こだわりの木彫り額縁
こんにちは、坂本澄子です。先日成田で通関した荷物が届き、有明ショールームは早くも緑に包まれています。
絵を飾る楽しみのひとつはお部屋の雰囲気を変えてくれることだと前回お話しましたが、その絵を2倍も3倍も素敵にしてくれるのが額縁です。先月私がバリに行った目的のひとつは彫刻を施した額縁作りだったことを覚えておられるでしょうか。その額縁が届きました!期待以上の仕上がりです。
木彫りの額縁はバリ絵画とは相性抜群なのですが、生木のため湿度の違いと虫食いの両方に気を配らなければなりません。日本に持って来た後も美しい風合いを長く保てるかが一番の課題でした。この道10年の現地パートナーのアドバイスで試作品を作りながら検討を重ねたのが、これです。額縁用に作られた強度のあるニャント材を確保し、そこに熟練した職人がひとつひとつ手彫りしています。5cm幅と7cm幅の2種類を用意し、色はダークブラウン(写真)、ブラウン、そして原木そのものの色合いを生かしたナチュラルの3色から、作品に一番合うものをつけてお届けします。とっても重厚感がありますよ。
作品はLABAさんの新作です。LABAさんはバリ島のアルマ美術館にも作品が所蔵される、プンゴセカンの巨匠的存在。バリ絵画展のテーマである「緑に抱かれる午後」にあわせて、野鳥画2点の制作をお願いしました。いかがですか?それぞれ愛情表現の仕方は違うけど、思わず微笑んでしまうあったかさがありますよね。LABAさんの作品の特徴は何度も絵の具を塗り重ねて深い緑色を出していること。そのため、作品自体は40cmx50cmと決して大きくないのですが、お部屋に飾った時に目を引く存在感があるのです。タイトルは2羽にちなんで、『LOVE, LOVE』としました。恋人募集中の方、お部屋にぜひ一枚。よい出会いが舞い込んでくるかも:)
もうひとつ新作です。こちらは「バリアートショールーム」初登場のTIRTA(ティルタ)さんの作品。美術館の企画展を中心に活動しているTIRTAさん、ご覧のように開放感いっぱいの風景画やみずみずしい花鳥画を得意としています。プルメリアはEBENさんの作品にもありますが、また違った趣がありますよ。見比べてみて下さい。
ということで、7月10日(水)〜15日(祝)のバリ絵画展は、一面の緑に重厚感ある木彫り額縁、そしてBALI BAGUSさんとのジョイントによるバリの上質な雑貨をお楽しみ下さい。
スケジュール入れてくださってますか?お待ちしてます。
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お部屋の雰囲気を一瞬で変えてくれる絵
こんにちは、坂本澄子です。梅雨ですね、昨日は地下鉄を降りたとたんに土砂降り。お天気も気持ちも何だかジメジメ。こんな時、お部屋の雰囲気をからっと変えてみたくないですか?
まさにそんな時、活躍するのが大きなサイズの絵。うちにも写真の通り、畳一畳分はあるEBENさんの大きな花鳥画が飾られています。実はこの絵、私にとってはとても思い出深い作品。『ここに、あなたの知らないバリがある』でもご紹介していますが、私は一枚の絵をきっかけにバリ島のウブドに出会いました。その作家のもとに弟子入りして絵を教わった時に記念に購入した作品がこれなのです。EBENさんのアトリエの中でもひときわ存在感を放っていました。なにしろこの大きさなので、日本に持ってくるのに随分苦労しましたが、3ヶ月後にようやく手元に届き、リビングに飾った時の感動は今も忘れません。そこがまるでウブドの森に繋がっているように感じたのです。
これだけ大きいと部屋のどこにいても目に入りますよね。そうすると不思議なことが起こってきたのです。部屋が散らかってると気になって、ついつい片付けてしまうのです。また、友達にも見てもらいたくて、家でホームパーティをやるようになりました。そうしたらまた片付ける。で、お部屋がどんどんキレイになってくるのです。それまでは恥ずかしながら、仕事で忙しいのにかまけて、”のだめの部屋”の一歩手前でした。今は家で仕事をする事が多いのですが、机の上が整理されていると、不思議と考えもまとまってくるのですよね。
「バリアートショールーム」でも大きなサイズの絵をご用意しています。中でも一押しはこれです。120cmx100cm。綺麗な色遣いでお部屋の雰囲気ががらりと変わりますよ。これならちょっと友達を呼んでみたくなりませんか。もうひとつお勧めなのが、同じ系統の色や大きさの作品を何枚も飾るやり方。これはコレクター向けですが、よく外国映画なんかで、壁一面に絵や写真が飾られたリビングや階段を見たことはありませんか?暮らしている人の個性やセンスを感じますよね。
こんな素敵な空間を実際に作ってみようと思っているのが、来月のバリ絵画展『緑に抱かれる午後』です。来て下さった方はご記憶にあるかも知れませんが、4月に開催した『青い海を描かない作家たち』でも緑に囲まれた一角がありました。「これをこのギャラリーいっぱいに広げたらどうなるだろう」って、実はあの時思いついたのです。昨日成田で通関手続きをしてきました。積み上げられた荷物を見て、「この中は緑一色なんだ」と思うとワクワクしました。後2週間、最高のアートスペースをお見せできるよう準備していきます。
スケジュールは入れて下さってますよね?7月10日(水)〜15日(祝月)の6日間です。13日(土)は17時からギャラリートークをやります。飲み物と簡単なお料理も用意していますので、バリ絵画を楽しみに来て下さいね。詳しい案内はこちらです。
「遠くて行けないよ」という方、ゴメンナサイ。会場の様子はサイトでもご紹介します。作品はすべてこのサイトでご覧いただけますので、ゆっくり見て下さいね。
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BOLIT『陽光の微笑Ⅰ』、BOLIT『陽光の微笑Ⅲ』、 EBEN『森の囁き』、EBEN『野鳥の森』
バリ絵画展「緑に抱かれる午後」の見どころ
こんにちは、坂本澄子です。毎日しとしと、梅雨ですね。じめっとした気持ちを吹き飛ばすように、バリ絵画展の準備、張り切ってやっています。
さて、あなたはどのくらいの頻度で美術館に行きますか?「平均すると月1回は行ってるよ」という方、是非このバリ絵画展に来て下さい。そう自信を持って言える、質の高い作品を揃えました。
私も月に1〜2回は絵を見に行きます。特に企画展は主催者が何らかの意図(テーマ)を持って作品を集めているので、楽しいです。説明パネルも丁寧に読んでいくので、かなり時間をかけて回ります。でも、企画展って混みますよね。回りを気にしながら見ている感じ。それでも、「あ、これいいな」と思える作品に出会えると、思わず見入ってしまいますよね。で、出た所にあるショップでついつい図録や絵はがきを買ってしまうのも、皆さん同じではないかと思います:)
「緑に抱かれる午後」も美術館の企画展みたいな楽しさを目指しました。テーマ、作品選定、展示位置など、限られたスペースの中で最高のものをお見せできるよう、練って練って準備しています。今回は図録も作りますので、お家に帰ってから、もう一度ゆっくり見て楽しんで下さいね。
美術館と唯一違うのは、気に入った作品があれば購入できること。心に清流が流れたら、その感覚を毎日味わいたいと思いませんか?バリ絵画は一流アーティストの作品(原画)が手の届く価格で買えることも魅力のひとつ。インドネシアの物価が低い今だからこそ享受できるメリットです。ですので、これはと思える作品に出会ったら迷わずどうぞ。
今回もうひとつ新たな試みをしたいと思っています。それはバリ雑貨との共演。緑一色に染まる会場に花のような彩りを添えてみたいと思いました。バリには熟練の職人さんがひとつひとつ手作りしたステキな雑貨がたくさんあります。バリの豊潤な大地に育まれた素材から作られた良品を厳選してお届けします。手伝ってくれるのはBali Bagusの竹迫さん。10年以上前にウブドの不思議な魅力に取り付かれ、以来毎年通い続け、ついには雑貨屋のオーナーになったという人です。まさに私と同じ「バリの向こう側」にはまってしまったという訳で、すっかり意気投合しました。
アロマキャンドルはとても上質な香り。バリのお日さまをいっぱい浴びて育ったハーブをふんだんに使ったNatural Light Candle社のもの。五感をふるわすアートスペース作りに一役買ってくれそうです。また、ラタン、ラフィアなど植物を丁寧に編んだ夏のお出かけに大活躍するカゴは、バリ在住のブラジル人デザイナーPriscila VIVACQUA(プリシラ・ビバクア)の作品。彼女もまたバリに魅了された一人。しっかり編んだ感触が手に馴染みます。
7月10日(水)〜15日(祝)@麻布十番、カレンダーに入れておいて下さいね。案内はこちらにあります。
画家紹介⑦ あなたをオンにする一枚〜ウィラナタ
こんにちは、坂本澄子です。今日は新しい画家をご紹介します。ウィラナタ(WIRANATA)、シュピース・スタイルの繊細かつ大胆な風景画を描き、姉のガルー(GALUH)と並んで、バリ絵画で今最も注目されている画家のひとりです。首都ジャカルタ、シンガポールなどから注文が引きも切らない状態。でも、日本びいきの彼は「日本人とバリ人は似てると思うよ」と快く注文を受けてくれました。
出会いはプリ・ルキサン美術館で見た一枚の絵でした(写真左)。ランタンの光に映し出された親子の様子が何とも温かくて、不思議な印象だったのを今でも覚えています。それがガルーさんの上の弟のウィラナタさんの作品だったとわかったのはそれから随分経ってからのことでした。プリ・ルキサン美術館にはもう一枚作品があります。ちなみに、ネカ美術館が所蔵している作品「村の風景」(写真右)はアリー・スミット氏の寄贈です。彼は画家であると同時に、バリ絵画に魅せられた熱心なコレクターでもあったのですね。
さて、そんなウィラナタさんに色々とお話を伺ってきました。
<画家になったきっかけ>
父が画家だったため子供の頃から身近に画材があり、7歳頃から本格的に描き始めたそうです。17歳の時に描いた作品が叔父のグラカカ(ヤング・アーティスト・スタイルの画家)を通じて初めて売れたのが、プロの画家として活動する最初のきっかけとなりました。とにかく風景画が好きで、シュピース・スタイルという枠にはまることなく、自分の作品を描いていきたいと抱負を語ってくれました。
<制作にあたってのインスピレーション>
棚田やチャンプアン(2つの川が合流する地点、バリでは精霊が宿ると信じられている特別な場所)など、作品の題材となる風景を見に行くこともありますが、子供の頃の情景を思い出して想像力をかき立てられることも多いそうです。特に、子供の頃に住んでいたウブドでの思い出は宝物。魚釣りをしたり、泳いだり、壁に落書きをしたり…、そう語る彼の目はまるで夢見る少年のようでした。
<画家として努力していること>
注文とは別に、新しい試みにチャレンジするための作品作りをしているそう。とは言え、超売れっ子画家のウィラナタさんは私が訪れた時も2点を同時進行で制作中。ここにもう一枚というのは正直かなりツライはずです。しかし、それを敢えてやることで、画家として自ら成長する機会を作りだしているのはスゴイと思いました。制作の新しい試み、写真がまさにその作品で、雨雲を新たに題材として取り上げました。納得が行くまで筆を入れて、素晴らしい作品に仕上がることでしょう。
プロの画家というのは好きなことをしているようで、実はそうでもありません。注文主から色々とリクエストされるとそれに応えるため、必ずしも自分の描きたいように描いているばかりではないとよく耳にします。しかも、売れっ子になると出来上がる端から出て行くため、ウィラナタさんの場合も手元に残っている作品はわずか2点。将来の夢は、この雨雲の作品のように自分の好きな絵を描きためて、いつか自分だけのギャラリーを作ることだそうです。
ウィラナタ作品の特徴は光と影のコントラスト。それが作品全体に心地よい緊張感を生み出し、特に朝の風景は気持ちがしゃんとするといいますか、とにかく「今日も頑張るぞ」モードになれるのです。まさにあなたの一日をオンにする一枚。今回できあがった作品はバリ絵画展「緑に抱かれる午後」に出品しますので、ぜひ原画を見に来て下さいね。
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夏目漱石の美術世界
こんにちは、坂本澄子です。先日、東京・上野にある東京藝術大学大学美術館に「夏目漱石の美術世界」展を見に行ってきました。実は、私は大の漱石ファン。学生時代、その作品のほとんどを読みました。この絵画展は、漱石の作中に登場する絵画を取り上げ、文章とのコラボレーションという新しい視点で展示・解説したもので、通常の絵画展とはひと味違った面白さがありました。漱石が国内のみならずイギリス留学中に目にしたさまざまな絵画を通じて、美術の世界に造詣が深かったこと、そして自身も絵を描いていたことを知ってビックリ。なるほど、漱石の作品はいずれも絵画的な描写が特徴で、情景が眼に浮かぶように感じるのはそこから来ていたのかと納得した次第です。
例えば、私が好きな「三四郎」。熊本の高校を卒業した主人公三四郎が東京帝大に入学したての頃、大学構内にある池のほとりでヒロイン美穪子に初めて出会う場面は、こんな風に表現されています。
「ふと眼を上げると、左手の岡の上に女が二人立っている。女のすぐ下が池で、池の向こう側が高い崖の木立で、その後が派手な赤煉瓦のゴシック風の建築である。そうして落ちかかった日が、凡ての向こうから横に光を通してくる。女はこの夕日に向いて立っていた」この場面は、画家藤島武二の「池畔納涼」をイメージして書かれたものと言われています。
また、みなさんもよくご存知の「坊ちゃん」で、三津浜から眺める島をターナー島と名づけるシーンがありますが、ここでは画家ターナーの風景画が引用されています。
『あの松島を見給へ、幹が真直で、上が傘の様に開いてターナーの画にありそうだね』と赤シャツ(教頭)が云ふと、野だ(画学の教師、教頭の腰巾着)は『全くターナーですね。どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ』と心得顔である。ターナーとは何の事だか知らないが、聞かないでも困らない事だから黙って居た。すると野だがどうです教頭、是からあの島をターナー島と名づけ様ぢゃありませんかと余計な発議をした。
こうしてみると、漱石の作品には直接的あるいは間接的に絵画がうまく取り入れられ、文章に深みを与えていますね。
さらに、漱石は本の装丁にも強いこだわりと美意識を持っていました。写真は「吾輩は猫である」の初版本。その後も漱石の本の装丁を多く手掛けた橋口五葉の装丁デビュー作です。アールヌーボー調のデザインがなんとも洒落てますよね。
「夏目漱石の美術世界」展は7月7日までやっています。その後、静岡県立美術館でも開催されるそうなので、特に漱石ファンの方、また違った発見があると思いますので、是非どうぞ。
さて、7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後 〜Deep into the Forest〜」で、私も絵画と文章の融合を意識して特集記事を書いてみました:-)イメージは子供の頃の夏休みです。このテーマの中で目指しているのは、作品と文章(作品解説)をカタライザー(触媒)として、ご自身の心の風景を引き出して(=思い出して)いただくこと。それによって心穏やかなひとときを過ごしていただき、「よし、また頑張るぞ」と元気になっていただければ嬉しいなと思っています。7月10日(水)〜15日(祝)@パレットギャラリー麻布十番、お待ちしています。
また、アールヌーボーと言えば、先月バリに行き、睡蓮をモチーフにしたステキな作品を見つけてきました。様式化して描かれた睡蓮が鮮烈な背景色と相まって美しい個性を発揮しています。モダンなインテリアにも合いそうです。こちらも絵画展に展示しますので、ぜひ見て下さいね。
【関連リンク】
バリ絵画展「緑に抱かれる午後 〜 Deep into the Forest 〜」
アールヌーボーを彷佛させる熱帯花鳥画 ここから購入もできます
バリ島美術館巡り③ アルマ美術館
こんにちは、坂本澄子です。梅雨の季節、毎朝天気予報をチェックしてお出かけのことと思います。ところで、宇宙天気情報というのがあるのをご存知ですか?「活動領域1765でCクラスフレアが発生し、太陽活動はやや活発でした。今後1日間、太陽活動は静穏な状態が予想されます」と、まあこんな感じです。「降水確率は50%です」と言われると、折りたたみを鞄に入れとこうかとなりますが、太陽活動が活発なときは??この情報はどんな風に使われているのでしょうね。さらには、オリオン座のペテルギウスが爆発すると太陽がふたつ見えるような状態になるとの説もありますが、640万光年前の出来事を見るわけですから、想像するだけで深淵なロマンを感じます。
時間と空間を超えて心象風景をシュールリアリスティックなタッチで表現したのがドイツ人画家ヴァルター・シュピース。彼は画家としてだけでなく、写真家、音楽家、舞踏家などとしても活躍し、現代バリ芸術の礎を築いたと言われています。その画風はシュピース・スタイルとして現代に受け継がれ、「バリアートショールーム」でもガルー、ウィラナタなどこのスタイルを代表する作家の作品を紹介していますが、シュピース自身の作品を見たいという方にはアルマ美術館をお勧めします。
と言う訳で、「バリ島美術館巡り」最終回はアルマ美術館です。既にご紹介したプリ・ルキサン美術館、ネカ美術館が絵画という表現方法にある程度限定しているのに対して、絵画を中心に舞踊、音楽、演劇などバリの芸術全般を見据えた展示・活動をしているのが特徴。例えば、作品の展示スペースで地元の子供たちが踊りを披露していたり、祭礼用の衣装やバロンが展示してあったり(写真左)、時にはこれを使用したパフォーマンスが見られるといった具合です。展示室もバリ伝統建築をベースに大きな吹き抜けが設けられ(写真中央)、壮大かつ雰囲気のある空間を創り出しています。
ヴァルター・シュピースに関する展示は、3美術館中もっとも充実しています。残念ながら彼の作品のほとんどは戦争で失われたり、島外へ流出してしまっているため、展示されているのは複製画ですが、それでもこれだけの作品がまとまっていると、シュピース独特の世界観の一端を伺い知ることができます。写真も充実していますので、シュピース・ファンの方は是非アルマ美術館を訪れてみて下さい。広い敷地内には舞踏用の野外ステージ、ホテル、レストランもあります。それらの建物をつなぐ南国庭園も美しいので、作品を堪能した後は散歩がてら歩いてみるのもいいですよ。
どこの美術館でもそうですが、見覚えのある画家の名前を見かけると、つい見入ってしまいます。美術館には大抵大きなサイズの作品が展示されています。バリ伝統絵画は精緻に描き込んだものが多いので、これだけの作品を完成させる集中力、空間捕捉力、描写力はどれほどのものだろうと、いつもその才能に感心させられます。アルマ美術館にはアリミニ、ソキ、ラバ、ガルー(ギャラリー部門所蔵)、ウィラナタ各氏の作品が所蔵されていますので、訪れる機会がありましたら是非見てきて下さい。
バリ島美術館巡り② ネカ美術館
こんにちは、坂本澄子です。梅雨の中休み、というより、「もしかしてまだ入ってなかった?」と思うくらい、過ごしやすいお天気が続いてますね。気象庁による梅雨入り発表(宣言ではない)は“◯◯が何日続いたら”といった明確な基準がある訳ではなく、現在までの天気経過と今後一週間先までの見通しに基づくあくまで予報、つまり、後から修正もありなのだそうです。
さて、今日は美術館巡り第二弾、ネカ美術館のご紹介です。観光でバリ島に来て、どこか一つだけ美術館に行きたいという方がおられたら、私は迷わずネカ美術館をお勧めします。16世紀の影絵芝居をルーツとして誕生。神話の世界を描きながら発展し、1920年代には西洋技法と融合。その後いくつかのスタイルに分かれて進化したバリ絵画の歴史を、体系だって学べる展示構成になっているからです。西洋絵画の影響については、色彩においてアリー・スミット、解剖学に基づく人物描写でルドルフ・ボネ、そして遠近法を用いた風景描写でヴァルター・シュピース。彼ら西洋人画家の作品も多数展示されているため、どのように影響を受けたのかがよくわかります。
特に, アリー・スミットの作品コレクションが充実しています。独立したパビリオンに飾られた明るい色彩の風景画の数々に、きっと気持ちも明るくなるはず。 ちなみに、先日ご紹介したバリの遠近法、バリ絵画の描き方はネカ美術館の文献を参考にさせてもらいました。単に作品を展示するだけでなく、バリ絵画をきちんと伝え、守り育てていこうという気概のようなものを感じます。
もう一つ見逃せないのは、展示室の窓、天井、扉などの建具類に見られる、バリ人の美意識の高さです。窓の美しい文様を通して見る中庭の風景はそれだけでひとつの作品と言ってもいいほど。 所蔵作品としては、戦後〜現代作家によるもののウェイトが高いので、もし時間が許せば、プリ・ルキサン美術館にもはしごして(タクシーで10分)、カマサン・スタイル、バトゥアン・スタイルなどのバリ伝統絵画の作品を見て前半を補足すれば、あなたはもうかなりのバリ絵画通です。
ところで、ネカ美術館を出ると、目の前にBBQ屋さんがあります。ここから蒲焼き風のいいにおいが漂ってきて、ついふらふらと吸い寄せられてしまいます。でもここは観光客プライスなので、ぐっとこらえて、もう10分ほど坂道を下った左側にあるお店がおすすめです。ビンタンビールを飲んでBBQを色々頼んでも1人5〜600円もあればお腹いっぱいになります。是非お試しを。
バリ島美術館巡り① プリ・ルキサン美術館
こんにちは、坂本澄子です。今日からバリ島の美術館巡りを3回シリーズでお届けします。
ご紹介する3つの美術館はいずれもインドネシア共和国の教育・文化大臣により公式開館、財団により運営されていますが、それぞれコレクションにこだわり、特徴があります。プリ・ルキサン美術館は設立が最も古く、バリ伝統絵画を中心に作品を所蔵、ネカ美術館は戦後〜現代絵画に比重が置かれています。特に、オランダ人画家のアリー・スミットの作品及びその影響を受けたヤング・アーティストたちの作品は独立したパビリオンが設けられているほど充実。そして、最も新しいアルマ美術館は、絵画だけでなくバリの伝統舞踊や劇、ワークショップなどを通じて広くバリの伝統文化を発信しており、同じ精神で活動したバリ近代芸術の父ドイツ人ヴァルター・シュピースの功績も紹介されています。ありがたいことに、これらの美術館はパンフレットだけでなく、それぞれの作品解説に英語、インドネシア語と並んで日本語があり、作品の理解を深めるのにとてもよい環境です。ウブドを訪れたら、これらの美術館でぜひ本物のバリアートの世界に浸ってみて下さいね。
<プリ・ルキサン美術館の精神>
プリ・ルキサン美術館は1956年開館、オランダ人画家ルドルフ・ボネによる構想と所蔵絵画の寄贈で始まりました。その精神は1936年のピタ・マハ運動に遡ります。バリ島は1920年代に「最後の楽園」としてヨーロッパで脚光を浴びて以来の観光の島、バリ絵画はお土産品として人気が出ると、同じ図柄パターンでいわば流れ作業的に大量生産された粗悪品が出回るようになりました。これに対して、バリ伝統美術の保存と発展を使命として発足した芸術家たちのコミュニティが「ピタマハ芸術家共同体」です。この創設者がボネとシュピース、そこに当時のバリ絵画を代表する画家たちが加わりました。プリ・ルキサンとは「絵画の王宮」という意味、まさにこういった精神を受け継いでいるのです。
<充実した伝統絵画のコレクション>
バリ伝統絵画の土台となったカマサン・スタイルの17世紀初頭の作品やバトゥアン・スタイル、そして、西洋技法を取り入れ村人たちの日常の生活を描いたウブド・スタイルの作品が充実しています。闘鶏は最もポピュラーな題材で、男たちの興奮した表情や雄鶏の激しい動きが生き生きと描かれています。バトゥアン・スタイルはインド叙事詩の物語の場面を描いた作品が多く、私はこの分野にはあまり詳しくありませんが、薔薇色の瞳を持つ英雄ラーマ王。略奪されていたシーター妃を取り戻すシーンなど人気のある場面は色々な画家の作品に登場します。一度じっくり勉強し、またブログの中でご紹介したいと思っています。
このプリ・ルキサン美術館、ウブドの中心部の大変便利のよい場所にあります。入場料5万ルピア(約500円)でドリンクもついていますので、ショッピングに疲れたら是非立ち寄ってみて下さい。そして、この「バリアートショールーム」で扱っている画家の作品も見て来て下さいね。(ウィラナタ, ソキ, ガルー作品を所蔵)
7月10日〜15日のバリ絵画展「緑に抱かれる午後 〜 Deep into the Forest 〜」にも是非お越し下さい。
【お詫び】ネカ美術館の外観写真が誤って掲載されておりましたので、訂正致しました。(2013/06/21)
バリ絵画の遠近法
こんにちは、坂本澄子です。早いもので今日から6月。今年はとても早い梅雨入りでしたが、たまにカラッと晴れるとその分嬉しくなりますね。
さて、今回のウブド滞在中に改めて主要美術館を回ってみました。「バリアートショールーム」で扱っている作家の作品が美術館に展示されているのを見る度に、「おおお」と感動しては記念撮影。ちなみにバリの美術館ではフラッシュさえ使用しなければ個人で楽しむための撮影はOKです。
その時にちょっと発見がありました。風景画で用いられる遠近法についてです。シュピース・スタイルの作品など、遠近法を使って描かれた作品には独特の奥行きと空気感、そして幻想的な雰囲気を感じますよね。ネカ美術館の説明によると、バリ絵画の遠近法は西洋絵画の技法とは異なるのだそうです。前回に続き、ちょっとテクニカルなお話になりますが、作品を見る際に参考になると思いますので、しばらくおつきあい下さい。
普通、遠近法と言うと、この写真(Wikipediaから拝借しました)のように視点から遠ざかるに従って小さく描きますよね。ところがこの方法だと、強調したい物を手前に置かざるを得ないという構図上の制約が生じます。カマサン・スタイルを土台とするバリ伝統絵画では、絵巻物風に時間と空間を超越して描かれるため、遠大近小の構図も珍しくなく、西洋人画家たちが持ち込んだ遠近法とは相容れないものでした。
異なる時間軸と空間軸を一枚の絵に共存させたヴァルター・シュピース。彼の独特の構図などを研究しながら、この問題に対して、当時のウブドの画家たちはとてもユニークな解決策を見い出しました。ひとつは東洋古来の遠近法である「近くにある物をより下に、遠くにある物をより上に描く」というやり方。もうひとつが、遠いものほど輪郭や色のトーンをぼやかすことで遠近感を出す方法、これら2つの方法を融合して独自の遠近法を作り出していったのです。
このことを頭の片隅に置いてこの作品を見ていただけますか。「この絵は…」、そう、見覚えのある方も多いのでは。「バリアートショールーム」でも一番アクセスの多いガルー作「黄昏の静謐」です。私はこの作品をいつも真正面に立って見ていました。今一度、この作品の視点はどこにあるのだろうと考えた時、キャンバス左手前の家鴨使いの少年の背中をそのまま斜め手前にのばした位置にあると思い至ったのです。少年の背中越しに景色を見ると、全くと言っていい程、印象が違って見えました。これはぜひバリ絵画展で実物を見て確認していただきたいなと思います。この写真の角度です。
以前、ガルーさんとお話をした時、絵を描きながら、自分もこの風景の中にいるのだと言われていたことを思い出しました。きっとガルーさんはこの家鴨使いの少年に自身を投影していたのではないでしょうか。そんなことを思いながら作品を片付けようとしたとき、この発見が正しかったことがわかりました。キャンバスの裏面に画家自身の筆跡で「Pengembala itik (家鴨使い)」と書かれていたのです。こんな風に画家の視点がどこにあるかを少し意識するだけで、その作品の風景の中に自分自身も入って行けるなんて、ちょっとした小旅行気分になりませんか。
次回からバリ島の美術館案内をシリーズ掲載します。第一回はプリルキサン美術館です。お楽しみに。
エベンさんのバリ絵画描き方講座
こんにちは、坂本澄子です。先週のバリも暑かったですが、日本も負けず劣らず蒸し暑くなってきました。近畿と東海地方では早くも今日梅雨入りしたようですね。
今回バリに行って嬉しかったのは花鳥画家のエベンさんと再会できたこと。エベンさんは私が初めてバリを訪れた時に、四日間絵の弟子入りをした人(詳しくはコラムをご覧下さい)。彼の作品が私をウブドに導いてくれたのですから、私にとってある意味、特別な画家さんなのです。そんな訳で、ちょっとお恥ずかしいのですが、絵を習ったときの模写を例に、バリ絵画の典型的な描き方をご紹介したいと思います。制作過程を知っていただくことで、バリ絵画をさらに身近に感じていただければ幸いです。
まず鉛筆で下絵をしっかり描きます。次に黒で陰影をつけます。この時、水をたっぷり含ませたもう一本の筆でぼかすように濃淡をつけるのがポイント。乾いたら、その上に色を重ねます。基本的には背景→手前の順番に塗り重ねていきます。バリ絵画では多くの場合、アクリル絵の具を使います。水彩絵の具と同じように水で溶いて簡単に使える上に、乾くと耐水性なので、作品の美しさを長く保つことができるのです。
仕上げにバリ絵画に特徴的な竹筆が登場。作品に合わせて画家が自作するもので、この作品では、葉の輪郭や葉脈など強調したい箇所にシャープな線を描いたり、プルメリアやオウムのくちばしにハイライトを入れたりするのに使いました。これで絵にグッとメリハリがつきました。最後はエベンさんの作品の最大の特徴である野鳥の羽毛です。細い筆を使っておなかのふかふか感と翼のしなやかさを描き分けていきます。これで二羽のオウムがこの絵の主役になりました。完成〜。
この作品の原画と私の習作模写は今でも我が家に大事に飾ってあります。これを描いた時には、自分がバリ絵画を扱うようになるとは想像すらしていませんでした。思えば不思議な出会いです。これと前後してアートルキサンの木村さんとの出会いがあり、IT業界からバリ絵画という全く別の世界へ道が繋がってしまったのですから。私がこの年齢になってまったく違う世界に飛び込んだのを見て、以前の同僚は「意志あるところには道が拓けるね」と言ってくれました。次に会う時には「思い切ってやってみてよかったね」と言ってもらえるよう、さらに努力を重ねていきたいと思います。
久し振りにエベンさんを訪ねると、変わらぬ笑顔で迎えてくれました。少し前にお客様から「新築のリビングに飾る大きな絵」のご注文をいただき、制作をお願いした作品にかかっているところでした。4月の展示会でもエベン作品は人気が高かったので、7月のバリ絵画展「緑に抱かれる午後」も楽しみにしていて下さいね。