シュピース – 現代画家に受け継がれる熱情
こんにちは、坂本澄子です。前回に続き、今日もシュピースのお話を。
彼の残された少ない作品の中でもとりわけ有名なのは、『風景とその子供たち』ではないでしょうか。一度見たら忘れられないような強い個性を放ち、主題である牛を連れた農夫がリフレインのように何度も出て来るこの作品。1つのキャンバス上にいくつもの時空間を共存させた、シュピースの作品によく見られる技法が用いられています。
この作品を見て、音楽を感じる人は少なくないと言います。実際、シュピースは羨ましいほど多くの才能に恵まれ、ピアニストであり、作曲家でもありました。ヨーロッパの現代社会の荒廃した世相から逃れるようにバリ島にやってきたシュピースは、第二次世界大戦中にオランダ軍に敵国人として捕らえられジャワ島に抑留されるまで(その2年後に47歳で他界)の約15年間、その地に留まりました。その間に描いた作品の中で、憧れの情景を作品の中に再構成したのでしょう。
ガルーの新作『朝のセレモニー』を初めて見たとき、作品のほぼ中央手前に高くそびえ立つ椰子の木の構図に、シュピースのこの不思議な絵を思わされました。
’95年、シュピースの生誕100年の年に、招待留学でドイツに渡ったガルー(当時27歳)は、彼の作品に直接触れ、圧倒されるほどの強い揺さぶりを感じたそうです。そして、その作品を熱心に研究し、取り入れ、そして、完全に自身の作品として昇華させています。
もうひとり、シュピースに魅せられた人がいます。ガルーの実弟、ウィラナタです。
LALASATI絵画オークションのウェブサイトで、画家としてごく初期の1990年頃に描かれた水彩画の小品2点が17万円で落札されたのを見ました。(写真はそのうちの一点)ほとんど模写のように描かれたこの作品、ウィラナタが当時いかにシュピースに傾倒していたかがわかりますね。
このように初期、前期の作品がオークションで取引されているのを見ると、ウィラナタが画家として多くのコレクターたちを惹き付けていることを感じます。
シュピースの作品は戦争中に多くが失われてしまい、バリ島の美術館でも複製画が展示されているのみです。残された作品はオークションで1億円もの価格で取引され、信奉者の間では伝説的な存在のシュピースですが、同じように南国にわたったゴーギャンなどと比べると、まだまだ過小評価されているのは残念に思います。
そうそう、前回ご紹介したシュピースの著書に走り書きされたメッセージ、まだ解読できておりません。英語、ドイツ語ではないことははっきりしたので、次はフランス語の線をあたっています。ヒントがありましたら、コメントでお知らせいただけると嬉しいです。
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ミステリアスな魅力・シュピース
こんにちは、坂本澄子です。
「幻想心象風景画作品展」にたくさんの方にお越しいただき、ありがとうございました。お客様がFacebookに投稿された写真を見て、初めて来て下さった方もあり、本当に感謝です!
今回展示したガルー、ウィラナタはいずれもドイツ人画家シュピースに傾倒し、その幻想的な作風の影響を強く受けた作家たちです。奥の部屋に関連書籍として、ワルター・シュピースの半生を描いた『バリ、夢の景色。ヴァルター・シュピース伝』を置いていたところ、手に取って見られた方がかなりおられました。
そんな中、一冊の古い本を取り出し、「ずっと気になってることがあるんです」と、バリ絵画を愛してやまないOさん。バリ絵画展の常連さんです。
聞くと、何でも、2、3年前に神田の古書街を歩いていたところ、源喜屋書店でたまたまシュピースの著書『Dance and Drama in Bali』(1938年刊)を見つけ、その場で購入したのだそう。これまで多くの人の手を渡り歩いてきたと見られ、団体や個人の蔵書印がいくつも押されています。ふと表紙の内側を見ると、万年筆で走り書きされた文字が。1939年3月6日と日付の書かれたメッセージのようです。
「もしかして、シュピースの直筆ではないかと思いましてね…」
いてもたってもいられなくなり、私に見せたいとわざわざ持って来られたというわけです。これがその写真。
確かにドイツ語のようにも見えなくはないのですが、残念ながら、シュピースのサインは左の写真のような読みやすいアルファベットで、明らかに筆跡が違いました。しかし、1939年と言えば、この本が発行された翌年。間違いなくシュピースと同じ空気を吸っていた人の手によるものです。
「何て書いてあるんでしょうね」
がぜん興味が湧いてきました。何だか探偵になった気分^o^ Oさんもそれを調べてほしくて、ウズウズされている様子。しかし、いかんせん、達筆過ぎて…。どうも、ドイツ語でも英語でもなさそうです。
そこでお願いなのですが、この文章の意味をわかる方がいらっしゃいましたら、ぜひお教えいただけませんか?
ところで、この本は絵画ではなくバリ舞踊について書かれたものなんです。シュピースは絵画だけでなく、演劇、音楽、文学など、幅広い分野でその才能を発揮し、バリ舞踊を外国人も楽しめるようリメイクしたことでも知られています。その功績が称えられ、「バリ人から最も愛された外国人」と言われる一方で、「最も憎まれた外国人」とも。降臨した神様に対して舞うという神聖なものを世俗的に書き換えたと捉えられることもあるのです。
芸術家が万人から支持されることはまずないですし、その魅力が強ければ強いほど、非難されることも多いものですが、100年近い時を超えて、シュピース・スタイルとしてバリの今日の画家に受け継がれ、多くの人々を魅了し続けていることは、やはりすばらしい功績だと思うのですが、いかがでしょうか。
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シュピース・スタイル スタイルの特徴と作品をご紹介しています
「幻想心象風景画」作品展の様子
こんにちは、坂本澄子です。
「幻想心象風景画作品展」が始まりました。12時にオープン、次々とお客様が来場され、ガルーとウィラナタの独特の世界観を楽しんでいただきました。
RONDOは写真のようにこじんまりとしたギャラリーですが、配管が露出した真っ白な壁面に、ライトの光が神秘的な陰影を作り出し、それが作品と呼応し合って、不思議な雰囲気を醸しています。
特に、ウィラナタの大きな2点の作品は、窓から外を眺めているかのようなリアルさがあり、しっとりとした空気を感じ、虫の鳴き声や水の音まで本当に聴こえてきそうです。そのため、会場にはBGMを流さず、ご自身の感覚だけで楽しんでいただいています。
この作品展は2日間だけの開催。今日土曜日の18:30までです。有楽町線「銀座一丁目」駅10番出口から徒歩1分の便利な場所にあります。土曜日のショッピングの合間に、ぜひお気軽にお立ち寄り下さいませ。
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絵画オークションでの流通事情
こんにちは、坂本澄子です。
素敵な絵に巡り会ったとき、「これ、ほしい」と盛り上がる気持ちと同時に、「この絵はどのくらいの市場価値を持つのだろう」という冷静な判断をされることと思います。特にその絵が高い絵であればある程、そうですよね。
そこで今日は、2000年にジャカルタで設立、現在はインドネシア、シンガポール、香港の3カ所で、アジアの絵画市場に向けてオークションを運営しているLALASATI Auctioneersでの落札価格を調べてみました。過去のカタログと落札価格はウェブサイトで公開されていますので、ご興味があればご覧になってみてください。
LALASATIが主催する絵画オークションはバリ島では年2〜3回行われています。毎回100点前後の作品が出品され、1時間に40〜50点というスピードで進み、最終的に8〜9割が取引成立します。
2014年は7月と11月の回にそれぞれ1点ずつ、Wiranataの昔の作品が出品されていました。
制作年度 作品サイズ 落札価格(買い手はこれに加えて手数料を支払います)
2006 100x100cm IDR40,000,000 (約40万円)
2002 80x200cm IDR60,000,000 (約60万円)
(出典:LALASATI Auctioneersのウェブサイト)
Galuhは作品数自体がそれほど多くないので、オークションに出品される件数も限られており(2013年9月に1点出品)、とても貴重です。また、両作家ともにリトグラフやジグレなどの版画を作っていないため、作品を購入し大切に所蔵しているファンが多い様子も感じられました。
以前は買い手の半数は外国人でしたが、近年はインドネシアの経済成長を反映し、地元インドネシアの人々の熱気ある姿が多くを締めるようになりました。落札された作品は自身で楽しむほか、二次流通を通して次の顧客の手へと渡っていきます。
「バリアートショールーム」ではオークションでの購入や出品は行っておりませんが、これらの情報は客観的な市場評価として参考にしていただけると思います。
そんな両画家の新作をご紹介する「幻想心象風景画作品展」、いよいよ2日後の開催と迫ってまいりました。作品の魅力を存分に味わっていただけるよう、今回は展示作品数も8点と絞っています。見方によって様々な表情を見せてくれますので、ぜひゆっくりご覧になってください。
東京メトロ有楽町線「銀座1丁目」駅、10番出口から徒歩1分。昭和7年築の趣のあるギャラリービル(奥野ビル)が見えてきます。手動式の扉を開けて、エレベーターで5階へお上がりください。 地図
あ、降りられるときに、黄色い蛇腹の内トビラを忘れずに閉めてくださいね〜。(トビラが開いたままだと、1階から呼んでも降りてこないんです…汗)
ウィラナタ新作『満月の下で』を入荷
こんにちは、坂本澄子。
ウィラナタの新作が届きました。写真で見ていた何倍も素晴らしい作品です。
真っ先に目に飛び込んでくるのは山の向こうに昇った満月。その蒼白い光と水に映るもうひとつの月。幻想的なその光景は見る人を厳かな気持ちにします。
これは1960年代、村にまだ電気が届いていないころの情景で、石油ランプを使って灯りをともしています。とても重いので、これは頑健な成人男性の仕事だったそうです。人物の上半身が裸なのは、その頃のバリ島の風俗がそのまま表現されているため。
篝火を持って水面を照らしている少年は、田うなぎや水中の昆虫を探しています。画家が自身の少年時代を思い出しながら描いた、最も思い入れの深い部分。
これらの暖かみのある光にほっとするような気分を味わい、その光が照らすところに視線を移すと、丁寧な描き込みによって、素足に触れる草の感触までが、伝わってきます。耳を澄ますと、上の田圃から流れ落ちる水の音、虫の鳴く声などが聴こえてきそうです。
画家のつけたタイトルは”Fullmoon Galungan”。ガルンガンと言えば、バリで最も盛大なお祭りですが、ここでは家族でしめやかに祝う祭礼としての一面が描かれています。日本語タイトルは『満月の夜に』とさせていただきました。
実物でしか伝わらないこの繊細さをぜひご覧になってください。1月23(金)・24日(土)の2日間、「幻想心象風景画 作品展」でどうぞ。
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幻想心象風景画 作品展・・・有楽町線「銀座一丁目」駅から徒歩1分
絵を何倍も引き立ててくれる名脇役
こんにちは、坂本澄子です。
バリ島は雨季のまっさかり。連日のように雨が降り、湿度は90%を超えます。「洗濯物が乾かないわ〜」と友人からもぼやきメールが。
そんな中、ウィラナタの新作を土曜日に発送したとの連絡がありました。冬の移送に神経を使うのは、この劇的な気候の変化に耐えながら、絵と共にはるばる日本にやってくる額縁のこと。なにしろ、気温差20℃、湿度の差に至っては50%ですから(^o^;
これまでも何度か泣かされました。反ったり、隙間があいたり、ツヤが失われたりと、何かとトラブルが多いのは実は額縁なんです。もちろんある程度の修復はできますが、作品をベストな状態で見ていただきたい今、それは頭の痛い課題のひとつ。
ウィラナタの新作は60cmx80cmとサイズが大きいので、悩みました。いっそのこと額縁は日本で作ろうかとも。
バリ島の寺院には必ずある、広く深く大地に根を張った大木。バリの人たちは大きな樹には精霊が宿ると言います。生命力溢れる逞しい幹、やさしく包み込んでくれるような深い緑を見るとき、ゆかりの地で育った、無垢の木の額縁で包んであげたい…、やはりそこは譲れないんですよ。
現地パートナーの木村さんに相談したところ、「トラブルの原因は乾燥が不十分なことなんです」と思案顔。そして、数日後、「いいものが見つかりました」
それは10年前にジャワ島東部の木工所で作られたチーク材の額縁でした。注文制作で作られたものですが、何らかの理由で納品されないまま、ゆっくりと時間をかけて乾燥されました。いつも額縁をお願いしているウブドの額縁屋さんが、4年前にたまたまその存在を知り、一目見て気に入りすぐに購入。その額縁にふさわしい絵が現れるのをずっと待っていたという次第。
写真を送ってもらうと、かっちりとした上品な作りに、磨き込まれたなめらかな木肌を見せていました。
「10年経ってこの状態のよさですから、日本に持って行ってもまず大丈夫」と木村さん。
これがその額縁です。私も一目で気に入りました。この素敵なエピソードにも。
10年後にようやく出会えたベストパートナー。この10年間は強さと美しさを手に入れるために必要だった時間です。人と人とに出会いがあるように、作品と額縁にも出会いがありました。そして、この作品がいつかどなたかの元へ嫁ぐのも、また出会いだと思います。
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「幻想心象風景画 作品展」・・・1/23-24の2日間、この作品をご覧いただけます
インスピレーションを与えてくれる絵
こんにちは、坂本澄子です。
ある朝、カーテンを開けたら、美しい光の層が東の空を染めていました。その手前を首都高湾岸線が通っているのですが、6時で既にかなりの台数のクルマが。そのいくつかはたくさんの荷物を積んだ大型トラックでした。
「寒い朝、まだ暗いうちから働いているひとがこんなにいるんだ」そう思うと、なんだか胸がきゅーっと熱くなりました。
あのトラックは、この前注文した絵を持ってきてくれた運送会社かも知れない、このクルマには…などと思いを巡らせると、私のこの小さな仕事も、多くの人々の協力で成り立っており、それがお客様へと繋がっています。そして、それは回り回っていつかまた私のところに戻ってくる。目に見えないけど、そんな確かな繋がりを感じました。
「幻想心象風景画 作品展」、2週間後に近づいてきました。先日、会場となる銀座1丁目のRONDOに打合せに行き、展示はガルーとウィラナタの作品8点(うち2点が新作)、それぞれを飾る位置と動線などを検討しました。RONDOは奥の部屋に窓があり、時間によって光の入り方がかなり変わります。光の描写が特徴的な作家たちの作品ですから、最終チェックは前日に行うことになりました。
ところで、「この絵を日本に持ってきてよかった!」と思う瞬間って、何だと思います?
「絵が売れたとき?」
はい、もちろんそれはありますが、どちらかと言えばそれは結果論。この朝の出来事のように、胸がじーんと熱くなるのは、絵を見て下さった方が心の底から喜んで下さったときなんです。
画家を知り、作品の制作過程に関わった人間のひとりとして、作品と共に、そこに込められた描き手の想いごと受け取ってきたつもりです。
それを見て下さった方の心に何か感じるものがあれば、例えば、穏やかな気持ちだったり、勇気だったり、時にはインスピレーション(創造的思考に対する刺激)であったりと、何かプラスの作用をもたらしてくれれば、嬉しいです。
当日はどうぞお気軽に新作を楽しみにいらして下さい。たくさんの笑顔が集まるよう、昭和のレトロな薫りいっぱいのギャラリービルでお待ちしています。
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「幻想心象風景画作品展」開催概要・・・1月23日(金)・24日(土) 12:00-18:30
モノより思い出
こんにちは、坂本澄子です。
バリ島が大好きなあなたに贈りたい作品
この企画を思いついたのは、あるお客様からいただいたお便りがきっかけでした。
「30年前にある縁があって以来、バリ島はずっと気になる存在でした。そして、ようやくこの夏休みに初めてバリを訪れました。人の穏やかさ、棚田の美しさ、各所にお供えをする心、ガムランの心地よさなど、すっかり気に入って帰ってきました。(中略)展示会、楽しみにしています」
色んな形(例えば、ハネムーン、家族で夏休み、大好きなひととの夏休み など)でバリを訪れる人がいます。
時を経ても色褪せない思い出になるのは、青い海やリーズナブルで質のよいスパ、洗練されたホテルでの滞在といった、ありきたりなリゾートとは違う何かを感じたから、ではないでしょうか。
思い出すたびにふっと幸せな気持ちになる、そんなバリ島でのかけがえのない時間を絵にしたらどうなるかと考えてみました。
再び同じ場所を訪れても、あの時の同じ時間を取り戻すことはできないでしょう。でも、記憶の中の情景を通じてなら、今また同じ思いを、共に過ごした大切な人と共有できるかも知れません。
その絵にはバリ島の魅力がぎっしりと詰まっています。たくさんの神様に守られ、自然と共存することで豊かさを手に入れてきた島。その絵を鑑賞者として見るだけでなく、あなたご自身もそこに描かれ、同じ時空間を共有している。
そんな世界で一枚の絵に仕上げたいと思っています。
「モノより思い出」
これは、クリエイターの小西利行さんが書かれた、日産セレナの広告コピーです。それまでクルマと言えば、人やモノが移動する手段。このわずか7文字で、大切なひとと思い出を創るという全く新しい視点・価値を生み出しました。
絵だって同じ。美術館で鑑賞するだけでなく、もっと日常の中で、あなたの思い出や感性と繋がることができるはずです。
絵を家族のような身近な存在にしたい。そう考えて、この特別な企画をソキさんにお願いしました。あなたのバリへの特別な思いをこの絵に託してみませんか?
詳しくはこちらをご覧ください
日本古代美術、バリ絵画との共通点
こんにちは、坂本澄子です。
あっと言う間に三が日も終わりましたね。バリ島では花火と爆竹で賑やかな新年を迎え、雨季の真っ只中、雨が降ったりやんだりのお天気が続いているそうです。皆様はどんなお正月をお過ごしでしたか?
私は実家のある広島に戻り、元旦は宮島に行きました。厳島神社は世界でも珍しい海上神殿。島に到着したときにはちょうど干潮で、大鳥居の下まで歩いていけました。満潮時には人の背の高さくらいまで海水面が上がるため、フジツボがぎっしりついているのですが、その隙間にたくさんの一円玉や五円玉がはめ込まれていました(笑) 夕方帰る頃には再び潮が満ち始め、大鳥居を船でくぐって、海上から参拝していたというかつての姿に思いを馳せました。
絵が好き、バリが好きで始めた「バリアートショールーム」ですが、本当にいい作品をお届けするためには、美術史を体系だって学び直す必要があると常々感じていました。今年はこれを実行しようと思っています。
年末に奈良を訪れて飛鳥〜奈良時代の国宝の仏像・建造物に触れてきましたので、さっそく復習を兼ねて、日本の美術史についてまとめてみました。日本史の授業でもおなじみの内容ですが、バリ絵画にも一部通じるところがあり、とても興味深く感じました。ご一緒に楽しんでいただければ幸いです。
<飛鳥時代・・・正面から拝観することを意識した造り>
聖徳太子が活躍した飛鳥時代には、渡来人に出自を持つ仏師・鞍作止利により法隆寺・釈迦三尊像(623年)を代表とする金銅仏や木彫仏が制作されました。アルカイック・スマイルと呼ばれる神秘的で素朴な微笑みをたたえた表情や杏仁形の目、左右対称の造りや衣文線の抽象的な表現を特徴としています。これらは朝鮮半島経由でもたらされた中国・北朝時代の影響なのだそうです。
この頃、紙や墨、絵具の作り方も大陸から伝えられました。題材は宗教画で、法隆寺の玉虫厨子は台座の四面に釈迦の前生の物語や菩薩像、仏舎利(釈迦の遺骨)の供養の様子が描かれています。
上写真の手前面に描かれた「捨身飼虎図」は釈迦の前生の物語で、飢えた虎の母子を哀れんだ釈迦が自身の身体を布施する場面です。この図は異なる時間の相をひとつの画面に描く「異時同図法」の典型的な例としても知られています。左写真のように、①王子が衣服を脱ぎ、②崖から身を投げ、③虎にその身を与えるまでの時間的経過を表現するために、王子の姿が画面中に3回登場しているのですよ。
<より人間らしい描写に近づく>
続く白鳳時代は天武・持統天皇の時代を中心として、日本に律令国家が形成される時代です。持統天皇は天武天皇の妃。余談ですが、ふたりは戦の時ですら片時も離れなかった程に仲がよく、天武天皇の亡き後、持統天皇はその意志を継いで即位したと伝えられています。ふたりの天皇が同じ場所に埋葬されるのはとても珍しいことだそう。そのふたりの墓跡を今回奈良の飛鳥で見てきました。今はもうただの草原となっており、うっかり通り過ぎてしまいそうな場所ですが、そんなエピソードを聞くと、古代のロマンを感じます^_^
この頃になると、随や初唐様式の影響を受け、仏像もより自然で柔和な表情で、より実際の人間に近い身体つきで表されるようになります。薬師寺・薬師三尊像はその代表例。絵画では、法隆寺金堂壁画や高松塚古墳の壁画が有名ですね。弾力のある描線と隈取りによる陰影により、調和の取れた理想的な体つきに表現、初唐のスタイルが絵画にも及んでいることを示しています。
<宗教テーマから風俗にも着目>
さらに奈良時代になると、仏教は国家の保護を受け、東大寺の大仏を初めとして造寺、造仏が国家規模で進められました。それまでの金銅造や木彫に代わって、塑造や乾漆造などの新しい技法が取り入れられ、動きのある写実的な表現を特徴としています。例えば、興福寺・阿修羅像。その悲哀を込めた表情は、今日の私たちの心をも揺さぶりますよね。絵画では薬師寺・吉祥天像が有名ですが、宗教画としてだけではなく、服装、髪型、装身具など、当時の女性の風俗を描いたものとしても楽しめます。
この時代は唐を経由して、遥か遠く地中海地方や西アジア、インドの文化が日本に伝えられました。一般公開されていませんが、正倉院にはササン朝ペルシャのガラス器など国際色豊かな宝物が収められています。今回見学した興福寺・八部衆像(阿修羅像はこのひとつ)は仏教で古代インドの異教の神々を表したもので、バリ絵画でもおなじみの神鳥ガルーダ(迦楼羅)の姿もありました。奈良がシルクロードの東の終点と言われる所以ですね。
バリの古典絵画(カマサン・スタイル)にも似たような変遷が見られます。14世紀にお隣のジャワ島の政変から逃れてきた知識階級によってもたらされた古典絵画。インド神話である「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」をテーマに人物を平面的に表現し、1つの絵の中に複数の場面が描かれました。宗教画としての側面が強かった古典絵画もやがて題材を身近なものへと変えていき、20世紀のオランダ統治下においては、西洋絵画の影響を受けて、人物はより写実的に描かれるようになりました。
こうしてまとめながら思うのは、絵は描かれているものやその背景にあるものを理解すると、何倍も楽しめるということ。これからも時々ブログでもご紹介していきたいと思います。おつきあいくださり、ありがとうございました。
初春のお慶びを申し上げます
新年明けましておめでとうございます。
私は広島の実家で静かな雪の朝を迎えました。皆様はお正月をどのようにお過ごしですか?
今回は途中奈良に立ち寄り、飛鳥〜奈良時代の文化を満喫してきました。国宝、重要文化財の仏像、建造物がゴロゴロしているのには改めて驚き。特に、興福寺の阿修羅像の哀愁をおびた表情は人の悩み、苦しみにも通じ、もうすごいの一言に尽きました。阿修羅ファンクラブの会員募集してたのには、もひとつ驚きましたけどねw
さて、2015年の「バリアートショールーム」はガルー、ウィラナタによる「幻想心象風景画 作品展」@銀座を皮切りに、今年も「バリ島の美術館に選ばれた作家たち」の新作をご紹介していきたいと考えています。
バリ島のギャラリーでもなかなか目にすることのない、著名作家の作品をお届けするのはもちろん、今年はこれをさらにもう一歩進めて、見る人と絵画との双方向の接点を増やすアプローチをしたいと考えています。
どういうことかと言いますと、例えば、今回のウィラナタの新作は満月の夜を描いたものですが、月と言えば私たち日本人とも関係は深く、お月見を楽しんだり、ふとしたときに月を見上げて物思った経験は誰もが持っています。そんな心の琴線に触れるテーマで、作品を描いてもらうというのがそのひとつです。
それなら日本人画家の方がいいんじゃないかと思われるでしょ。そこをバリの画家に頼むのがミソなんです。今回のウィラナタの作品の時もそうだったのですが、「満月の夜」という言葉から日本人が想像するものとは少し違う作品ができました。いい意味で期待を裏切られた感じです。
もうひとつは、新春特別企画「ソキによるあなただけのバリ島」のように、お客様がお持ちの思い出を絵画として表現したらどうなるかという試み。好きな絵というレベルを超えて、特別な一枚になればと思いました。実はこれ、写真がなかった頃の西洋では、お抱え絵師が貴族の旅に同行して絵を描くことがよくありましたが、そこからヒントを得ました。
’90年〜’00年代は日本人のバリ旅行がピークでした。ハネムーンで訪れた方もかなりいらっしゃるでしょう。そんな方には、節目の年の結婚記念日にいかがでしょう。ソキさんの人物描写はある意味とても単純化されているので、「もっと美人に描いてほしいわ」と言われる奥様には、肖像画を贈るのも素敵ですね。デッサン画なら重たくならず、プライベートスペースに飾れます。バリに素敵な思い出を持つふたりだからこそ、バリの画家にその思い出を委ねてみるのはいかがでしょうか。
というわけで、今年も毎日の暮しの中でアートを身近に楽しんでいただける企画をご紹介してまいります。本年もどうかよろしくお願い致します。
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幻想心象風景画 作品展 ・・・1月23日(金)・24日(土) 銀座1丁目駅より徒歩1分
新春特別企画「ソキによるあなただけのバリ島」・・・バリ島屈指の人気作家が描きます