕100年の記念の年にドイツ留学を果たし、シュピースの原画を目にします。改めて彼の作品を研究すると共に、バリの大地から感じるインスピレーションや、平安、愛、喜びといった素直な気持ちを表現し、作品を次々と発表していきました。ウィラナタもバリの田園風景を描きつつ、そこに子供の頃の記憶を再構成、心象風景画としての側面が強い作品を発表しています。
シュピース自身もかつてアンリ・ルソーに傾倒し、1923年に都会の喧噪から逃れるように、当時東インド会社の東端にあったインドネシアにやってきました。熱帯のジャングルをモチーフに絵を描き、夢で見た光景やバリ島からインスパイアされたものを要素として盛り込んでいくことで、それはやがて「熱帯風景画」(シュピース・スタイル)というひとつの新しいジャンルへと発展していきます。
(左)『動物寓話』1928年
バリ島西部のジャングルを歩き制作した作品。バリに来てすぐの頃に描かれた。
現代のバリ絵画にはオリジナリティがあるというのが私の結論です。モダンアートのように尖った表現とは異なり、じんわりと心に染みて来る素朴なやさしさがあります。ただし、そのためには画家を選ばなければなりません。商業主義に走り、他人の作品を模倣して作られた作品が溢れる中から、本物を見極める目を養わなければならないのは、欧米も日本もバリも同じです。
さて、第3回バリアートサロンはバリの風俗画を取り上げます。西洋の影響によって、作品の対象は民衆の生活へと広がっていきます。 バリ独特の習慣や風習がわかるともっと楽しめますよ。詳しくは開催のご案内をご覧下さいませ。
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ご希望のサイズで注文制作も可能です。人気作家のためお時間をいただきますが、作家が自分のために描いてくれた作品という魅力があります。ご相談はお問合せからどうぞ。
瀬戸内海の小島でアート三昧の旅③ 古い建物をアートに
こんにちは、坂本澄子です。
暑いですね〜。表を歩いていると溶けそうで、日陰を選んでジグザグ歩き(笑)
今日は「瀬戸内海の小島でアート三昧の旅」の最終回をお届けします。
これ、何だと思いますか? 島の多くの人が住む本村地区。そこで見かけたものです。
表札? 私も最初はそう思いました。でもね、なんだか名字らしくない。しばらく歩くとまたありました。デザインは同じですが、「わぁわ」「みせ」「よろず」…、刻まれた文字がそれぞれに異なっています。見つけるたびに写真を撮っていたら、結構集まりました。
ちょうどお昼時、立派な佇まいの古いお宅の一部がカフェに改造されていました。立派な門の横に「おおみやけ」と刻まれているのを見て、お昼はそこでいただくことにしました。蔵のような建物を改修た洒落た雰囲気のカフェ。ランチメニュ2種類はアジアンごはん。私はガパオをいただきました。
お勘定の時に、その表札みたいなものの正体について訊いてみました。
「これは屋号プロジェクトと言いまして…」
お店の方が教えてくださったところによると、島内には同じ名字が多く、昔から屋号で呼び合う習慣があるのだそう。「おおみやけ」は三宅姓です。
しばらく歩くと、あるお宅の壁にヒモで描いたこんな素敵なアートを見つけました。玄関の外に暖簾をかけたお宅もちらほら。道往く人を楽しませるちょっとした遊び心があちらにも、こちらにも。
「屋号プロジェクト」しかり、今では島民あげてアートの島へと変貌を遂げた「直島」ですが、建築家の安藤忠雄さんが初めて訪れた時、ほとんど禿げ山の状態。せっせと苗木を植え、緑を育み、プロジェクトが進行し、やがて島の南側に美術館ができました。それでも、島の人たちにとっては「島の南(住民の少ない地域)に美術館ができた」程度の印象しかなかったそうです。それが変わるきっかけとなったのが「家プロジェクト」。
過疎で空き家になった古い家を譲り受け改修して、空間そのものをアートに生まれ変わらせようという取り組みです。その第一号となった「角屋」は廃屋同然の建物がアーティストの宮島達男さんと島民125人の参加によって、新たな命を吹き込まれました。
土間部分に作られた「シー・オブ・タイム`98 」(写真)。水の中に125個のLEDカウンターが埋め込まれ、それぞれが違う速度で1から9までの数字を刻みます。とてもゆっくりなものから、目にもとまらぬ早さで動くものまで実にさまざま。このカウンターの設定は、下は5歳から上は95歳までの参加者に委ねられたものなんです。
この「家プロジェクト」によって一番元気になられたのがお年寄り。古いものが見直され、新たな価値を持って輝き出す姿を見て、自信を取り戻されたのでしょうね。それが古いものを見直そうという動きにつながっています。ゴミ一つない通りにも、そんな静かな自信と誇りが感じられます。
予告編+3回に渡っておおくりした「直島」旅紀行。いかがでしたか。バリ絵画ではありませんが、アートが人の心に働きかける力を信じ、 自然+建築空間+アートの共演で取り組んだ一大プロジェクト。その思いに共感を深めました。「アートは人の気持ちに働きかけ、こんなにも元気を与えてくれている」、町の空気からもそのことがじんじんと伝わってきた2日間でした。
<お知らせ>
第2回「バリアートサロン」。いよいよ今週土曜日7月18日開催です。
今回はバリ絵画にルネッサンスをもたらしたドイツ人画家シュピースと、彼の意志と作風を今日に引き継ぐ作家たちの熱帯幻想風景画を取り上げます。古いものを見直し、新たな価値を生み出したという点では「直島」と同じ熱い思いを感じます。詳しくはこちらをどうぞ。
瀬戸内海の小島でアート三昧の旅② グッと来た光景8選
こんにちは、坂本澄子です。
久し振りにおひさまが戻ってきてくれました。
今日もアート三昧の旅「直島」の続編をお届けします。前回は「地中美術館」を取り上げ、建築空間+アート+自然の関わり方をご紹介しましたが、今日は心にグっと来た光景をご紹介します。
直島には、「対比」することで感じ方を増幅させる様々な手法が用いられていると思いました。「光と闇の対比」と「自然と人工物の対比」。そして、もうひとつが「実在と描かれたものの対比」です。
前回のブログの最後に、地中美術館でモネを見た後、美術館を出たところで実際の睡蓮池に出くわしたことを書きましたが、これもひとつの例です。
まるでフラッシュバックのように、さっき見たモネの睡蓮が甦ってきます。
まだまだあります。
直島には作家がその場所に来て制作した「サイト・スペシフィック・ワーク」が数多くあります。バートレットのこの作品はもともと直島のために描かれたものではありませんが、 大きな窓から海岸線が見える位置に飾られることになり(写真上)、「だったら海岸にもボートを置いてみてはどうか」と画家自身が言い出したのだそう。その意味で、最初の「サイト・スペシフィック・ワーク」とも言えそうです。
私が一番いいなと思った作品は、本村(もとむら)地区にある護王神社です。古くから島民が暮らし、いまも古い家並みが残るこの町で、建物そのものをアートに生まれ変わらせた「家プロジェクト」。護王神社はそのひとつで、写真家の杉本博司さんの作品です。杉本さんは世界中の水平線をおさめた作品でも有名なのですが、以下、写真をご覧ください。
地下の石室には坂道を下って、細い通路を3、4mほど歩いて入ります。太っちょさんだとつかえてしまいそうな程の細い道の向こうは漆黒の闇…かと思いきや、ガラスの階段を伝わって入り込む外光によって石室はほのかに明るいのです。今通ってきた通路から海を上がって来られた神様が、ガラスの階段を昇り、地上のお社に入られる、そんな構造になっているのだなと思いました。
驚いたのはその後です。
再び細い沿道を通って外に出ようとしたとき、細く四角に切り取られた向こうに見えたもの。それは穏やかな瀬戸内の水平線でした。言葉で説明するのがもどかしいほど、「うわぁぁぁ」って感動。少しは伝わるでしょうか。
最後は、ベネッセミュージアムに併設されたホテルからの眺めをどうぞ。
自然+建築空間との共作によって創られるアート。滞在型のミュージアムとして、その空間そのものが見る人に色んな感情を呼び起こし、働きかけてくるのを感じた2日間でした。
東京に戻ると再び生活が始まりました。こうして、この文章を書きながらも、「あー、また行きたいなあ」。でも、生活感いっぱいの殺風景な部屋を見て、ため息まじりにぼやくか、お部屋にもアートな空間を作ってみようと思うかは、自分次第ですよね。まずは部屋を片付けてみました(笑)
第二回「バリアートサロン」1週間後に近づいてきました。直島で体験したことを私なりに展示に生かしてみたいと思っています。
今回ご紹介するのは、バリの田園風景を幻想的なタッチで描き出したドイツ人画家シュピースと、彼の影響を受けたバリの画家たちによる光の風景です。直島でも光が効果的に用いられていましたが、バリの光の風景も心にじわじわ染みて来るものがあります。バリ島の素朴な風景と東京ベイエリアの近未来的風景。その対比もご覧いただきたいと思います。詳しくは「バリアートサロン」のご案内をどうぞ。
<関連ページ>
第二回「バリアートサロン」開催のご案内 7月18日(土) 11:00-12:00
瀬戸内海の小島でアート三昧の旅①
こんにちは、坂本澄子です。
前回のブログの予告編の通り、私はいま瀬戸内海のアートの島「直島」を巡る旅の真っ最中。「アート」×「建築空間」×「自然」、3つの要素のコラボレーションによって表現されたものを全身で受けとめています。
岡山県の宇野港を出発したフェリーで瀬戸内海の小島を縫うように進むこと20分。到着した直島はあいにくの小雨模様でしたが、緑滴る景色はしっとりとした空気に包まれ、時折聴こえる波の音。旅心にひたっていたら、驚いたことに、こんなのどかな島に実に多くの外国人。アートの島の名は国内だけでなく海外にも轟いていたのでした。考えてみたら、そうですよね。小さな島に安藤忠雄さんの建築物がゴロゴロ建っているんですもの。
今日はそんな安藤建築のひとつ「地中美術館」をご紹介します。
ここは建物のほとんどが地中にあるというとても珍しい美術館。3人の作家による9作品だけを展示している、とても贅沢な空間です。丘陵地を彫り込むように作られた建物は、シャープな直線、コンクリート、鉄、ガラスといった素材を用いた極めて人工的な作り。唯一、自然のものと言えば、各展示室の天井にもうけられた明かり取りの開口部から取り込まれた自然光くらいのものでしょうか。(時間の経過と共に表情を変え、これがまた素敵)
そんな安藤建築によるアプローチ部分を抜けて、最初に迎えてくれるのがモネの展示室です。ここは、白い小さなタイルが床一面に敷き詰められた白い空間。正面には幅6mの睡蓮の大作。そしてその脇を固めるように4点の連作が展示されています。
天井からの間接光と床面からの白い反射光がちょうど絵の真ん中あたりで交わるのですが、そのせいか、見る位置を変えるたびに睡蓮が青、緑、赤と色を変えるように見えるのでした。
そんな光による錯覚をさらに感じたのが、次の展示室のジェームス・タレルの作品(写真)です。黒い階段の上に青く光るスクリーンがあるように見えますが、中に手を差し込んでみると、この後ろに別の空間があり、中へ入れるんです。さらに、5mほど先の突き当たりが壁のように見えますが、実はこれも同じトリック。
「あ、危ないですからそれ以上前に進まないでください」
はい、確かにもうひとつ空間があるそうですが、そこには奈落のようにぱっくりと口を開いた段差が。あ〜、危ない危ない^o^;
最後は、地下3階にあるウォルター・デ・マリアによる巨大階段空間。ほぼ中央に直径2.2mの御影石の球体が設置され、磨き上げられた球面には階段やら壁やらが映り込み、昔懐かしいスマイル・ピースのように見えるんです。目を凝らすと豆粒大の自分の姿がちょうど鼻のあたりに。
もうひとつ面白いのが、前後左右の壁面に取り付けられた木の彫刻。金箔でコーティングされた棒状のもので、よく見ると、三角柱、四角柱、五角柱の3本からなっています。それぞれの置かれた場所(右、真ん中、左)によって27通りの組合せができますが、それが一定の規則に基づいて配置されており、まるで幾何学空間です。
一息入れたくなったところに、ちょうどカフェが。一歩足を踏み入れて驚きました。地下3階だと思っていたところに、瀬戸内海を一望する景色が広がっていたのですから。それまでの人工的な空間から一変して自然の風景。この突然の切り替わりは新鮮でした。「ああ、これがこの地中美術館の意図したものだったのかなあ」と。
美術館を出ると雨はやんでいました。行きは足早に通り過ぎた場所に睡蓮の咲く池がありました。池のほとりには柳の木。先程見たモネの睡蓮と同じじゃないですか。実際の景色と絵に描かれた風景。人工物と自然。人は対比によってものごとをより強く感じることができるのですね。アートという媒体によって、自然と自分自身の関わりを感じて、考えた一日でした。
写真出典:「ベネッセアートサイト」http://www.benesse-artsite.jp/chichu/
<お知らせ>
第2回「バリアートサロン」7月18日(土) 11:00-12:00
光の戯れを幻想的なタッチで描くガルー&ウィラナタの作品とその作風に大きな影響を与えたドイツ人画家シュピースの功績をご紹介します。
直島、アートに包まれて眠る場所
こんにちは、坂本澄子です。
早いもので今年も折り返し点を過ぎ、季節はいよいよ夏本番へと向かいます。私は来週早めの夏休みをいただき、瀬戸内海に浮かぶアートの島「直島」へ旅する計画をたてています。
直島 。。。「行ってよかった」という友人たちの言葉を聴くたびに心を動かされていました。雑誌に取り上げられると「おっ」と本屋さんで立ち読みをしたものです。そんな好奇心がもっと能動的な「行きたい!」に変わったのは、直島を瀬戸内海の過疎の小島からアートの島へと変貌させた、ベネッセの福武總一郎さんが自らお書きになった文章を読んだ時からでした。
福武書店の先代社長が急逝、会社を継ぐため、急遽東京から岡山の本社に戻ることになった總一郎氏は、当初東京と岡山の情報量の違いに戸惑いを感じてしまったそうです。ところが、数ヶ月が経ち、瀬戸内の島々を回遊するうちに、東京にいないことの幸せを心の底から感じるようになられたんですね。
その思いはこんな言葉で綴られていました。
「東京にあるのは刺激、興奮、緊張、競争、情報、娯楽であり、『人間』というキーワードはありません」
「アートが主張するのではなく、アートが自然や歴史の持っている良さを引き出す、そしてそれらの相互作用で人間を動かす。即ち、感動やある種の感情を引き出す。これは単なる鑑賞ではなく、観ている人の生き方を変えてしまう可能性すらある、それが現代美術の持つ素晴らしさです」
かくして、直島に建築家の安藤忠雄さんの設計によるミュージアムが作られました。建物がすべて地中に埋まっている、世界的にも珍しい建築技法の「地中美術館」(写真:ベネッセアートサイトより)です。また、島内のあちこちに彫刻作品が置かれています。そのひとつはきっと皆様も一度は写真などで目にされたことがあるでしょう。草間彌生さんの巨大かぼちゃです。
その他にも、島内の古民家を改修してアーティストが家の空間そのものを作品かした「家プロジェクト」、実際に入浴ができる美術銭湯「I ♡湯」などなど。
私が何より興味をもったのはこのプロジェクトによって地元のおじいちゃん、おばあちゃんがとてもお元気なられたこと。人生の甘いも苦いも知り尽くしたいわば人生の達人であるお年寄りがよい心の状態で過ごせる場所、それを創り出すきっかけとなったのがアートであるとすれば、これはすごいことですよね〜。
スケールも扱う分野も違いますが、私もバリ絵画を通じてアートが人にもたらすプラスの力を考え続けてきただけに、これは実際に観て、感じて、知りたいと思ったわけです。
次回のブログでは、そんな視点で見た直島をお伝えしたいと思います。
<お知らせ>
第二回「バリアートサロン」申込受付中 7/18(Sat) 11:00-12:00
バリ島に幻想的な熱帯風景画をもたらしたドイツ人画家シュピースの半生に迫ります
バリ絵画に見るシュールレアリズムの薫り②
こんにちは、坂本澄子です。
最近、東南アジアの方々とお会いする機会が増えてきました。最近ではお顔を見ると、この人はタイの方かなとか、カンボジアの方かなとか少しずつ見分けがつくように^_^ そして、銀座には観光客が戻ってきました。こちらはやはり中国の方が圧倒的に多いですね。交通機関には、英語、中国語、韓国語による案内が増えてきました。
ずっとJAPAN LOVEの私ですが、この仕事を始めてから、アジアのことが気になるようになりました。経済はもちろんですが、文化的な意味でも日本がハブ的な役割が果たせるようになるといいなと思う今日この頃です。
さて、今日は「バリ絵画に見るシュールレアリズムの薫り」第二弾として、ウィラナタの作品を取り上げます。『満月の夜に〜Fullmoon Galungan』(写真)は、これまでも何度かご紹介しましたが、前回に続き、同画異空間の観点でお話したいと思います。
『光の風景』もそうですが、この作品も逆光に描くことで、夢の中にいるような非現実感をうま〜く表現しています。そして、2つの月。空に浮かぶ月と水に映る月。どちらも蒼白い光。一方、手前で人物を照らすランプとたいまつには暖色を用いて、対照的な光の描写をしたところ、何ともニクイですね。
向こうが天上なら、こちらはさしずめ下界です。バリ島には、聖峰アグン山のある山側をカジャと言って、聖なる方角として海側(クロッド)と区別する風習があります。どの家でもファミリーテンプルがアグン山に向かう敷地の角に建てられているのはそのため。ウィラナタもそんなことをイメージしながらこの絵を描いたのかも知れません。
私がこの絵を好きなのは、壁にかけたときに、開いた窓の向こうに別の風景を見ているように感じるから。たとえあわただしい都会にいても、窓のすぐ向こうには田園風景が広がっているように思えます。そして、その中には、もうひとつ別の世界があるというわけです。
ね、ちょっとシュールな薫りがしてきたでしょ?
ところで、今ウィラナタさんにこの絵のイメージで小さな作品を描いてもらっています。「この絵すごく好きなんだけど、飾る場所がね」と仰るお客様のご希望でご注文制作中です。満月の夜のこの雰囲気を小品の中でどんなふうに出してもらえるか、お客様と一緒に楽しみに完成を待っているところです。
7月18日(土)の第二回「バリアートサロン」は、ウィラナタをはじめとする幻想的な熱帯風景画をご紹介します。彼らに強い影響を与えたドイツ人画家シュピースの半生を追いつつ、作品の魅力を解明します。詳しくはこちらをご覧ください。
<関連ページ>
第二回バリアートサロン『シュピースの功績と幻想心象風景画の世界』のご案内